122 / 295
8
8-1
しおりを挟む
それから数日後・・・。
12月も中旬になり、結構寒くなってきた。
面接の部屋も寒い・・・。
どんなに暖房を入れても寒い・・・。
隣のこの人が、冷ややかな空気を放出しているから・・・。
あれからこの人が仕事以外で私に話し掛けることはなくなった。
恋も愛もなくなった目で私を見て、爽やかな笑顔になることもなく淡々と仕事をこなしていく。
それに私も淡々と答えている。
やっぱり、“私”だと分かったらこの人は“✕”になったらしい。
顔はこういう顔が好きだったらしいけど。
こういう顔だったら中身が“私”みたいな感じでも好きらしいけど。
こういう顔だったら前歯が欠けていても好きらしいけど。
こういう顔だったら、どんな感じでもこの人の“○”になったらしい。
でも、こういう顔でも本物の“私”では“✕”になる。
ずっと“✕”だったから。
“私”はずっと、この人の“女の子”の中には入らなかったから。
そんな“私”がこんな見た目になっても、やっぱり“✕”のままで。
“△”にもならなかった。
私は“△”にもならなかった。
「お先です。」
今日は20時過ぎに全ての面接が終わったのに、この人は私のことを見ることもなく面接の部屋を出ていった。
恋愛がしたくてこの見た目になったわけではなくて。
この人と仲直りがしたくてこの見た目になっただけで。
だって、この人がそう言っていたから。
そう言って・・・
そう言って・・・。
泣きそうになりながら黒い手鏡で自分の顔を見た。
泣きそうな顔でも可愛い可愛い顔をしている女の子が映っている。
拳(けん)から貰った黒い手鏡の中で、可愛い可愛い顔の“私”が、泣きそうな顔をしている。
“拳”がそう言ってこの黒い手鏡をくれたから、私はこんな見た目になった。
大学生になったら東京に戻ってくると言っていたから。
東京の実家に戻ってくると、そう言っていたから。
家がどこにあるのかまでは知らなかったけど、近いことは知っていたから。
だから・・・
何処かで偶然にも会って・・・
ビックリして、声を掛けて貰いたかった。
仲直りしたかったのに・・・。
“私”は、“拳(けん)”と仲直りしたかったのに・・・。
「拳(けん)が的場妙子を好きになるなんて、それは反則・・・。」
知りたくなかった。
拳(けん)が好きな女の子にはあんな感じなのだと、“私”は知りたくもなかった。
それも、自分自身で、知りたくなかった。
友達でよかったのに。
親友でよかったのに。
大親友でよかったのに。
たまに会って、バカみたいに笑って、楽しく笑って、ちょっと言い合いして。
それでも楽しくて・・・。
そんな関係でよかったのに。
「私は女が少ないから・・・。」
私は、妙(たえ)。
女が少ないと書いて、妙(たえ)。
拳(けん)が呼ぶ私の名前は、女が少ないと書いて妙(たえ)。
「恋愛は苦手すぎるから追究できない・・・。」
苦手だった。
恋愛は苦手だった。
苦しい手と書いて、“苦手”だった。
どんなに痛いパンチよりもキックよりも絞め技投げ技よりも、私にとっては恋愛の方が“苦しい手”だった。
そう思いながら握り締めた両手は、小さな小さな握り拳だった。
あの人に入ることはない、無力な拳だった。
12月も中旬になり、結構寒くなってきた。
面接の部屋も寒い・・・。
どんなに暖房を入れても寒い・・・。
隣のこの人が、冷ややかな空気を放出しているから・・・。
あれからこの人が仕事以外で私に話し掛けることはなくなった。
恋も愛もなくなった目で私を見て、爽やかな笑顔になることもなく淡々と仕事をこなしていく。
それに私も淡々と答えている。
やっぱり、“私”だと分かったらこの人は“✕”になったらしい。
顔はこういう顔が好きだったらしいけど。
こういう顔だったら中身が“私”みたいな感じでも好きらしいけど。
こういう顔だったら前歯が欠けていても好きらしいけど。
こういう顔だったら、どんな感じでもこの人の“○”になったらしい。
でも、こういう顔でも本物の“私”では“✕”になる。
ずっと“✕”だったから。
“私”はずっと、この人の“女の子”の中には入らなかったから。
そんな“私”がこんな見た目になっても、やっぱり“✕”のままで。
“△”にもならなかった。
私は“△”にもならなかった。
「お先です。」
今日は20時過ぎに全ての面接が終わったのに、この人は私のことを見ることもなく面接の部屋を出ていった。
恋愛がしたくてこの見た目になったわけではなくて。
この人と仲直りがしたくてこの見た目になっただけで。
だって、この人がそう言っていたから。
そう言って・・・
そう言って・・・。
泣きそうになりながら黒い手鏡で自分の顔を見た。
泣きそうな顔でも可愛い可愛い顔をしている女の子が映っている。
拳(けん)から貰った黒い手鏡の中で、可愛い可愛い顔の“私”が、泣きそうな顔をしている。
“拳”がそう言ってこの黒い手鏡をくれたから、私はこんな見た目になった。
大学生になったら東京に戻ってくると言っていたから。
東京の実家に戻ってくると、そう言っていたから。
家がどこにあるのかまでは知らなかったけど、近いことは知っていたから。
だから・・・
何処かで偶然にも会って・・・
ビックリして、声を掛けて貰いたかった。
仲直りしたかったのに・・・。
“私”は、“拳(けん)”と仲直りしたかったのに・・・。
「拳(けん)が的場妙子を好きになるなんて、それは反則・・・。」
知りたくなかった。
拳(けん)が好きな女の子にはあんな感じなのだと、“私”は知りたくもなかった。
それも、自分自身で、知りたくなかった。
友達でよかったのに。
親友でよかったのに。
大親友でよかったのに。
たまに会って、バカみたいに笑って、楽しく笑って、ちょっと言い合いして。
それでも楽しくて・・・。
そんな関係でよかったのに。
「私は女が少ないから・・・。」
私は、妙(たえ)。
女が少ないと書いて、妙(たえ)。
拳(けん)が呼ぶ私の名前は、女が少ないと書いて妙(たえ)。
「恋愛は苦手すぎるから追究できない・・・。」
苦手だった。
恋愛は苦手だった。
苦しい手と書いて、“苦手”だった。
どんなに痛いパンチよりもキックよりも絞め技投げ技よりも、私にとっては恋愛の方が“苦しい手”だった。
そう思いながら握り締めた両手は、小さな小さな握り拳だった。
あの人に入ることはない、無力な拳だった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる