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21時過ぎ
「羽鳥さん、どう?」
経理部内、部長と私だけが残る部屋で部長から声を掛けられた。
「このチェックも終らせて砂川課長に戻したいと思っていますので、あと少し残っていてもよろしいですか?」
「俺は構わないけど、こんなに残業して羽鳥さんは大丈夫?」
「はい、私は1人でも大丈夫ですので部長も帰ってくださいね。
今日は結婚記念日ですよね?」
「よく覚えてるね。」
「去年の今日も遅くまで残業をしていて奥様から冷たい言葉を言われたと部署内の女性達にご相談されていたので。」
「そうそう!
奥さんと仲直りが出来たのはうちの部署の女性達のお陰だよ。
何かと厳しいご意見を頂けて日々感謝しております。」
「部長、私には全然相談してくれませんけどね?」
「羽鳥さんはお嬢様だからなー・・・。
俺の奥さんは普通の女の人だから。
でも・・・」
部長が優しい顔で、デスクに着いている私のことを見下ろし、缶コーヒーを私のデスクにコトッ──────...と置いた。
「最近は何でか“普通の女性”に見える瞬間もあるよ。
缶コーヒー、飲めるかな?」
「初めて飲みます・・・。
ありがとうございます。」
部長がデスクに置いてくれた缶コーヒーを両手で握り締めると、私の両手はじんわりと温かくなった。
「今日は助かったよ。
やっぱり、羽鳥さんは増田財閥の“普通のお嬢様”じゃないよね。」
「そうですか?」
「うん、上に立つ者の器が完成されてる。
羽鳥さんに声を上げられたら誰もが従ってしまうような、普通のお嬢様ではなくて上に立つことが出来るお嬢様。
他の分家の人達とは違うなとは思っていたけど、今日改めてそう思ったよ。
うちの財閥の分家の本来の姿を見たような気がするよ。」
「・・・分家の女は“良い男性”と結婚をして子どもを産み、本家の人間を支えることが出来る分家の者を育てることが本来の務めなんですけどね。
私はこの歳でまだ結婚も出来ていませんから、分家の女として本来の務めを果たせていないんです。」
「もう時代は変わったでしょ。
世間では女性も社会で活躍する時代になってる。
うちの財閥だけ遅れを取るようなことをあの譲社長がするわけないよ。」
部長が楽しそうに笑った後、なんでか困った顔で笑った。
「譲社長、羽鳥さんに“凄い名刺”まで作って俺に渡すように指示をしてきた時は驚いたよ。
無理矢理にでも羽鳥さんの意識を上げに来たなと思って砂川と心配をして。」
「譲社長は怖い人でもありますからね・・・。
ご迷惑をお掛けしました。」
「部下のことを考えることは上司の務めだから迷惑なんかじゃないよ。
でも、俺と砂川は譲社長の意図を汲み取れていなかったのだと今日分かったよ。
譲社長はあの名刺で羽鳥さんの意識を上げようとしたのではなく、羽鳥さんには既にあの“凄い名刺”の通りの器があると分かっていたんだろうね。」
驚く私に部長は少し意地悪な顔で笑った。
「とはいえ羽鳥さんもお年頃だから、プライベートも充実しなね!
仕事はこの先何十年も続くけど、プライベートでは今しか出来ないことが沢山あるから!」
部長が私の肩に優しくポンッ────...と手を添えてくれた。
ジャケットを羽織っていない肩にその温もりを感じていたら・・・
「あ!!!!ごめん!!
こういうのセクハラだよな!?
今の時代セクハラとパワハラには気を付けないといけないんだよ!!」
部長が大慌てで私の肩から手を退かした。
「でもさ、譲社長ってたまにパワハラしてくると思うのは俺だけ?」
「あれはパワハラどころか本物の攻撃ですね。
あの方はうちの財閥のことが憎くて仕方がない方なんです。
私達分家の人間が元会長からの指示で譲社長と元気君をあのようになるようにしたので。」
「恐ろしい人だよなー・・・。
これからうちのグループはどうなっていくんだろうな。」
部長の言葉に譲社長の姿を思い浮かべた。
そしたら自然と元気君の姿も思い浮かんできた。
元気君の姿に自然と笑顔になりながら部長に吐き出した。
「増田財閥の本家には譲社長だけではなく元気君がいます。
なので“元気”が増しますよ、うちの財閥は。」
「羽鳥さん、どう?」
経理部内、部長と私だけが残る部屋で部長から声を掛けられた。
「このチェックも終らせて砂川課長に戻したいと思っていますので、あと少し残っていてもよろしいですか?」
「俺は構わないけど、こんなに残業して羽鳥さんは大丈夫?」
「はい、私は1人でも大丈夫ですので部長も帰ってくださいね。
今日は結婚記念日ですよね?」
「よく覚えてるね。」
「去年の今日も遅くまで残業をしていて奥様から冷たい言葉を言われたと部署内の女性達にご相談されていたので。」
「そうそう!
