61 / 585
5
5-2
しおりを挟む
数分後
幸治君から貰った飲み物をゆっくりと飲みながら、幸治君と他愛もない話を沢山しながら宛もなく街を歩いた。
そして、飲み物を全部飲み終わり・・・
夕陽が沈む色から夜の色に空が移り変わっていくのを見上げながら、私は言った。
「「お腹空いた。」」
吐き出した私の言葉は幸治君と重なり、これには面白くて幸治君を見上げた。
そしたら幸治君も私を見下ろしていて。
身体を寄せ合い、顔も寄せ合い、2人で笑い合った。
「羽鳥さん、何系食べたいですか?」
「凄くお腹が空いてるから何でも美味しく感じられそう。」
「じゃあ、消去法で。
俺はパン系は違いますね。」
「それは私も。」
「洋食もちょっと違います。
米をガッツリ食べたいです、めちゃくちゃお腹空いてます。」
幸治君はそう言った後、パッと顔を輝かせた。
「俺、行ってみたい店があって。
お客さんから教えて貰った店なんですけど、煩くて面倒でヤバい人は食べられない料理なのでいつも却下されていて。
とんかつ、大丈夫ですか?」
「うん、行きたい!
とんかつは久しぶりに食べる!」
「電車で少し移動しますけど・・・。」
私の足元に視線を移した幸治君が心配そうな顔になった。
「ずっと歩きっぱなしですけど、足大丈夫ですか?」
「うん、ヒールの靴で歩くのは慣れてるから。」
「スニーカーも欲しいって言ってましたよね。」
「うん、とんかつを食べた後に靴屋さんにも行きたい!」
「はい、付き合います。」
幸治君が嬉しそうに笑って頷いた。
その顔を見て私は素直に吐き出す。
「とんかつのお店を教えてくれたお客さんって、咲希ちゃんがすすめてくれたお店の女の子達?」
「いや、あの人達じゃないです。
女の人が行くようなお店じゃないですし。」
「幸治君って嘘つき。
女の子、あんなに沢山いるのに。」
「あんなに沢山って?」
「みんな幸治君のことを狙ってそうだったよ?」
「それはない。
みんな俺の職場のトップの人に言い寄ってるので。
俺のことはからかって楽しんでるだけですよ。」
さっきの光景を思い出し、その言葉を聞いてもなんでか“苦しい”と思う。
「羽鳥さんだって俺のことをからかって楽しんでたじゃないですか。
みんなそんな感じです。」
そう言われ・・・
「それならみんな幸治君のことが好きってことでしょ?」
なんでかこんなに“苦しい”と思いながら幸治君を見上げる。
「私は“中華料理屋 安部”のことが大好きだったもん。」
“苦しい”と思いながら吐き出した言葉に、幸治君の瞳は大きく揺れた。
それから嬉しそうな顔で私を見下ろして。
「“中華料理屋 安部”のことをあんなに好きでいてくれたのは羽鳥さんだけですよ。
あの煩くて面倒でヤバい人より、羽鳥さんは“中華料理屋 安部”を好きでいてくれたので。」
「・・・その人も常連さんだったの?」
「そうですね。
それで俺を“中華料理屋 安部”から連れ出してくれました。」
「・・・でも、その人よりも私の方が“中華料理屋 安部”のことが絶対に好きだったよ?
“中華料理屋 安部”のこともちゃんと考えてたよ?
