【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

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24-10

翌日   4月1日



「増田生命の経理部より出向して参りました園江です。
経理部には3年所属しておりますが営業部上がりの人間ですのでご迷惑をお掛けすることもあるかと思いますが、よろしくお願いします。」



経理部の部屋、経理部に配属になった中途採用の2人の女の人の後に“純”も・・・園江さんも自己紹介をした。



ホワイトデーの夜に会った時よりも髪型やお化粧が綺麗にされているからか、この前よりもずっと“凄い”。



これは“凄い”としか言い現せられないくらいに“凄い”。



自己紹介を終えた園江さんは私の方を見ることはなかったけれど、全体に向かって柔らかく微笑んだ。



その笑顔を見て・・・



“マジでヤバい”としか思えなくて・・・。



必死に顔を作り“普通”の顔をしていた時・・・



「営業部上がりだとしても経理部で3年も働いてたら迷惑なんて掛けないのが普通じゃない？
わざわざそんなことを言うなんて迷惑を掛ける自信があるんだ？」



私の隣に立つ佐伯さんが大きな声でそう言った。



「はい、正直な話、迷惑を掛けてしまう自信があります。
増田生命の経理部では振り込みの入力や仕訳の入力くらいしか担当しておりませんでした。
それ以外のことは初めての経験になりますのでご迷惑をお掛けするかと思います。」



「経理部に3年もいて何でそんな経験しかしてないの？
今日で3年目になる私だってもっと色々やってるんだけど。
何でそんな経験しかしていないんだと思う？」



今朝佐伯さんから聞かされていた、園江さんの顔を“ぶっ潰す”やり方。
私だけではなく福富さんも佐伯さんから聞かされている。
そうでなければ福富さんは絶対に佐伯さんと喧嘩を始めてしまうからだと分かる。



「つまらない顔で仕事してたからじゃない？
そんな顔をしながら仕事をする人間に、仕事を教えて仕事を振る人間なんて今のうちのグループには存在してないはず。」



佐伯さんのよく通る声を聞き、思わず口を開きたくなってしまう。
園江さんを・・・“純”を助けたくなってしまう。



「ここでアナタの面倒を見なきゃいけない私だって何も教えたくないし何も仕事を振りたくない。
増田生命の経理部ではアナタに仕事を振ってたみたいだけど、ここではアナタみたいな人間が出来る仕事なんてない。
うちの経理部にはこの仕事を本気でやっている人間しかいない。」



佐伯さんのその言葉を聞き、私は背筋を伸ばした。



経理部は“逃げ場所”ではない。



会社の・・・財閥のお金を管理しているとても大切な場所。
休憩時間中やプライベートでは何か“いけないコト”をしている社員もいるかもしれない。
でも、就業時間中は本気で仕事をしている社員しかうちの経理部にはいない。



「アナタ、何でここに来たの？」



佐伯さんが園江さんにそう聞いた。



「何の為にここに来たの？」



園江さんは今回の話で会社を辞める意思があったと佐伯さんから報告は受けている。
でも佐伯さんは辞めさせるには勿体無い人材だと判断した。



“芸能人にいたっておかしくない人。
見た目だけではなくて顔も身体もちゃんとコントロールが出来る。”



そんなことを言って・・・



“私があの人を使い物になるようにするだけじゃなく、冒険をさせてから営業部に戻す。”



女優、和泉かおりの隠し子である佐伯さんが流石としか言いようがない名演技で園江さんを追い込むけれど、園江さんは一切動揺していない顔で佐伯さんのことを真っ直ぐと見詰め返している。



“私の下で悪いことも沢山させる。
園江さんのお兄さんから聞いた話では優しくて良い子な人らしいから。”



ホワイトデーの夜、数時間一緒にいただけで園江さんがとても良い子であることは私も分かった。



“良いことだけじゃなくて悪いこともしっかり経験するの。
この世界は弱肉強食。
良いことだけをしてきた人間は悪いこともしてきた人間に簡単に食われてしまうから。”



福富さんは佐伯さんのことを“性格が悪い”と返していたけれど、私は大きく頷き上司として了承をした。



上に立つ人間には周りを巻き込む大きなオーラが必要で。
そのオーラを持っている園江さんは本人が望めば上に立つことの出来る人。



でも・・・



上に立った時に見える景色、現れる人達、迫られる判断。
それらは“良いこと”だけをしてきた人には対応出来ないことも多く出てくる。



強くならなくてはいけない。



“ちょっと疲れた”と言って歩くのを止めてしまうことなど、上に立った時は簡単には言えなくなる。



“私をこの会社に置いてくれているお礼です。
この案件は私がきっちり引き取ります。”



綺麗で可愛く、魅力しかないような佐伯さんが放った綺麗な言葉。
なのに何故か不良に見えるような雰囲気を感じた。



「はい、3人ともこれからよろしくお願いします。」



突然、砂川課長の落ち着いた声が響いた。



佐伯さんからは、部長も課長も課長補佐も私も福富さんも、絶対に口出しをしないように言われていたのに。



少し遠くから見た砂川課長の横顔は、“普通”の顔に見えた。



身体の関係があったという園江さんのことを“普通”の顔で見ている。



うちの経理部に異動してきた時は“物凄く変わった男の人”だった砂川課長。
今の砂川課長ではなくあの砂川課長が“いけないコト”をしていたことには驚きしかない。



そして・・・



今はすっかり別人のようになっている“普通”の砂川課長を眺めながら、これからの2人のことをお節介にも心配をした。



「園江さん・・・“純”、ヤバくない！？
めっっちゃタイプ！！」



「分かる！！抱かれたい！！」



園江さんが佐伯さんといなくなった後、さっきの佐伯さんのことを言える範囲で部長が説明すると、他の女性社員達が園江さんのことで騒ぎ出した。
それに心の中で何度も頷きながら、幸治君とした昨晩の“いけないコト”を思い出してしまい、みんなに隠れながら物凄く熱くなった顔を扇いだ。