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25歳 3月10日、15時
今日は午前中に予定があったのでいつもよりも遅めに“中華料理屋 安部”の扉を開いた。
今日もやっぱり幸治君は私が来たことに気付いてくれることがなく、それが分かった時にやっと思い出す。
“扉、もっと大きな音で開かないと。”
静かな動作をするよう教育されていた私。
私が開く扉の音では幸治君は毎回私が来たことに気付いてくれない。
私に気付いてくれない。
それが凄く“苦しい”と思う。
なんでかいつも“苦しい”と思う。
でも、今日はいつもよりもずっと“苦しい”と思った。
だって、いつも私が座っているカウンター席には若い女の子が・・・高校生には見えない中学生くらいの女の子が幸治君と楽しそうに喋りながら座っていたから。
「幸治さん、全然連絡してくれないんだもん!!
連絡先渡してからずっと待ってたのに!!」
「だから、俺スマホ持ってないって言ってるじゃん。」
「そこに電話あるじゃないですか!!」
「この電話は店の電話。」
「じゃあ家の電話で連絡してくださいよ!!」
「それは無理。
電話するのもお金掛かるし、そもそもお前に電話する話もないし。」
「酷い・・・!!
平日も土日もこうやって店に通ってるのに!!」
「それはお前が俺の家に夜遅くまでいるから親に怒られたからだろ?」
「みんな幸治さんの帰りを夜遅くまで待っちゃってましたよね!!
今でも女の子達いるんですか?」
「俺の帰りを待ってるのかは知らないけど、夜遅くまで何人かいる。」
そんな会話を聞いて凄く驚いた。
凄く凄く驚いた。
「連絡先も受け取ってくれないでその場でチラッと見るだけで!!」
「だから、俺がスマホを持った時に覚えてたら連絡するって言っただろ。」
「そう言って、私の連絡先絶対覚えてないですよね!?
あんなチラッと見ただけで!!」
「それくらい覚えてられるだろ。」
幸治君がそう言った後、スラスラと電話番号を口にした。
「・・・凄い!!合ってます!!!
じゃあ、幸治さんがスマホを持った時に連絡先を覚えてたら絶対に連絡してくださいね!!」
「それはどうだろうな・・・。」
「なんですか、その反応~!!」
「お前ミーハーだし、高校に入ったらどうせここに通うこともなくなるだろ?」
「そんなことないですから!!
私、幸治さん一筋ですから!!
・・・これ、誕生日プレゼント!!
18歳の誕生日、おめでとうございます!!」
「・・・いらねーよ、そんな面倒なの持ってくるなよ。」
「私の誕生日プレゼントも欲しいとかそういうのじゃないので!!」
「だったら尚更そんな面倒な物を俺に押し付けてくるなよ。
今日はそんなのばっかりでマジで面倒なんだって。」
「他の女の子達も持ってきたんですか?」
「女の子達だけじゃなくオジサンもオバサンも持ってきた。
・・・お前の従姉も持ってきてたぞ?」
「従姉?どっちの?」
「オバサンの方。」
「どっちもオバサンだからそれじゃあ分かりませんよ!!」
「30歳の方。」
「幸治さんがオバサンって言ってたって言っちゃお~。」
「お前がいつもあの人のことをオバサンオバサン言ってるんだろ・・・っ」
幸治君が少し大きめに笑い、女の子が両手で持っているプレゼントを指差した。
「とにかく、バレンタインのチョコくらいなら受け取れるけど誕生日プレゼントとかは受け取れないから。」
「受け取ってくれるだけでいいのに~・・・。」
「喜んで受け取ってくれる男のことを追い掛けてろ。」
「え~・・・、でも幸治さん、今好きな女の子とかいないんですよね?」
女の子からのその言葉に私の心臓はドキドキと煩く鳴った。
幸治君は少し黙った後、静かに声を出した。
「例え好きな人がいても、こんな中華屋の俺が好きになったなんて相手には言えないし言いたくもない。
そんなの迷惑を掛けて困らせて俺から離れてしまうだけだから俺は絶対に言わない。
また会える未来があるなら、俺はずっとその想いを持ったまま我慢する。」
静かな声だけどハッキリと聞こえてきた。
私が聞くといつも“いない”とだけ言っていた幸治君が、この女の子にはそう返事をしていた。
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25歳 3月10日、15時
今日は午前中に予定があったのでいつもよりも遅めに“中華料理屋 安部”の扉を開いた。
今日もやっぱり幸治君は私が来たことに気付いてくれることがなく、それが分かった時にやっと思い出す。
“扉、もっと大きな音で開かないと。”
静かな動作をするよう教育されていた私。
私が開く扉の音では幸治君は毎回私が来たことに気付いてくれない。
私に気付いてくれない。
それが凄く“苦しい”と思う。
なんでかいつも“苦しい”と思う。
でも、今日はいつもよりもずっと“苦しい”と思った。
だって、いつも私が座っているカウンター席には若い女の子が・・・高校生には見えない中学生くらいの女の子が幸治君と楽しそうに喋りながら座っていたから。
「幸治さん、全然連絡してくれないんだもん!!