だから私は独占なんてしなかった。」
幸治君が高校3年生、高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”から離れた。
幸治君が私のことを異性として好きなのだと分かったから。
その時のことを思い出すとなんでか泣きそうになり、慌てて下を向く。
そしたら、見えた。
まだ捨てていなかった幸治君から貰った飲み物、カップにささっているストローの先が。
幸治君が口をつけていたストローの先が。
それを見下ろしているとどんどん苦しくなってくる。
息が止まってしまうのではないかと思うくらい苦しくなってくる。
「でもそれは羽鳥さんのエゴの押し付けでした、俺からすると。」
幸治君から貰った飲み物をゆっくりと飲みながら、幸治君と他愛もない話を沢山しながら宛もなく街を歩いた。
そして、飲み物を全部飲み終わり・・・
夕陽が沈む色から夜の色に空が移り変わっていくのを見上げながら、私は言った。
「「お腹空いた。」」
吐き出した私の言葉は幸治君と重なり、これには面白くて幸治君を見上げた。
そしたら幸治君も私を見下ろしていて。
身体を寄せ合い、顔も寄せ合い、2人で笑い合った。
「羽鳥さん、何系食べたいですか?」
「凄くお腹が空いてるから何でも美味しく感じられそう。」
「じゃあ、消去法で。
俺はパン系は違いますね。」
「それは私も。」
「洋食もちょっと違います。
米をガッツリ食べたいです、めちゃくちゃお腹空いてます。」
幸治君はそう言った後、パッと顔を輝かせた。
「俺、行ってみたい店があって。
お客さんから教えて貰った店なんですけど、煩くて面倒でヤバい人は食べられない料理なのでいつも却下されていて。
とんかつ、大丈夫ですか?」
「うん、行きたい!
とんかつは久しぶりに食べる!」
「電車で少し移動しますけど・・・。」
私の足元に視線を移した幸治君が心配そうな顔になった。
「ずっと歩きっぱなしですけど、足大丈夫ですか?」
「うん、ヒールの靴で歩くのは慣れてるから。」
「スニーカーも欲しいって言ってましたよね。」
「うん、とんかつを食べた後に靴屋さんにも行きたい!」
「はい、付き合います。」
幸治君が嬉しそうに笑って頷いた。
その顔を見て私は素直に吐き出す。
「とんかつのお店を教えてくれたお客さんって、咲希ちゃんがすすめてくれたお店の女の子達?」
「いや、あの人達じゃないです。
女の人が行くようなお店じゃないですし。」
「幸治君って嘘つき。
女の子、あんなに沢山いるのに。」
「あんなに沢山って?」
「みんな幸治君のことを狙ってそうだったよ?」
「それはない。
みんな俺の職場のトップの人に言い寄ってるので。
俺のことはからかって楽しんでるだけですよ。」
さっきの光景を思い出し、その言葉を聞いてもなんでか“苦しい”と思う。
「羽鳥さんだって俺のことをからかって楽しんでたじゃないですか。
みんなそんな感じです。」
そう言われ・・・
「それならみんな幸治君のことが好きってことでしょ?」
なんでかこんなに“苦しい”と思いながら幸治君を見上げる。
「私は“中華料理屋 安部”のことが大好きだったもん。」
“苦しい”と思いながら吐き出した言葉に、幸治君の瞳は大きく揺れた。
それから嬉しそうな顔で私を見下ろして。
「“中華料理屋 安部”のことをあんなに好きでいてくれたのは羽鳥さんだけですよ。
あの煩くて面倒でヤバい人より、羽鳥さんは“中華料理屋 安部”を好きでいてくれたので。」
「・・・その人も常連さんだったの?」
「そうですね。
それで俺を“中華料理屋 安部”から連れ出してくれました。」
「・・・でも、その人よりも私の方が“中華料理屋 安部”のことが絶対に好きだったよ?
“中華料理屋 安部”のこともちゃんと考えてたよ?
だから私は独占なんてしなかった。」
幸治君が高校3年生、高校を卒業する数日前に私は“中華料理屋 安部”から離れた。
幸治君が私のことを異性として好きなのだと分かったから。
その時のことを思い出すとなんでか泣きそうになり、慌てて下を向く。
そしたら、見えた。
まだ捨てていなかった幸治君から貰った飲み物、カップにささっているストローの先が。
幸治君が口をつけていたストローの先が。
それを見下ろしているとどんどん苦しくなってくる。
息が止まってしまうのではないかと思うくらい苦しくなってくる。
「でもそれは羽鳥さんのエゴの押し付けでした、俺からすると。」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

密室に二人閉じ込められたら?
水瀬かずか
恋愛
気がつけば会社の倉庫に閉じ込められていました。明日会社に人 が来るまで凍える倉庫で一晩過ごすしかない。一緒にいるのは営業 のエースといわれている強面の先輩。怯える私に「こっちへ来い」 と先輩が声をかけてきて……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる