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お兄ちゃんがそんな話をし始めたかと思ったら、梅田さんがまた楽しそうに笑い始めた。



「増田財閥の分家の人達ってみ~んな変にプライドが高いですよね。
プライドだけが高くて、高い所からしか世間を見たことがなくて。」



梅田さんがニコニコと笑いながらお父さんのことを見た。



「一平さんについては見たことも触れたこともないみたいでしたね、世間一般の“普通”のことを。」



そう言って、可愛らしい笑顔でお兄ちゃんに視線を移した。



「何もしたことなかったもんね?
“普通”のご飯屋さんでご飯を食べることも、“普通”のお店で買い物をすることも、“普通”の人達と“普通”の会話をすることも。」



「うん、そうだったね・・・。」



「その“普通”のことを知らない限り一平さんは仕事が出来ないままの奴だったので、私が“普通”のことを叩き込んじゃいました。
だって一平さんがうちのチームの足を引っ張って、チームの売上げが下がっちゃうんですもん。
半期の売上げが1番になったチームには特別賞が貰えて、私それを凄く楽しみにしてたんですよね。」



梅田さんがイタズラっ子のように笑いながらお父さんを見て、続けた。



「だから私自身が一平さんに叩き込んじゃったんです。
“普通”の恋愛のことも。
一平さんは一生懸命私のことを好きにならないようにしていましたけど、途中から私の方が一平さんのことを“普通”に好きになってしまって。
私は永家財閥の人間ですし、そのうえまだこんなに若くて、増田財閥のご迷惑でしたよね、ごめんなさい。」



梅田さんが深く頭を下げ、しばらくしてからゆっくりと頭を上げた。



「でも、一平さんが結構なお歳だから~・・・。」



少しむくれた顔でお父さんを見て、それからゆっくりと口を開いた。



「早く子どもを産まないと、一平さんがもっとオジサンになっちゃって子育て大変なんだもん。」



そんな発言には私は大笑いをしてしまった。
私だけではなくお母さんも。
お兄ちゃんは困った顔で笑っていて、お父さんは難しそうな顔で何かを考えている様子で。



大笑いをしながらも梅田さんの方を見る。



“そんなキャラだったっけ?”と思いながら。



私の視線に気付いた梅田さんがニコニコと笑いながら私の方を見た。



その顔は翔子さんとよく似ていた。
顔の造りではなく“強さ”を持つその顔がよく似ていた。



この世界は弱肉強食。
強い者しか生き残れない。



「・・・まぁ、分かった。
うちの財閥の分家の人間達のことはこっちでどうにかする。」



お父さんが渋々そう言って・・・



そしたら、梅田さんが・・・



「ありがとうございます~!!
うちの財閥でも動いてくれるみたいなので、きっと大丈夫ですよ!!」



そう言った。



永家財閥の分家の人間である梅田さんが。
永家財閥の本家の人間、翔子さんから物凄く可愛がられていた梅田さん。



梅田さん自身も“強い者”で、梅田さんの“家”も“強い者”。



お兄ちゃんと梅田さんが嬉しそうに笑い、見詰め合っているその姿を笑いながら眺めた。



“私はこんなに強い人間じゃないな”と思いながら。



それから幸治君のことを思い浮かべた。



思い浮かべてしまった。



そして“苦しい”と思った。



幸治君はどうやって私のことを守ってくれるのだろうと・・・。



そんなことが浮かんできてしまい、“苦しい”と思ってしまった。



増田財閥の他の分家の人間達から、幸治君はどうやって増田財閥と・・・そして私のことを守ってくれるのだろうと・・・。



そんなことを考えてしまった。



「私が強くならなきゃ・・・。」



お兄ちゃんと梅田さんと一緒に実家を出た後、小さく呟いた。



「一美さんはもう充分強い女性ですよ。」



梅田さんがいつものように“普通”に私にそう言ってきた。
それには思わず笑いながら梅田さんのことを見ると、力強い顔で私のことを見た。



「永家の人間達は一美さんが翔子さんよりも強い人間だと思ってますよ?」



そう言ってくれた後に優しい笑顔で私のことを見詰めた。



「でも、増田の分家として正しく生きすぎてしまった一美さんは一平さんと同じくきっと弱さも持った人でもあると思います。」



「うん、そうかも・・・。」



「それなのに今日は私達のことを助けようと来てくれてありがとうございました。」



「私、何もお父さんに言えなかったけどね?」



「私が負けそうになったらきっと助けてくれると思って心強かったです。
一平さんより一美さんって遥かに強くて仕事も出来る人なので。」



「・・・兄のことをよろしくお願いします。」



梅田さんに・・・貴子さんに深く深くお辞儀をした。
お兄ちゃんよりも私よりもずっと若くて、なのにお兄ちゃんや私よりも強いような貴子さんに。
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