奥さんと仲直りが出来たのはうちの部署の女性達のお陰だよ。
何かと厳しいご意見を頂けて日々感謝しております。」
「部長、私には全然相談してくれませんけどね?」
「羽鳥さんはお嬢様だからなー・・・。
俺の奥さんは普通の女の人だから。
でも・・・」
部長が優しい顔で、デスクに着いている私のことを見下ろし、缶コーヒーを私のデスクにコトッ──────...と置いた。
「最近は何でか“普通の女性”に見える瞬間もあるよ。
缶コーヒー、飲めるかな?」
「初めて飲みます・・・。
ありがとうございます。」
部長がデスクに置いてくれた缶コーヒーを両手で握り締めると、私の両手はじんわりと温かくなった。
「今日は助かったよ。
やっぱり、羽鳥さんは増田財閥の“普通のお嬢様”じゃないよね。」
「そうですか?」
「うん、上に立つ者の器が完成されてる。
羽鳥さんに声を上げられたら誰もが従ってしまうような、普通のお嬢様ではなくて上に立つことが出来るお嬢様。
他の分家の人達とは違うなとは思っていたけど、今日改めてそう思ったよ。
うちの財閥の分家の本来の姿を見たような気がするよ。」
「・・・分家の女は“良い男性”と結婚をして子どもを産み、本家の人間を支えることが出来る分家の者を育てることが本来の務めなんですけどね。
私はこの歳でまだ結婚も出来ていませんから、分家の女として本来の務めを果たせていないんです。」
「もう時代は変わったでしょ。
世間では女性も社会で活躍する時代になってる。
うちの財閥だけ遅れを取るようなことをあの譲社長がするわけないよ。」
部長が楽しそうに笑った後、なんでか困った顔で笑った。
「譲社長、羽鳥さんに“凄い名刺”まで作って俺に渡すように指示をしてきた時は驚いたよ。
無理矢理にでも羽鳥さんの意識を上げに来たなと思って砂川と心配をして。」
「譲社長は怖い人でもありますからね・・・。
ご迷惑をお掛けしました。」
「部下のことを考えることは上司の務めだから迷惑なんかじゃないよ。
でも、俺と砂川は譲社長の意図を汲み取れていなかったのだと今日分かったよ。
譲社長はあの名刺で羽鳥さんの意識を上げようとしたのではなく、羽鳥さんには既にあの“凄い名刺”の通りの器があると分かっていたんだろうね。」
驚く私に部長は少し意地悪な顔で笑った。
「とはいえ羽鳥さんもお年頃だから、プライベートも充実しなね!
仕事はこの先何十年も続くけど、プライベートでは今しか出来ないことが沢山あるから!」
部長が私の肩に優しくポンッ────...と手を添えてくれた。
ジャケットを羽織っていない肩にその温もりを感じていたら・・・
「あ!!!!ごめん!!
こういうのセクハラだよな!?
今の時代セクハラとパワハラには気を付けないといけないんだよ!!」
部長が大慌てで私の肩から手を退かした。
「でもさ、譲社長ってたまにパワハラしてくると思うのは俺だけ?」
「あれはパワハラどころか本物の攻撃ですね。
あの方はうちの財閥のことが憎くて仕方がない方なんです。
私達分家の人間が元会長からの指示で譲社長と元気君をあのようになるようにしたので。」
「恐ろしい人だよなー・・・。
これからうちのグループはどうなっていくんだろうな。」
部長の言葉に譲社長の姿を思い浮かべた。
そしたら自然と元気君の姿も思い浮かんできた。
元気君の姿に自然と笑顔になりながら部長に吐き出した。
「増田財閥の本家には譲社長だけではなく元気君がいます。
なので“元気”が増しますよ、うちの財閥は。」
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