【完】好き好き大好きの嘘

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一夜side........



小学生最後の夏休み、今年もお父さんとお母さんの休みの日に大きなリュックを家族4人で背負い山の中を冒険する。
お父さんの知り合いの人が所有しているという山。



小さな頃から長期休みだけでなく土日までもこの山にお父さんは俺と弟を連れてくる。



そして、今日も4人で息を潜めてこの光景を見ていく。



お父さん曰く“この森の主”と呼ぶ大きな大きな蛇。



それを今年の夏も見付けることが出来て、主が大きな獲物を丸々飲み込む姿を見ていく。
小さな頃は恐ろしいと思っていたこの光景も、今では・・・



「この世界は弱肉強食だからな。
強い者が生き残り弱い者は食われる。
しっかりと目に焼き付けろ。」



お父さんの言葉に俺と弟だけではなくお母さんまで深く頷く。



「強い男になれ、お前ら。
俺とお母さんの息子だから必ずなれる。
守りたいと思うモノを守れる男に。
幸せにしたいと思うモノを幸せに出来る男に。」



大好きなはずのお母さんと離婚をしているお父さんが今日もそう言う。
この2人は犬猿の仲らしく、心の中ではお互いに物凄く好きなのに離婚をしているおかしな夫婦だった。



2人の時だけ口喧嘩をするようにしているようだけど、俺も弟もその光景をよく目撃していた。



それでも毎回俺も弟も笑いを堪えるのが大変になる理由は・・・



「俺は本当はお母さんのことが大好きなんだよ。
お母さんは不細工な俺のことが好きじゃないけどな、俺はお母さんのことが昔から大好きなんだよ。」



「それは私の台詞。
お母さんは昔からお父さんのことが大好きなの。
でもお母さんはスッピンが“のっぺらぼうの卵”だからね。
可愛くないお母さんのことをお父さんは好きになってくれないの。」



「俺はお母さんのことが大好きだよ。」



「私だってお父さんのことが大好きだけど。」



「俺の方が好きだよ。」



「私の方が好きだから。」



今日もそんなやり取りが始まり、俺は弟と2人で目を合わせて笑いを堪えるのに必死になる。



“そんなことなら早く再婚してよ、マンションの隣の部屋同士で仲良く暮らして何してるんだよ。”



2人には2人の事情があるようなので今日もその言葉を飲み込み、俺と弟は静かに主がこの森に君臨している姿を眺めていた。