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「そうなの・・・?」
驚きすぎてボールをかき混ぜる手を止め望さんを見る。
望さんはなんでか寂しそうな顔で笑い、ボールをかき混ぜ続けながら口を開いた。
「増田財閥の分家の人達も楽しく生きて良いとなっても、一美さんは“中華料理屋 安部”の人に会いに行くことはなかったので。」
「それは・・・うん。
私は分家の女として綺麗で正しく生きたかったから。」
「うちのお兄ちゃんに会いに行くこともなかったですし。」
「和希?
私は和希がどこに住んでるか知らないからね。」
「もしも一美さんから聞かれたら、私は教えようと思っていました。
でも一美さんは絶対にお兄ちゃんの住所を聞いてこなかったですし、“中華料理屋 安部”に会いに行ったような雰囲気もありませんでした。
毎日毎日、綺麗で正しい姿をしていました。」
望さんが悲しそうな顔で手を止め、ゆっくりと私のことを見てきた。
「見ていた私の方が泣きたくなるくらいに、一美さんも一平さんもいつだって綺麗で正しかった。」
そう言われ・・・
私は望さんに微笑んだ。
ずっと言いたかったことを言う為に。
きっと“いけないコト”だけど、今なら言っても良いような気がして、伝えた。
「私のお兄ちゃんはずっと望さんのことが好きだったんだと思うよ?
でも、お兄ちゃんも分家の男として綺麗で正しく生きる為にずっと気付かないフリをしてた。」
私だけではない。
お兄ちゃんだってずっと綺麗で正しく生きてきた。
望さんの気持ちにも気付かないフリをして。
それだけではなく、自分の気持ちにも気付かないフリを続けていた。
「はい、知っています。」
「知ってたの?
お兄ちゃん・・・望さんに何か言ったの?」
「一平さんは絶対に何も言いません。
とても優しい人なので・・・。
一平さんの気持ちが私のことを縛り付けてしまうかもしれないと、そんなことまで考えてくれるくらい優しい人なので。」
「うん、そうだと思う。」
「でも・・・」
望さんが言葉を切った後にまたボールに視線を移し、かき混ぜ始めた。
「そんな優しさ、私は全然嬉しくなかったです。
例え結ばれなかったとしても私は聞きたかった・・・。
一平さんの私への気持ちをちゃんと聞きたかった・・・。
一平さんはとても優しい人だけど全然優しくない。」
望さんがそう言って・・・
グラニュー糖が入っている容器を持ち上げ・・・
ドバ──────...と、追加で投入した。
それにも驚いていると・・・
「あんな優しさを押し付けられて、私は全然嬉しくなかった!!
あんな優しさなんて私は大嫌い!!
もう・・・一平さんなんて全然好きじゃないもん!!」
怒りながら私の方を向き大きな口を開いた。
「“中華料理屋 安部”の人、“公認会計士 安部”になってくれていて本当に良かったです!!
早く結婚して掴まえておいた方が良いですよ!?
一美さんはもう31歳なんですし!!」
怒りながらそんなことを言われ、それには大きく笑った。
驚きすぎてボールをかき混ぜる手を止め望さんを見る。
望さんはなんでか寂しそうな顔で笑い、ボールをかき混ぜ続けながら口を開いた。
「増田財閥の分家の人達も楽しく生きて良いとなっても、一美さんは“中華料理屋 安部”の人に会いに行くことはなかったので。」
「それは・・・うん。
私は分家の女として綺麗で正しく生きたかったから。」
「うちのお兄ちゃんに会いに行くこともなかったですし。」
「和希?
私は和希がどこに住んでるか知らないからね。」
「もしも一美さんから聞かれたら、私は教えようと思っていました。
でも一美さんは絶対にお兄ちゃんの住所を聞いてこなかったですし、“中華料理屋 安部”に会いに行ったような雰囲気もありませんでした。
毎日毎日、綺麗で正しい姿をしていました。」
望さんが悲しそうな顔で手を止め、ゆっくりと私のことを見てきた。
「見ていた私の方が泣きたくなるくらいに、一美さんも一平さんもいつだって綺麗で正しかった。」
そう言われ・・・
私は望さんに微笑んだ。
ずっと言いたかったことを言う為に。
きっと“いけないコト”だけど、今なら言っても良いような気がして、伝えた。
「私のお兄ちゃんはずっと望さんのことが好きだったんだと思うよ?
でも、お兄ちゃんも分家の男として綺麗で正しく生きる為にずっと気付かないフリをしてた。」
私だけではない。
お兄ちゃんだってずっと綺麗で正しく生きてきた。
望さんの気持ちにも気付かないフリをして。
それだけではなく、自分の気持ちにも気付かないフリを続けていた。
「はい、知っています。」
「知ってたの?
お兄ちゃん・・・望さんに何か言ったの?」
「一平さんは絶対に何も言いません。
とても優しい人なので・・・。
一平さんの気持ちが私のことを縛り付けてしまうかもしれないと、そんなことまで考えてくれるくらい優しい人なので。」
「うん、そうだと思う。」
「でも・・・」
望さんが言葉を切った後にまたボールに視線を移し、かき混ぜ始めた。
「そんな優しさ、私は全然嬉しくなかったです。
例え結ばれなかったとしても私は聞きたかった・・・。
一平さんの私への気持ちをちゃんと聞きたかった・・・。
一平さんはとても優しい人だけど全然優しくない。」
望さんがそう言って・・・
グラニュー糖が入っている容器を持ち上げ・・・
ドバ──────...と、追加で投入した。
それにも驚いていると・・・
「あんな優しさを押し付けられて、私は全然嬉しくなかった!!
あんな優しさなんて私は大嫌い!!
もう・・・一平さんなんて全然好きじゃないもん!!」
怒りながら私の方を向き大きな口を開いた。
「“中華料理屋 安部”の人、“公認会計士 安部”になってくれていて本当に良かったです!!
早く結婚して掴まえておいた方が良いですよ!?
一美さんはもう31歳なんですし!!」
怒りながらそんなことを言われ、それには大きく笑った。
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