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そう言われてしまい、私は自分の姿を見下ろしながら聞く。
「ティーシャツをお腹に仕舞ってないけど、仕舞った方がいいかな?」
「そういう問題じゃないから・・・!!
俺、化粧とか服とかそういうの全然分からないけど、それはどっちだとしてもヤバいってことは分かるから!!」
「何で?洋服は全然ヤバくないよ。
髪の毛をセットしていないのとお化粧もしていないのはヤバいけど、洋服は別にヤバくないよ?」
「それこそどんな基準だよ・・・!?」
「どんな基準って・・・。」
“中華料理屋 安部”のティーシャツを見下ろしながら自然と笑顔になる・・・いや、多分ニヤニヤとした顔になっている。
その顔のままで幸治君にまた視線を戻し、伝える。
「幸治君がこのティーシャツを着てた姿は凄く格好良かったよ?
だからこのティーシャツが私も着られて嬉しい。
私が持ってるどんな洋服よりも1番素敵な洋服だよ?
だから今日はこれで出掛けたいの。
今日はっていうより・・・まだこのティーシャツ何枚か残ってるかな?
私の私服に貰ってもいい?」
瞳が揺れている幸治君にニヤニヤと笑い掛けながら、ティーシャツをお腹に仕舞ってみた。
「こっちの方がいいかな?」
「・・・それだったら出してた方がまだマシ。」
幸治君からそんなアドバイスを貰え、またティーシャツをお腹から出した。
それからまた幸治君に笑い掛けると、幸治君の瞳は揺れることなく真っ直ぐと私を見ている。
「俺は“中華料理屋 安部”のことを嫌いになったことはなかったですけど、そのティーシャツは嫌いでした。
“普通”以下の男だとデカデカと自己紹介をしているみたいで、そのティーシャツが嫌いで。」
「そうだったの?それは知らなかった。」
幸治君が私のことを真っ直ぐと見ながらゆっくりと近付いてきた。
「“中華料理屋 安部”は、いつもあの店の扉の外に出ることは出来ませんでした。
あの扉を出てお嬢様に戻る羽鳥さんの隣を歩いて駅まで送るくらいのことも出来ませんでした。
俺はあの店でしか羽鳥さんと一緒にいることが出来ない“普通”以下の男子高校生で。
俺の18の誕生日の日、“最後”にしようとした羽鳥さんを追うことも出来ませんでした。
あの扉の所から叫ぶことしか出来ませんでした。」
「うん・・・叫んでたね。」
「聞こえてましたか・・・?
ちゃんと、聞こえてましたか・・・?」
「うん、聞こえてたよ。」
「そうですよね・・・だから来てくれたんですよね・・・。
俺の為に出来ることをしてくれる為に、また俺に会いに来てくれたんですよね・・・。
“最後”のつもりで・・・。」
その言葉に頷くと、幸治君も小さく頷いた。
身体と身体が触れ合うくらい近くまで歩いてきて、私のことを熱の籠った目で見下ろしてくる。
「このティーシャツを着てる一美さん、ヤバい格好ですけどめちゃくちゃ可愛いです。
綺麗な服よりもスーツ姿よりも、俺が嫌いだったこのティーシャツ姿が1番可愛い格好なんですけど。」
「それなら良かった。」
凄く嬉しくなりニヤニヤと笑いながら幸治君を見上げると、幸治君の両手がゆっくりと私の腰に回り・・・
ソッと引き寄せられた。
「“ヤバい格好”ではなく“いけない格好”くらいには見えてきました。」
「1番可愛い格好なんじゃないの?」
「着てるのが一美さんだから俺にとっては1番可愛い格好に見えますけど、客観的に見たらやっぱりヤバい格好だとは思いますよ。」
そう言って・・・
私の顔に顔をゆっくりと下ろしてきた。
瞼を下ろしている目は私の唇を見ているのが分かる。
初めて幸治君と“いけないコト”をしてから今日までの数日、毎日のようにこういうことはしている。
でも、私の唇に幸治君の唇が触れることはないし、私の身体の下半身には触れることもない。
「“普通の一美さん”の旦那として振る舞っていいんですよね・・・?」
「うん。」
いつものように唇と唇がつきそうな時、そう聞かれた。
そして・・・
「じゃあ・・・キスも“普通”にしていいですか・・・?」
そう聞かれ・・・
そう聞いてくれて・・・
「う・・・・・・ンッ」
“うん”と言い切る前に、私の唇を幸治君の唇で塞がれた。
ソッとどころか、勢い良く塞がれた。
「ティーシャツをお腹に仕舞ってないけど、仕舞った方がいいかな?」
「そういう問題じゃないから・・・!!
