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「課長。」
「はい。」
砂川課長はパソコンから目を離さず返事をし、“あ。”というような顔で私のことを見上げた。
昔はこれで何度も女性社員達から注意をされていた砂川課長。
私と目が合ったことを確認し、課長補佐よりも偉く部長よりも人間としての優しさが強い砂川課長に吐き出す。
「私はもっとお仕事がしたいです。」
大きな声で吐き出す。
「経理の仕事もそうですし、それ以外のことも。」
「それ以外のこと?
具体的には何ですか?」
「分かりません。」
具体的な話は何もないけれど大きな大きな声で吐き出す。
“大きい声を出していこう、一美さん。
大きい声で言わないと何処にも届かないし誰にも届かない。”
こんなよく分からないワガママのような声を砂川課長に吐き出す。
この人はそれを聞き入れてくれるだけの優しさと器、そして能力を持っている人だから。
「私は譲社長がおっしゃる通り金庫番を目指します。
ですがお金を稼ぐことが出来る人間にもなりたいと思っています。」
ワガママを吐き出した私に砂川課長は意外にも満足そうな顔で頷いた。
「良いと思います。
羽鳥さんはこの中に閉じ込めておくには勿体無い人材なので。」
そして力強い顔で私のことを見上げ、口を開いた。
「俺がここにいる間、しっかりフォローをします。」
いつかこの経理部を離れる未来がある砂川課長がそう答えてくれた。
増田生命の財務部に必ず戻すという契約の元、砂川課長は今この椅子に座っている。
増田財閥の分家の人間が経理部の部長として引っ掻き回してしまった経理部という組織と経理部が預かっていたお金。
その経理部を当時の副部長が部長となり、そして当時の課長が“課長補佐”となった。
そんな2人の間に立ったのは増田生命の財務部の1社員だった“凄く変わっている”と言われていた砂川さん。
分家の人間達による不安定な社内政治から解放され、大規模な人事異動により新たな組織となった増田財閥の多くの企業。
経理部に残っていた社員、そして経理部に新たに配属になった社員、そのみんながモヤモヤとした感情をその胸に抱いていていたはずで。
そしてそれを“凄く変わっている”砂川課長にみんながぶつけてしまっていた。
受け取る人によっては耐えられないようなソレを砂川課長は耐え、それだけではなく自分自身も変えてみせた。
そんな砂川課長の姿にみんなの心は経理部の仕事だけではない満足感が得られた。
そんな“普通”ではい方法でみんなの鬱憤を晴らさせ、そして新しい組織の一体感まで作り上げることが出来る人材を配置させた譲社長はやっぱり怖い人でもある。
あんなに“怖い”とも思える譲社長から選ばれここに立たされた砂川課長が、実際にゆっくりと立ち上がった。
こんなにも不敵な笑顔で笑う砂川課長を見てそれには少し驚く。
「アパレル事業の方に行ってきます。」
「アパレル事業ですか?」
「使える物は使いましょう。」
「使える物・・・。」
繰り返した私に砂川課長が私のことをスッと指差した。
そして・・・
「その見た目。」
それには流石に驚く。
砂川課長はその指をそのまま異動させ、私の向こう側を指差した。
「それとあの2人。」
“あの2人”が福富さんと佐伯さんのことだとは分かる。
「稼ぎましょうか、経理部でも。」
そう言って楽しそうに笑う砂川課長。
この人は“凄く変わっている”人だったことを改めて思い出す。
あんなにも変わっていた人だったにも関わらず、砂川課長は増田生命の営業部で常に売上げ上位をキープしていた人でもあった。
“凄く変わっている”人だからこそ、この頭と口は普通には動かない。
「後になって“やっぱり嫌だ”は無しですよ?」
そう言われ、それには深く頷いた。
なんだか“いけないコト”をしてしまった気持ちになりながら。
でも、凄く凄くワクワクとしてくる気持ちにもなりながら。
「みなさん、羽鳥さんの声が聞こえましたよね?
うちの財閥のお嬢様が経理部としてもお金を稼ぎたいそうです。
フォローをお願い出来ますか?」
「羽鳥さんのフォローっていうより、羽鳥さんのことをフォローする課長のフォローですよね?」
「課長っていつもうちらがフォローをしてあげないと何も出来ない人ですからね!」
「可哀想だからフォローしてあげますよ~!
