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そう伝えた俺に、愛姉は・・・愛花は少しだけ考えた顔になり、それから困ったように笑った。



「ごめんね・・・?」



そう言われた瞬間、俺は口を抑えて号泣した。



そしたら・・・



「私はキスもエッチもしてみたいな・・・。」



恥ずかしそうな顔でそう言ってきて・・・



「私はみっちゃんの彼女達みたいに美人でも可愛くもないけど、私にも少しはして欲しいな・・・。」



そう言って俺のことを見上げているこの女の子の顔は可愛すぎて。



やっぱり、俺には誰よりも可愛すぎて。



泣きそうな顔で笑った顔でもないのに、こんなにも愛おしいと思えて。



本気でそう思っているはずなのに、可愛い女の子に”可愛い“と簡単に言えるはずの俺の口からは“可愛い“の”か“という声も何故か出せなくて。



それが苦しすぎて、俺は震える手で・・・



愛姉の手を・・・、愛花の手を少しだけ握った。



「抱き締めてもいい・・・?」



聞いた俺に愛花は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに小さく頷き・・・



そんな愛花のことを俺は震える両手で抱き締めた。



また大きく泣いた俺の背中を愛花が昔のように優しく擦ってくれる。



「定光、お誕生日おめでとう。」



俺がこの世界に生まれたことを祝ってくれた愛花が楽しそうに笑いながら、続けた。



「青君の言ってた通りになった。
今日が定光の誕生日になるって。」



そんな言葉には泣きながらも首を傾げると、愛花は楽しそうに笑って。



「“あいつは自分の気持ちを愛姉に伝えられる男に生まれ変わるから、その時は鎌田のことを受け入れて欲しい。
生まれ変わったあいつへの誕生日プレゼントとして、愛姉自身のことをあげて欲しい。”とは言われてて。
その後は、“もしも店の中でそれが出来なかったとしても、望が必ず鎌田のことを駅まで向かわせる。
あいつは鎌田にもめちゃくちゃ懐いてたし、鎌田もあいつのことはちゃんと可愛がってたから、望の言葉ならあいつにもきっと届くはずだから。
だから愛姉は振り向くことなく真っ直ぐと駅まで歩いて行って。“
青君は私にはそう言ってたけど、望ちゃんといったら”ダメ秘書“の望ちゃんでしょ?
青君は望ちゃんには”あいつを1度殺して生まれ変わらせろ“っていう指示しか出してないとは聞いていて。
だから私がお店を出た後は凄く心配だったけど、みっちゃんの親友の青君の言うことを信じて真っ直ぐ歩いてみたよ。」



「俺が来るって知ってたの・・・?
知ってて、あんなこと言ってたの・・・?」



「うん、だってみっちゃんはこうでもしないと私の幸せだけしか考えないって青君が言うから。
それだとみっちゃんは可哀想なままこの人生を終えることになるって。
私が望ちゃんのフォローも出来るように、今日まで青君から指導をされてて、私も結構頑張ったんだよ?」



それを聞き、俺は泣きながらも大きく笑った。



「あいつ、しっかり望ちゃんのフォローしてるじゃん!!!!」



「私は演技なんて出来ないから不安だったけど、こうしてみっちゃんが来てくれて良かった。」



「女ってやっぱり怖いね。
全然気付かなかった・・・。」



「怖いのはみっちゃんだよ。
何人の女の子とエッチしたの?」



「途中から数えてないや。」



「イトコ同士の子どもの心配よりも、みっちゃんのそういう病気の方が心配だよ?」



「気を付けてはいたけど、すぐに病院に行ってきます。」



俺の返事に心配そうに、でも嬉しそうに、幸せそうに笑う愛花の向こう側には、やっぱり綺麗な青空が広がっていた。



「やっぱり、俺・・・あのさ、結果が分かって大丈夫そうだったら、すぐにキスとかセックスしても良い?」



「・・・これ、おちんちん大きくなってるの?」



「抱き締めただけでマジで無理だ・・・。
なんか・・・マジで、無理だ・・・。」



”本気で愛してる女とのセックスは、マジでみこすり半になるくらいの気持ち良さだからな!!?“



青い空に青の顔が重なり、去年の年末に聞いた捨て台詞をまた言われたような気がして、自然と笑いながら愛花のことを強く抱き締めた。



あの2人のお姉様のことを考えると今からめっっっっっっっっちゃ憂鬱ではあるけれど、いつまでも愛花に守られてばかりはいられないから、強く強く覚悟を決めた。



「お姉ちゃん達喜んじゃうだろうな。
パシリが私しかいなくて毎日イライラしてるし、オモチャがなくて毎日退屈そうにしてるから。」



「・・・・・・・ごめん、やっぱり凄く怖くなってきた。」



「大丈夫だよ、”愛姉“がいるでしょ?”みっちゃん“。」



俺には3人のお姉様がいる。



上の2人のお姉様は”女王様“で、1番下は弱い弱い女の子。



いつもお姉様達からパシリにされ、いつも自信がなさそうに下を向いていた女の子。



でも、俺のことを守る時だけはあのお姉様達よりも強くなる時がある。



あのお姉様達でもビッッッックリするくらい、強く強くなる時が。



”あの母親の血が愛花にもやっぱり流れてる。“



2人のお姉様は満足そうに笑っていたけれど、俺は何も笑えなかった。



ずっと昔から、全然笑えなかった。



「”ずっと一緒にいて、愛姉・・・。
俺、愛姉のことが大好きだから・・・。
伯母さんみたいに他の男の所になんて行かないで、俺とずっと一緒にいて・・・。”」



愛姉のことを女の子として愛していると自覚をする前、それまでは何度も何度もこうやって抱き合い伝えていた言葉を、久しぶりに伝えた。



本当に、本気で、俺が愛している従姉である愛姉に、伝えた。











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