俺、化粧とか服とかそういうの全然分からないけど、それはどっちだとしてもヤバいってことは分かるから!!」
「何で?洋服は全然ヤバくないよ。
髪の毛をセットしていないのとお化粧もしていないのはヤバいけど、洋服は別にヤバくないよ?」
「それこそどんな基準だよ・・・!?」
「どんな基準って・・・。」
“中華料理屋 安部”のティーシャツを見下ろしながら自然と笑顔になる・・・いや、多分ニヤニヤとした顔になっている。
その顔のままで幸治君にまた視線を戻し、伝える。
「幸治君がこのティーシャツを着てた姿は凄く格好良かったよ?
だからこのティーシャツが私も着られて嬉しい。
私が持ってるどんな洋服よりも1番素敵な洋服だよ?
だから今日はこれで出掛けたいの。
今日はっていうより・・・まだこのティーシャツ何枚か残ってるかな?
私の私服に貰ってもいい?」
瞳が揺れている幸治君にニヤニヤと笑い掛けながら、ティーシャツをお腹に仕舞ってみた。
「こっちの方がいいかな?」
「・・・それだったら出してた方がまだマシ。」
幸治君からそんなアドバイスを貰え、またティーシャツをお腹から出した。
それからまた幸治君に笑い掛けると、幸治君の瞳は揺れることなく真っ直ぐと私を見ている。
「俺は“中華料理屋 安部”のことを嫌いになったことはなかったですけど、そのティーシャツは嫌いでした。
“普通”以下の男だとデカデカと自己紹介をしているみたいで、そのティーシャツが嫌いで。」
「そうだったの?それは知らなかった。」
幸治君が私のことを真っ直ぐと見ながらゆっくりと近付いてきた。
「“中華料理屋 安部”は、いつもあの店の扉の外に出ることは出来ませんでした。
あの扉を出てお嬢様に戻る羽鳥さんの隣を歩いて駅まで送るくらいのことも出来ませんでした。
俺はあの店でしか羽鳥さんと一緒にいることが出来ない“普通”以下の男子高校生で。
俺の18の誕生日の日、“最後”にしようとした羽鳥さんを追うことも出来ませんでした。
あの扉の所から叫ぶことしか出来ませんでした。」
「うん・・・叫んでたね。」
「聞こえてましたか・・・?
ちゃんと、聞こえてましたか・・・?」
「うん、聞こえてたよ。」
「そうですよね・・・だから来てくれたんですよね・・・。
俺の為に出来ることをしてくれる為に、また俺に会いに来てくれたんですよね・・・。
“最後”のつもりで・・・。」
その言葉に頷くと、幸治君も小さく頷いた。
身体と身体が触れ合うくらい近くまで歩いてきて、私のことを熱の籠った目で見下ろしてくる。
「このティーシャツを着てる一美さん、ヤバい格好ですけどめちゃくちゃ可愛いです。
綺麗な服よりもスーツ姿よりも、俺が嫌いだったこのティーシャツ姿が1番可愛い格好なんですけど。」
「それなら良かった。」
凄く嬉しくなりニヤニヤと笑いながら幸治君を見上げると、幸治君の両手がゆっくりと私の腰に回り・・・
ソッと引き寄せられた。
「“ヤバい格好”ではなく“いけない格好”くらいには見えてきました。」
「1番可愛い格好なんじゃないの?」
「着てるのが一美さんだから俺にとっては1番可愛い格好に見えますけど、客観的に見たらやっぱりヤバい格好だとは思いますよ。」
そう言って・・・
私の顔に顔をゆっくりと下ろしてきた。
瞼を下ろしている目は私の唇を見ているのが分かる。
初めて幸治君と“いけないコト”をしてから今日までの数日、毎日のようにこういうことはしている。
でも、私の唇に幸治君の唇が触れることはないし、私の身体の下半身には触れることもない。
「“普通の一美さん”の旦那として振る舞っていいんですよね・・・?」
「うん。」
いつものように唇と唇がつきそうな時、そう聞かれた。
そして・・・
「じゃあ・・・キスも“普通”にしていいですか・・・?」
そう聞かれ・・・
そう聞いてくれて・・・
「う・・・・・・ンッ」
“うん”と言い切る前に、私の唇を幸治君の唇で塞がれた。
ソッとどころか、勢い良く塞がれた。
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