フォローしないと“課長”じゃなくてまたすぐに前の“砂川さん”に戻りそうですし!!」
仕事時間中に経理部の中で元気で楽しい声が響いた。
「はい。」
砂川課長はパソコンから目を離さず返事をし、“あ。”というような顔で私のことを見上げた。
昔はこれで何度も女性社員達から注意をされていた砂川課長。
私と目が合ったことを確認し、課長補佐よりも偉く部長よりも人間としての優しさが強い砂川課長に吐き出す。
「私はもっとお仕事がしたいです。」
大きな声で吐き出す。
「経理の仕事もそうですし、それ以外のことも。」
「それ以外のこと?
具体的には何ですか?」
「分かりません。」
具体的な話は何もないけれど大きな大きな声で吐き出す。
“大きい声を出していこう、一美さん。
大きい声で言わないと何処にも届かないし誰にも届かない。”
こんなよく分からないワガママのような声を砂川課長に吐き出す。
この人はそれを聞き入れてくれるだけの優しさと器、そして能力を持っている人だから。
「私は譲社長がおっしゃる通り金庫番を目指します。
ですがお金を稼ぐことが出来る人間にもなりたいと思っています。」
ワガママを吐き出した私に砂川課長は意外にも満足そうな顔で頷いた。
「良いと思います。
羽鳥さんはこの中に閉じ込めておくには勿体無い人材なので。」
そして力強い顔で私のことを見上げ、口を開いた。
「俺がここにいる間、しっかりフォローをします。」
いつかこの経理部を離れる未来がある砂川課長がそう答えてくれた。
増田生命の財務部に必ず戻すという契約の元、砂川課長は今この椅子に座っている。
増田財閥の分家の人間が経理部の部長として引っ掻き回してしまった経理部という組織と経理部が預かっていたお金。
その経理部を当時の副部長が部長となり、そして当時の課長が“課長補佐”となった。
そんな2人の間に立ったのは増田生命の財務部の1社員だった“凄く変わっている”と言われていた砂川さん。
分家の人間達による不安定な社内政治から解放され、大規模な人事異動により新たな組織となった増田財閥の多くの企業。
経理部に残っていた社員、そして経理部に新たに配属になった社員、そのみんながモヤモヤとした感情をその胸に抱いていていたはずで。
そしてそれを“凄く変わっている”砂川課長にみんながぶつけてしまっていた。
受け取る人によっては耐えられないようなソレを砂川課長は耐え、それだけではなく自分自身も変えてみせた。
そんな砂川課長の姿にみんなの心は経理部の仕事だけではない満足感が得られた。
そんな“普通”ではい方法でみんなの鬱憤を晴らさせ、そして新しい組織の一体感まで作り上げることが出来る人材を配置させた譲社長はやっぱり怖い人でもある。
あんなに“怖い”とも思える譲社長から選ばれここに立たされた砂川課長が、実際にゆっくりと立ち上がった。
こんなにも不敵な笑顔で笑う砂川課長を見てそれには少し驚く。
「アパレル事業の方に行ってきます。」
「アパレル事業ですか?」
「使える物は使いましょう。」
「使える物・・・。」
繰り返した私に砂川課長が私のことをスッと指差した。
そして・・・
「その見た目。」
それには流石に驚く。
砂川課長はその指をそのまま異動させ、私の向こう側を指差した。
「それとあの2人。」
“あの2人”が福富さんと佐伯さんのことだとは分かる。
「稼ぎましょうか、経理部でも。」
そう言って楽しそうに笑う砂川課長。
この人は“凄く変わっている”人だったことを改めて思い出す。
あんなにも変わっていた人だったにも関わらず、砂川課長は増田生命の営業部で常に売上げ上位をキープしていた人でもあった。
“凄く変わっている”人だからこそ、この頭と口は普通には動かない。
「後になって“やっぱり嫌だ”は無しですよ?」
そう言われ、それには深く頷いた。
なんだか“いけないコト”をしてしまった気持ちになりながら。
でも、凄く凄くワクワクとしてくる気持ちにもなりながら。
「みなさん、羽鳥さんの声が聞こえましたよね?
うちの財閥のお嬢様が経理部としてもお金を稼ぎたいそうです。
フォローをお願い出来ますか?」
「羽鳥さんのフォローっていうより、羽鳥さんのことをフォローする課長のフォローですよね?」
「課長っていつもうちらがフォローをしてあげないと何も出来ない人ですからね!」
「可哀想だからフォローしてあげますよ~!
フォローしないと“課長”じゃなくてまたすぐに前の“砂川さん”に戻りそうですし!!」
仕事時間中に経理部の中で元気で楽しい声が響いた。
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