【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

Bu-cha

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突然出てきた予想もしていなかった“公認会計士 安部”。
驚くしかない私に幸治君は困った顔で笑いながら私の頬から両手を離した。



「俺を連れ出してくれた煩くて面倒でヤバい常連客が公認会計士で。
大手の監査法人に勤めてた人なんだけど独立するっていう時に俺を誘ってくれて。
自分のご飯を俺に作らせる為だけど、俺が二十歳の10月だったかな、その時に誘ってくれて。」



「そうだったんだ・・・。」



「高卒だし新聞配達と“中華料理屋 安部”の経験しかない俺が会計事務所で働くとか無理だろって思ったんだけどさ。」



「うん・・・。」



「なんていうか・・・」



幸治君が思い出し笑いのような笑い方で笑い出した。
凄く凄く楽しそうな顔で。



「あの人、自信しかないようなヤバい人なんだよな。
“俺を誰だと思ってんだよ”って、“俺だぞ?”って、そんな訳の分からない理由で上手くいくに決まってるって断言されて。」



その話には私も笑ってしまうと、幸治君も楽しそうに笑いながら私を見詰めた。



「1秒でも若いうちに勉強をして資格を取っておけって言われ続けて、事務所の立ち上げで死ぬほど忙しい中で仕事も覚えて仕事をこなして、あの人のご飯まで作って、夜間の専門学校で勉強までして。」



「それは大変だったね。」



「死ぬほど大変だった。
若かったから生きてたけど、今もう1度同じことをやれって言われても出来ない。」



「そっか。」



笑いながら返事をすると、幸治君が真剣な顔になり右手を私の方に伸ばしてきた。



そして・・・



私か着ている“中華料理屋 安部”のティーシャツにソッと触れた。



「再会した“普通の幸治君”のことも好きでしたよね?」



そう聞かれ・・・



何も答えられない私に幸治君は続ける。



「“普通の幸治君”に言ってみればよかったのに。
“好き”だって。」



「そんなこと・・・言わないよ・・・。」



そう答えた瞬間、また沢山の涙が溢れてきた。



「俺だと守ることもお金を沢山稼ぐことも出来ないと思った?」



そう聞かれてしまい、私はやっぱり何も言えなくなる。



「一美さんが支える財閥を守って、財閥の為にお金を沢山稼ぐことが俺には出来ないと思ってた?」



そう聞かれ・・・



そう聞かれてしまって・・・



「だって・・・私はそうやって育てられてきたから・・・。
24歳の時に両親が離婚をして“羽鳥一美”になったけど、財閥の分家の女として生きることを選んだから・・・。
1年前から分家の女としての役割なんて求められなくなったけど、私はそうやって育てられてそうやって生きることを選んできたから・・・っ。」



「うん。」



「財閥の為ではなく私の為に生きることになっても、私は財閥の為に生きる分家の女でいることは変えられない・・・っ!!
それが私の為に生きることでもあるから変えたくない・・・っ!!
じゃないとこれまでの私の人生が全く無意味だったことになる・・・っ!!」



「うん。」



優しい顔で頷く幸治君に泣きながら吐き出す。



「“あの日”、“中華料理屋 安部”を振り返ることなく歩き続けた私の人生が全く無意味だったことになる・・・っ!!
何度も何度も我慢したの・・・っ!!
私、本当は“あの時”振り向きたかった・・・!!
私、本当は“中華料理屋 安部”に行きたかった・・・!!
ずっとずっと行きたかった・・・!!
福富さんから“中華料理屋 安部”は閉店したって聞いた時、凄く苦しかった・・・!!
幸治君はもう待ってないって分かって苦しかった・・・!!
幸治君はもう私のことを待ってないって・・・幸治君は“ラーメン 安部”で新しい人生を歩き出したって知って苦しかった・・・!!!」
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