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それから数日後・・・。
12月も中旬になり、結構寒くなってきた。
面接の部屋も寒い・・・。
どんなに暖房を入れても寒い・・・。



隣のこの人が、冷ややかな空気を放出しているから・・・。



あれからこの人が仕事以外で私に話し掛けることはなくなった。
恋も愛もなくなった目で私を見て、爽やかな笑顔になることもなく淡々と仕事をこなしていく。



それに私も淡々と答えている。



やっぱり、“私”だと分かったらこの人は“✕”になったらしい。



顔はこういう顔が好きだったらしいけど。
こういう顔だったら中身が“私”みたいな感じでも好きらしいけど。
こういう顔だったら前歯が欠けていても好きらしいけど。



こういう顔だったら、どんな感じでもこの人の“○”になったらしい。



でも、こういう顔でも本物の“私”では“✕”になる。



ずっと“✕”だったから。
“私”はずっと、この人の“女の子”の中には入らなかったから。



そんな“私”がこんな見た目になっても、やっぱり“✕”のままで。



“△”にもならなかった。



私は“△”にもならなかった。



「お先です。」



今日は20時過ぎに全ての面接が終わったのに、この人は私のことを見ることもなく面接の部屋を出ていった。



恋愛がしたくてこの見た目になったわけではなくて。



この人と仲直りがしたくてこの見た目になっただけで。



だって、この人がそう言っていたから。



そう言って・・・



そう言って・・・。



泣きそうになりながら黒い手鏡で自分の顔を見た。



泣きそうな顔でも可愛い可愛い顔をしている女の子が映っている。



拳(けん)から貰った黒い手鏡の中で、可愛い可愛い顔の“私”が、泣きそうな顔をしている。



“拳”がそう言ってこの黒い手鏡をくれたから、私はこんな見た目になった。



大学生になったら東京に戻ってくると言っていたから。



東京の実家に戻ってくると、そう言っていたから。



家がどこにあるのかまでは知らなかったけど、近いことは知っていたから。



だから・・・



何処かで偶然にも会って・・・



ビックリして、声を掛けて貰いたかった。



仲直りしたかったのに・・・。



“私”は、“拳(けん)”と仲直りしたかったのに・・・。



「拳(けん)が的場妙子を好きになるなんて、それは反則・・・。」



知りたくなかった。



拳(けん)が好きな女の子にはあんな感じなのだと、“私”は知りたくもなかった。



それも、自分自身で、知りたくなかった。



友達でよかったのに。
親友でよかったのに。
大親友でよかったのに。



たまに会って、バカみたいに笑って、楽しく笑って、ちょっと言い合いして。
それでも楽しくて・・・。



そんな関係でよかったのに。



「私は女が少ないから・・・。」



私は、妙(たえ)。



女が少ないと書いて、妙(たえ)。



拳(けん)が呼ぶ私の名前は、女が少ないと書いて妙(たえ)。



「恋愛は苦手すぎるから追究できない・・・。」



苦手だった。



恋愛は苦手だった。



苦しい手と書いて、“苦手”だった。



どんなに痛いパンチよりもキックよりも絞め技投げ技よりも、私にとっては恋愛の方が“苦しい手”だった。



そう思いながら握り締めた両手は、小さな小さな握り拳だった。



あの人に入ることはない、無力な拳だった。
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