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秋
“中華料理屋 安部”のティーシャツにハーフパンツ、ブランドの鞄と高いヒールの靴、そこに幸治君から借りた薄いパーカーを羽織って待ち合わせ場所まで電車で移動し駅前に立つ。
日曜日のお昼前、オフィスの建物や大きな商業施設や小さめの遊園地、海も見える街へとやってきた。
午前中にお客さんの会社に訪問があるという幸治君と駅前で待ち合わせをしているのだけど・・・
スマホで時間を確認した後、そのスマホを鞄に仕舞った。
「こういう時、連絡を取り合えないのはちょっとね・・・。」
私達は今もスマホの連絡先を交換していない。
幸治君の連絡先は覚えているけれど、忘れてしまったという理由から始まった一緒に住むという“いけないコト”。
どちらも“連絡先を交換しておこう”という話はしていないまま“いけない関係”は続いていて、何かがあれば家電に電話をしたり伝言を残すようにしている。
私は定時には帰り土日も特に予定がないので、その家電を鳴らすのは幸治君だけになっているけれど。
待ち合わせ時間より10分遅れていることに不安になりながら、それでもジッと動くことなくこの場に立ち続ける。
そしたら、また・・・
「“中華料理屋 安部”って、ここら辺にある店なの?」
1人の男の人から声を掛けられてしまった。
「今誰かと待ち合わせ?
さっきも声掛けられて断ってたみたいだけど、全然来ないね。
それともこれから客の呼び込みの仕事?」
さっきと同じようなことを言われ、それには思わず苦笑いになる。
部屋着もプライベートの私服もこの姿でいるようになって、1人でこの姿で歩いていると以前よりも何倍も声を掛けられるようになっていた。
「これは私服でして。
“中華料理屋 安部”はもうありません。
今男の人と待ち合わせをしていますので。」
「・・・それ私服はマジでウケる!!
こんなに美人なのに私服がそれとかそのギャップ凄い好きなんだけど!!
でもそれ、サイズかなり大きいよね?
これから来る男の服?」
「はい。」
「ヤバいねその男。
その男からその格好するように強要されてたりするの?
お姉さん美人過ぎるからそういう格好するように、みたいな。」
「いえ、自分が着たいので着てるだけです。」
「・・・ウケる!!!」
男の人がさっきの男の人と同じくらい笑っていて、私は自分の姿を見下ろした。
そしたら、パーカーの隙間から“中華料理屋 安部”の文字が見えている。
「安部さん。」
急にこの男の人もそう言い出した。
それには思わず顔を上げ、さっきから視線を逸らしていたけれどちゃんと顔を見てしまった。
「本当の名前は何さん?」
そう聞かれ・・・
「安倍です・・・。」
なんでか“嬉しい”と思いながらまたそう答えた。
「結婚しているので、安倍です・・・。」
もう二度と会うことはないであろう人なので、今回もそう答える。
「マジか、人妻か~・・・。
こんなに美人で可愛いお姉さんと結婚出来る男って、相手どんな男なの?」
またそう聞かれた時・・・
「こんな男ですね。」
スーツ姿の幸治君が、秋なのに額に少し汗を滲ませながら現れそう言った。
“中華料理屋 安部”のティーシャツにハーフパンツ、ブランドの鞄と高いヒールの靴、そこに幸治君から借りた薄いパーカーを羽織って待ち合わせ場所まで電車で移動し駅前に立つ。
日曜日のお昼前、オフィスの建物や大きな商業施設や小さめの遊園地、海も見える街へとやってきた。
午前中にお客さんの会社に訪問があるという幸治君と駅前で待ち合わせをしているのだけど・・・
スマホで時間を確認した後、そのスマホを鞄に仕舞った。
「こういう時、連絡を取り合えないのはちょっとね・・・。」
私達は今もスマホの連絡先を交換していない。
幸治君の連絡先は覚えているけれど、忘れてしまったという理由から始まった一緒に住むという“いけないコト”。
どちらも“連絡先を交換しておこう”という話はしていないまま“いけない関係”は続いていて、何かがあれば家電に電話をしたり伝言を残すようにしている。
私は定時には帰り土日も特に予定がないので、その家電を鳴らすのは幸治君だけになっているけれど。
待ち合わせ時間より10分遅れていることに不安になりながら、それでもジッと動くことなくこの場に立ち続ける。
そしたら、また・・・
「“中華料理屋 安部”って、ここら辺にある店なの?」
1人の男の人から声を掛けられてしまった。
「今誰かと待ち合わせ?
さっきも声掛けられて断ってたみたいだけど、全然来ないね。
それともこれから客の呼び込みの仕事?」
さっきと同じようなことを言われ、それには思わず苦笑いになる。
部屋着もプライベートの私服もこの姿でいるようになって、1人でこの姿で歩いていると以前よりも何倍も声を掛けられるようになっていた。
「これは私服でして。
“中華料理屋 安部”はもうありません。
今男の人と待ち合わせをしていますので。」
「・・・それ私服はマジでウケる!!
こんなに美人なのに私服がそれとかそのギャップ凄い好きなんだけど!!
でもそれ、サイズかなり大きいよね?
これから来る男の服?」
「はい。」
「ヤバいねその男。
その男からその格好するように強要されてたりするの?
お姉さん美人過ぎるからそういう格好するように、みたいな。」
「いえ、自分が着たいので着てるだけです。」
「・・・ウケる!!!」
男の人がさっきの男の人と同じくらい笑っていて、私は自分の姿を見下ろした。
そしたら、パーカーの隙間から“中華料理屋 安部”の文字が見えている。
「安部さん。」
急にこの男の人もそう言い出した。
それには思わず顔を上げ、さっきから視線を逸らしていたけれどちゃんと顔を見てしまった。
「本当の名前は何さん?」
そう聞かれ・・・
「安倍です・・・。」
なんでか“嬉しい”と思いながらまたそう答えた。
「結婚しているので、安倍です・・・。」
もう二度と会うことはないであろう人なので、今回もそう答える。
「マジか、人妻か~・・・。
こんなに美人で可愛いお姉さんと結婚出来る男って、相手どんな男なの?」
またそう聞かれた時・・・
「こんな男ですね。」
スーツ姿の幸治君が、秋なのに額に少し汗を滲ませながら現れそう言った。
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