【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

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「ただいま。」



「・・・あ、羽鳥さ・・・一美さん、お帰りなさい。」



家に帰り玄関の扉を開けると、丁度貴子さんが玄関にスリッパを並べているところだった。



「“羽鳥さん”のままでもいいよ？
私、“羽鳥さん”って呼ばれるのが好きなの。」



「じゃあ、“羽鳥さん”のままで。
“羽鳥さん”って凄く“羽鳥”っていう名字が似合ってますよね。
先ほど、伯父様夫婦がいらっしゃいましたよ。」



「スリッパありがとう。
オジサン達の対応もありがとうね。
・・・私が結婚したら“羽鳥さん”じゃなくなっちゃうけどね～。」



“小関”の“家”の長い廊下を貴子さんと歩きながら話す。
この家は“小関”の本家の家。
“小関”の長男であるお父さんのお兄さん夫婦には子どもが生まれず、“新しい妻を”と他の分家の人間達から言われる中、オジサンは奥さんと離婚することも養子を迎えることもなく、私のお父さんに“小関”の本家を譲った。



「羽鳥さんのお婿さんになってくれる男の人はどうですか？
そしたらずっと“羽鳥さん”ですよ？」



「お婿さんにならなくても増田財閥の為に動ける男の人とちゃんと結婚するよ。
それが分家の女としての務めだから。」



さっきから貴子さんが“何”を言いたいのか、私には分かっていた。
私を“羽鳥さん”と呼び続けようと、意図的に最初に間違えたのだと。



立ち止まり、貴子さんのことを真っ直ぐと見詰める。



「増田に入ってみて分かったよね？
うちの財閥の分家の人間はオジサン夫婦とうちの家族しかいない。」



「はい、一平さんから話は聞いていましたけど実際に入って驚きました。
分家の人間達だけではなく、こちらでいう“秘書”の人間も分家では“小関”の秘書だけしか残っていませんよね？」



「うん、そうなの・・・。
分家の人間達を永家に出向させる際、各“家”の秘書達を全員消したの、譲社長が。」



増田財閥の分家の“家”には、“秘書”と呼ばれる立場の“家”が古くから存在している。
この巨大な組織は、財閥の本家や分家の人間達だけで維持し発展を続けられる規模の“家”ではない。



「譲社長のことを翔子さんからも聞いていますけど、“秘書”達のことも許せなかったんですかね？」



「そういう個人的な感情というよりは、恐らく“使えない”と判断されたんだと思ってる。
“秘書”の役目は、遣えている“家”が分家の人間としての役目を果たしていけるよう支え、手となり足となり動くことでもあるから。
分家の人間達が本家の人間を支えるという役目を忘れ、それを正すことも出来なかった“秘書”の“家”を“加藤”以外全て切った、と・・・。」



小関の“家”に遣える“加藤”。
分家の“秘書”は今、うちの“加藤”しか存在していない。
全ての“秘書”でするようなことを“加藤”だけで回していることになっていて、長いこと見ていない2人の“加藤”のことを気に掛ける。



「“加藤さん”と“和希(かずき)”、今日はいるの？」



「はい、おりますよ、一美お嬢様。」



私の質問に答えたのは貴子さんではなく、淡々とした低い声の男の人。
その人の方を向くと・・・



「和希・・・。」



いつぶりか分からないくらい久しぶりに会った、私と同じ歳の和希がいた。



「お久しぶりです、一美お嬢様。」



お正月でもスーツを脱ぐこともない和希が、私に深く深くお辞儀をした。