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お店に並べられている洋服を1つ1つ眺めていく。
たまに手に取ったり、たまに鏡の前で自分の身体に合わせてみたり。
似合っているようにも思うけれど・・・。



「彼女いないって言ってたじゃないですか~!!」



「彼女とかじゃないですから。」



「じゃあ狙ってる人?」



「僕が狙って良いような相手に見えます?」



「「「全然見える。」」」



「いや、とにかくそういうんじゃないですから。
俺よりもかなりの“上の人”なので。」



「幸治君、若いからね~。」



「年齢もそうですけど、全てで“上の人”なので。
・・・あと、幸治君って呼ばないでくださいって。」



「ね、この前やんわり怒られちゃった。
やんやりだけど結構怒ってたと思う。」



「そうなんですか?」



「“女性に免疫のない奴なので、仕事に集中出来なくなると困るので”って。
勉強ばっかりしてたから免疫ないの?」



「どちらかというと仕事ですね。
集中して勉強した期間は短期間だったので。」



「若いのに凄いよね~。
ねぇ、この服とこの服だったらどっちが好み?」



「・・・どっちも同じじゃないんですか?」



「「え~!!
こういうの全然分からないタイプなんだ!?」」



「可愛い~!!」



私についてくる幸治君についてくる店員さん達。
他のお客さんを接客しながら、入れ替わり立ち替わりで幸治君と楽しそうに、嬉しそうに話している。



「あ、それお似合いですよ!
試着してみますか?」



鏡の前で洋服を合わせていた私を見た店員さんが、幸治君から離れて私の所に来た。
そして私の隣に立って私が洋服を身体に合わせている姿を見てくる。



鏡の中に一緒に入って、見てくる。



全然似合っていなかった。



私では全然似合っていなかった。



だって、全然キラキラしていない。



この店員さんみたいに、鏡の中の私は全然キラキラして見えない。



好みの服を合わせながら鏡の前で呆然としていた時・・・



「羽鳥さん。」



幸治君が私の隣に並んだ。
店員さんとは反対側に立ち、鏡の中の私の隣に入ってきた。



「気になる服、ありましたか?」



「うん・・・。
どれも私好みの服だよ。」



「じゃあ、出ましょうか。」



幸治君が普通に笑いながらそう言ってきて・・・



私が身体に合わせていた洋服をソッと取り上げた。



「今日は好みの服を探しに来たわけではないので。
欲しい服は欲しい服で、次の機会に俺がプレゼントしますから。
今日は“いけないコト”をしに来たので、お嬢様が着たらいけない服を買いに行きましょう。」



幸治君がそう言って・・・



幸治君のことをキラッキラな顔で見詰めている店員さんに、私が合わせていた洋服を「すみません」と返し・・・



私の右手をソッと握ってきた。



「目的地を1つに絞る必要はないですからね。
違うと思ったらまた他の目的地を目指せばいいだけなので。
俺はあの煩くて面倒でヤバい人からそう教わりました。」



そう言って、私の右手を優しく引いてくれる。



「そんなことを言いながら俺を独占しようとしてきて、意味不明なんですけどね。
意味不明だと思っていましたけど・・・」



私のことを熱の籠った目で見下ろし、お店の扉に手を掛けた。



「今ならその気持ちが分かりますね。
俺はそんなことはしませんけど、独占したいと思う気持ちは分かります。」



そんなよく分からないことを言って、幸治君が扉を開け・・・



私の右手を引きながらお店から一歩、踏み出した。



私と一緒に踏み出してくれた。
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