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「あの人、中身がガキなので独占欲もヤバすぎて。
去年振られたみたいな感じになったらしいんですけど、彼氏でもなんでもない関係なのに1年経った今でも独占しようとしてて。
ヤバすぎて尊敬すらしますよ、あそこまでだと。」
なんでかは分からないけれど、凄く苦しくなってきた。
凄く凄く、物凄く苦しくなってきた。
苦しすぎて足が前に動かなくなる。
全然前に・・・駅に向かって歩けなくなる。
駅までもう少しという所で立ち止まった私の隣で、幸治君も立ち止まった。
不思議そうな顔で私のことを見下ろしてくる幸治君。
大人の男の人になっているけれど、私よりも7歳も8歳も年下の幸治君。
そんな幸治君を見上げながら私は言った。
「幸治君の電話番号、忘れちゃった。」
揺れている幸治君の瞳を見詰める。
「幸治君にもう連絡することは出来ないから、あと少しだけ時間をちょうだい?」
「・・・連絡先、教えますから。
いつでも連絡して下さい。」
ポケットからスマホを取り出し、私の方にスマホを向けてきた。
そのスマホを見ることなく言う。
本当はまだ連絡先を覚えているけれど、言う。
幸治君には言えるから。
私は幸治君には言いたいことを言える。
きっと、言えている。
そう思いながら、そう自分に言い聞かせながら、言う。
「まだ22時過ぎ、私の誕生日はまだ終わってない。
今日が終わるまででいいから時間をちょうだい。
あと2時間でいいから、幸治君の時間をちょうだい。」
そう伝えながら、幸治君の方にもう少しだけ近付いた。
明日になったらもう会うことはないだろうから、近付いた。
もしかしたら今断られてしまうかもしれないから、近付いた。
近付きたいと思ったから、近付いた。
幸治君の目の前、身体と身体が触れ合ってしまうギリギリの所まで近く。
そこまで近付いた・・・。
そしたら・・・
そしたら、もっと近付きたくなってしまった。
もっともっと近付きたくなってしまう。
「幸治君の部屋に行きたい・・・。
あと2時間だけでいいから、私の“いけないコト”に付き合って・・・。
結婚する相手でもない男の人の部屋に入るなんて、そんなのは“いけないコト”だから。
私、“いけないコト”がしたい。」
なんでかは分からないけれど、この目から自然と涙が流れてきた。
胸が苦しいからかもしれない。
バーの中で膝の上に広げていたタオルハンカチを両手で握り締めながら、それでこの目から流れてくる涙をソッと拭った。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチで涙を拭いた。
私が幸治君に触れることも幸治君が私に触れることもないけれど、幸治君がプレゼントしてくれたタオルハンカチは私の涙を拭ってくれた。
そして、何の返事もしてくれない幸治君を見上げながら小さく笑う。
「部屋に行きたいなんて言ってごめんね。
“いけないコト”っていうより、“変なコト”を言っちゃった・・・。
7歳も8歳も年下の男の子に“変なコト”を言っちゃった。
気持ち悪いね、私・・・。」
小さくだけど笑い続けたままタオルハンカチを胸の前で抱き締める。
去年振られたみたいな感じになったらしいんですけど、彼氏でもなんでもない関係なのに1年経った今でも独占しようとしてて。
ヤバすぎて尊敬すらしますよ、あそこまでだと。」
なんでかは分からないけれど、凄く苦しくなってきた。
凄く凄く、物凄く苦しくなってきた。
苦しすぎて足が前に動かなくなる。
全然前に・・・駅に向かって歩けなくなる。
駅までもう少しという所で立ち止まった私の隣で、幸治君も立ち止まった。
不思議そうな顔で私のことを見下ろしてくる幸治君。
大人の男の人になっているけれど、私よりも7歳も8歳も年下の幸治君。
そんな幸治君を見上げながら私は言った。
「幸治君の電話番号、忘れちゃった。」
揺れている幸治君の瞳を見詰める。
「幸治君にもう連絡することは出来ないから、あと少しだけ時間をちょうだい?」
「・・・連絡先、教えますから。
いつでも連絡して下さい。」
ポケットからスマホを取り出し、私の方にスマホを向けてきた。
そのスマホを見ることなく言う。
本当はまだ連絡先を覚えているけれど、言う。
幸治君には言えるから。
私は幸治君には言いたいことを言える。
きっと、言えている。
そう思いながら、そう自分に言い聞かせながら、言う。
「まだ22時過ぎ、私の誕生日はまだ終わってない。
今日が終わるまででいいから時間をちょうだい。
あと2時間でいいから、幸治君の時間をちょうだい。」
そう伝えながら、幸治君の方にもう少しだけ近付いた。
明日になったらもう会うことはないだろうから、近付いた。
もしかしたら今断られてしまうかもしれないから、近付いた。
近付きたいと思ったから、近付いた。
幸治君の目の前、身体と身体が触れ合ってしまうギリギリの所まで近く。
そこまで近付いた・・・。
そしたら・・・
そしたら、もっと近付きたくなってしまった。
もっともっと近付きたくなってしまう。
「幸治君の部屋に行きたい・・・。
あと2時間だけでいいから、私の“いけないコト”に付き合って・・・。
結婚する相手でもない男の人の部屋に入るなんて、そんなのは“いけないコト”だから。
私、“いけないコト”がしたい。」
なんでかは分からないけれど、この目から自然と涙が流れてきた。
胸が苦しいからかもしれない。
バーの中で膝の上に広げていたタオルハンカチを両手で握り締めながら、それでこの目から流れてくる涙をソッと拭った。
幸治君からプレゼントして貰ったタオルハンカチで涙を拭いた。
私が幸治君に触れることも幸治君が私に触れることもないけれど、幸治君がプレゼントしてくれたタオルハンカチは私の涙を拭ってくれた。
そして、何の返事もしてくれない幸治君を見上げながら小さく笑う。
「部屋に行きたいなんて言ってごめんね。
“いけないコト”っていうより、“変なコト”を言っちゃった・・・。
7歳も8歳も年下の男の子に“変なコト”を言っちゃった。
気持ち悪いね、私・・・。」
小さくだけど笑い続けたままタオルハンカチを胸の前で抱き締める。
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