連絡先渡してからずっと待ってたのに!!」
「だから、俺スマホ持ってないって言ってるじゃん。」
「そこに電話あるじゃないですか!!」
「この電話は店の電話。」
「じゃあ家の電話で連絡してくださいよ!!」
「それは無理。
電話するのもお金掛かるし、そもそもお前に電話する話もないし。」
「酷い・・・!!
平日も土日もこうやって店に通ってるのに!!」
「それはお前が俺の家に夜遅くまでいるから親に怒られたからだろ?」
「みんな幸治さんの帰りを夜遅くまで待っちゃってましたよね!!
今でも女の子達いるんですか?」
「俺の帰りを待ってるのかは知らないけど、夜遅くまで何人かいる。」
そんな会話を聞いて凄く驚いた。
凄く凄く驚いた。
「連絡先も受け取ってくれないでその場でチラッと見るだけで!!」
「だから、俺がスマホを持った時に覚えてたら連絡するって言っただろ。」
「そう言って、私の連絡先絶対覚えてないですよね!?
あんなチラッと見ただけで!!」
「それくらい覚えてられるだろ。」
幸治君がそう言った後、スラスラと電話番号を口にした。
「・・・凄い!!合ってます!!!
じゃあ、幸治さんがスマホを持った時に連絡先を覚えてたら絶対に連絡してくださいね!!」
「それはどうだろうな・・・。」
「なんですか、その反応~!!」
「お前ミーハーだし、高校に入ったらどうせここに通うこともなくなるだろ?」
「そんなことないですから!!
私、幸治さん一筋ですから!!
・・・これ、誕生日プレゼント!!
18歳の誕生日、おめでとうございます!!」
「・・・いらねーよ、そんな面倒なの持ってくるなよ。」
「私の誕生日プレゼントも欲しいとかそういうのじゃないので!!」
「だったら尚更そんな面倒な物を俺に押し付けてくるなよ。
今日はそんなのばっかりでマジで面倒なんだって。」
「他の女の子達も持ってきたんですか?」
「女の子達だけじゃなくオジサンもオバサンも持ってきた。
・・・お前の従姉も持ってきてたぞ?」
「従姉?どっちの?」
「オバサンの方。」
「どっちもオバサンだからそれじゃあ分かりませんよ!!」
「30歳の方。」
「幸治さんがオバサンって言ってたって言っちゃお~。」
「お前がいつもあの人のことをオバサンオバサン言ってるんだろ・・・っ」
幸治君が少し大きめに笑い、女の子が両手で持っているプレゼントを指差した。
「とにかく、バレンタインのチョコくらいなら受け取れるけど誕生日プレゼントとかは受け取れないから。」
「受け取ってくれるだけでいいのに~・・・。」
「喜んで受け取ってくれる男のことを追い掛けてろ。」
「え~・・・、でも幸治さん、今好きな女の子とかいないんですよね?」
女の子からのその言葉に私の心臓はドキドキと煩く鳴った。
幸治君は少し黙った後、静かに声を出した。
「例え好きな人がいても、こんな中華屋の俺が好きになったなんて相手には言えないし言いたくもない。
そんなの迷惑を掛けて困らせて俺から離れてしまうだけだから俺は絶対に言わない。
また会える未来があるなら、俺はずっとその想いを持ったまま我慢する。」
静かな声だけどハッキリと聞こえてきた。
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