上 下
202 / 585
14

14-8

しおりを挟む
チェックアウトの11時ギリギリまでベッドで横になり、それから軽くシャワーを浴びた後はドライヤーもしないまま、スキンケアもしないまま、いつもの服装で旅行鞄を持ち上げフラフラとしながらも病院の中庭のベンチまで歩いてきた。



ベンチにもたれ掛かるように座りながら12月の空を見上げ、寒い風に吹かれていく。
濡れたままの髪の毛が風になびいていき身体をもっと寒くするけれど、痛い頭にこの寒さは丁度良いとも思った。



「せっかくスイートルームを取ってくれたのに、寝室と浴室しか使わなかった・・・。」



夜に泊まるだけなのにあんなに良い部屋を取ってくれているとは思わず凄く驚いた。



「お金、大丈夫なのかな・・・。」



幸治君の所長さんのご両親の病院だという大きな病院、それを中庭から眺めながら呟いた。



そしたら・・・



「羽鳥さん・・・?」



聞き覚えのある女の子が私を呼び、その声の方をゆっくりと振り向いた。



回らない頭のままその女の子を眺め重い口を開く。



「佐伯さん。」



今度は私が佐伯さんの名前を呼ぶと、佐伯さんは大きな目をもっと見開き私のことを見ている。



そして・・・



「羽鳥さん、どうしたんですか・・・?
あ、具合が悪くなっちゃったんですよね、ここ病院ですし。」



そう聞かれ、私は素直に頷いた。



「うん、二日酔い。
でも病院には受診してなくて、ここで待ち合わせをしてて。」



「待ち合わせ・・・?
その格好でですか?
その服、男の人に借りた物ですよね?
例の彼氏さん?」



「うん、そう。」



「そうですよね、何度か羽鳥さんと街中でお会いしたことがありますけど、いつも“Hatori”ブランドの服を着ていましたし!!」



佐伯さんが物凄く安心した顔で笑い、私が座るベンチに歩いてきた。



その姿はまるで映画の1シーンかのようで。
それくらいにこの女の子は絵になっていた。



それくらいに人を惹き付ける雰囲気を持っている女の子だった。



明るく元気な福富さんとはまた違い、歩いているだけで目が離せないくらいの雰囲気のある女の子。



「佐伯さんはこの病院に通院してるんだ?」



私は譲社長のお父さんである増田社長から佐伯さんのことを頼まれていた。
それは仕事の面だけではなく健康面についても。
増田社長の幼馴染みの友達の娘さん、そんな遠いような縁で佐伯さんはうちの会社に入ってきて、増田社長は私に佐伯さんを頼んできた。



「はい、新卒の頃からまた通院することになりまして。」



「詳しいことは聞かされてないんだけど、その・・・大丈夫なの?」



「残念なことに大丈夫ですね。」



佐伯さんが可愛く笑いながらそんなことを言って、私の隣に座り空を見上げた。



「早く死にたいな。」



「そうなの?」



「羽鳥さんのそういうところ本当に好きです。
変にお説教してこないし頭ごなしに押し付けてこないし説得もしてこないし。」



「そういうことを私も親からされたことがあって、他の人にはしないようにしてるの。
・・・今一緒にいる男の子には昔からしちゃってるけどね。」



「私、お姉ちゃんがいたら羽鳥さんみたいなお姉ちゃんが欲しかったな。
幼馴染みのお兄ちゃんは2人いるし同じ歳の幼馴染みの男女は何人かいるけど、お姉ちゃんはいなかったんです。」



「一応姉妹みたいだよ?
増田ホールディングスの経理部の三姉妹って呼ばれてるんだって、私達。」



「・・・それって福富さんも入ってますよね?
福富さんとも姉妹とか嫌なんですけど。」



「本物の姉妹みたいだよ?」



「だから嫌なんですよ。」



空を見上げ続けたまま佐伯さんが呟いた。



「早く死んで生まれ変わりたい。
二十歳まで生きられないかもしれないって言われてたのにまだ生きてる。
不完全で醜い身体のまま、まだ生きちゃってる。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

今日のオツボネさん

菅田刈乃
大衆娯楽
このお話はフィクションです。あなたの身近にいるおばさんとは一切関係ありません。  (気が向いたら投稿)

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...