62 / 585
5
5-3
しおりを挟む
幸治君のその言葉には驚き、顔を上げた。
「羽鳥さんが俺のことも考えて“中華料理屋 安部”を終わりにしたんだろうなとは分かっていました。
分かっていましたけど・・・」
幸治君は下を向き、私の両手から抜き取った私の飲み物を見下ろしている。
「俺は羽鳥さんと会いたかったです。
“中華料理屋 安部”が羽鳥さんとどうにかなれるなんて本気で思ってたわけないじゃないですか。
たまに想像して・・・1人で“いけないコト”をしていただけです。
たまに夢に見ていただけです。」
苦しそうな顔で幸治君が続ける。
「“中華料理屋 安部”の俺が羽鳥さんと会えるのはあの場所だけだったのに。
俺はあの場所で毎週末羽鳥さんが現れてくれるのを待つだけしか出来ないただの男子高校生で・・・。
いや、“ただの男子高校生”でもないですね。
俺は“普通”以下の男子高校生だったので。」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことありますよ。
俺は羽鳥さんにラーメン1杯ご馳走することも、羽鳥さんにハンカチ1枚買うことも出来ませんでした。
あんなハンカチ高すぎて、“中華料理屋 安部”には買えるような値段ではなかったです。」
小さく笑いながら、下を向きながら、幸治君が吐き出していく。
「俺が羽鳥さんのことを女の人として好きだって分かっていても、俺が羽鳥さんの“いけないコト”をする相手になりたいと思っていると分かっていても、離れていかないで欲しかったです。
ずっと我慢出来ました、俺。
羽鳥さんと会えるなら俺はどんな我慢でもするつもりでした。」
そう言いながらも幸治君は苦しそうな顔をしている。
その横顔は凄く凄く苦しそうで・・・。
「羽鳥さんが他の男と婚約しても結婚しても、その男との子どもを産んでも。
俺はずっと我慢していくつもりでした。
それで羽鳥さんが“中華料理屋 安部”に来てくれるなら、俺はどんな我慢もしていくつもりでした。」
「幸治君・・・。」
「でも・・・俺が悪いんですけどね。
全部、俺が悪いんですけどね。」
その言葉を聞き、私は首を横に振る。
でも下を向いている幸治君には見えていない。
それが分かり、私は幸治君の左手を少しだけ握った。
「“中華料理屋 安部”に行くのを終わりにしたのは、私のエゴの押し付けだけじゃないよ。」
私の言葉で幸治君がやっと少し顔を上げた。
そんな幸治君の顔を見上げながら私は吐き出す。
「私はお嬢様だからね?
政略結婚もあり得るお嬢様。
それもあの時、うちの財閥は危ない状態で。
だから政略結婚は可能性として低くないと思ってた。」
幸治君の大きくて熱い左手を少し強く握り、吐き出す。
「幸治君の気持ちを知って、“いけないコト”をしてしまいそうな私がいた。
高校生の男の子、それも財閥とは何の関係もない家の男の子に、7歳も年上のお嬢様は“いけないコト”をしてしまいそうだった。」
「羽鳥さんが俺のことも考えて“中華料理屋 安部”を終わりにしたんだろうなとは分かっていました。
分かっていましたけど・・・」
幸治君は下を向き、私の両手から抜き取った私の飲み物を見下ろしている。
「俺は羽鳥さんと会いたかったです。
“中華料理屋 安部”が羽鳥さんとどうにかなれるなんて本気で思ってたわけないじゃないですか。
たまに想像して・・・1人で“いけないコト”をしていただけです。
たまに夢に見ていただけです。」
苦しそうな顔で幸治君が続ける。
「“中華料理屋 安部”の俺が羽鳥さんと会えるのはあの場所だけだったのに。
俺はあの場所で毎週末羽鳥さんが現れてくれるのを待つだけしか出来ないただの男子高校生で・・・。
いや、“ただの男子高校生”でもないですね。
俺は“普通”以下の男子高校生だったので。」
「そんなことないよ・・・。」
「そんなことありますよ。
俺は羽鳥さんにラーメン1杯ご馳走することも、羽鳥さんにハンカチ1枚買うことも出来ませんでした。
あんなハンカチ高すぎて、“中華料理屋 安部”には買えるような値段ではなかったです。」
小さく笑いながら、下を向きながら、幸治君が吐き出していく。
「俺が羽鳥さんのことを女の人として好きだって分かっていても、俺が羽鳥さんの“いけないコト”をする相手になりたいと思っていると分かっていても、離れていかないで欲しかったです。
ずっと我慢出来ました、俺。
羽鳥さんと会えるなら俺はどんな我慢でもするつもりでした。」
そう言いながらも幸治君は苦しそうな顔をしている。
その横顔は凄く凄く苦しそうで・・・。
「羽鳥さんが他の男と婚約しても結婚しても、その男との子どもを産んでも。
俺はずっと我慢していくつもりでした。
それで羽鳥さんが“中華料理屋 安部”に来てくれるなら、俺はどんな我慢もしていくつもりでした。」
「幸治君・・・。」
「でも・・・俺が悪いんですけどね。
全部、俺が悪いんですけどね。」
その言葉を聞き、私は首を横に振る。
でも下を向いている幸治君には見えていない。
それが分かり、私は幸治君の左手を少しだけ握った。
「“中華料理屋 安部”に行くのを終わりにしたのは、私のエゴの押し付けだけじゃないよ。」
私の言葉で幸治君がやっと少し顔を上げた。
そんな幸治君の顔を見上げながら私は吐き出す。
「私はお嬢様だからね?
政略結婚もあり得るお嬢様。
それもあの時、うちの財閥は危ない状態で。
だから政略結婚は可能性として低くないと思ってた。」
幸治君の大きくて熱い左手を少し強く握り、吐き出す。
「幸治君の気持ちを知って、“いけないコト”をしてしまいそうな私がいた。
高校生の男の子、それも財閥とは何の関係もない家の男の子に、7歳も年上のお嬢様は“いけないコト”をしてしまいそうだった。」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる