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男と別れた後、来た道を戻ろうと王宮の中を駆け始めたら・・・
「・・・っ」
すぐそこに炎の光りが揺らめいていて、私はすぐに足を止めた。
夜の闇の中、物陰からクレアンがゆっくりと出てきた。
そして2人で素早く王宮を抜け出せる道を駆けていく。
すばしっこい私よりもクレアンはずっとずっと速く。
炎の光りの円の後ろを私は駆けていく。
いつもいつも暗闇だったこの道、いつもいつも1人だったこの道、そこにこんなに大きく強い光りが現れた。
私の前に現れてくれた。
「これからアントと会ってくる。」
クレアンといつもの丘の上まで駆けた後、そう言った。
「さっき話してた男の息子?」
「うん、そう。・・・クレアン。」
クレアンを真っ直ぐと見詰めて聞いた。
「ここ数年、この国では紺色の髪の子どもしか生まれていない。
ということは、この国の多くの人間達は生まれた子どもを奴隷にされているってことだよね?
さっきの男のように奴隷になった子どものことを想い、子どもの無事を願い、いつかまた会える日を望んでいるということだよね?
そういう欲望を胸に抱いているということだよね?」
「そうだな。」
「どうしてそのことを教えてくれなかったの?」
私が聞くとクレアンは目を逸らすことなく口を開いた。
「自分の目で見て自分の耳で聞き、そして自ら感じ気付いたことはどんな言葉よりも大きく強く刻まれる。」
“怖い”と思うくらい力強い目で私のことを見詰め続ける。
「だから俺からそこまでは教えなかった。」
「そっか・・・。
大きく強く刻まれたよ。
大昔は、“鼠の地”は“鼠番”の人間達と数人の奴隷である“鼠”達がいて、魔獣から王宮を守っていた。
その“鼠番”の人間達が言い続けていたらしい。
“奴隷制度が終わり、誰かが迎えに来てくれる日が来るかもしれない。
自分がどこの誰であるか分かる日が来るかもしれない。
だから自分の番号を忘れてはいけない。
そして大切な仲間の番号は覚えておくように。
その仲間の生きた証を迎えに来た誰かに伝えることが出来るように。”」
幼い頃からアンナ達に聞かされていた話をクレアンにした。
「その言い伝えは教えられていたけど、ここ数百年で“鼠の地”には“鼠”しかいなくなったことも教えられていた。
たまに来る王宮の人間はその“鼠番”ではないとも。
“鼠”達にこの地の管理を任せ放置し、なのに気に入らないことがあるとすぐに鞭を打ち付けてくる“王宮の人間”だと。」
「リングドウル王国を建国した国王は、今のこの国の姿を見て嘆いている。
初代国王は民が強く生きていけるよう、豊かに生きていけるよう、それだけを欲し、それだけを望み、その要望だけを胸にこの国を建国した。」
クレアンがそう言って、自分の胸の真ん中に手を添える。
「初代国王は真っ白な髪の色を持ち、“奇跡”が扱える人間だった。
“神”と崇められ、この世界でリングドウル王国は大国となっていった。
初代国王は酷く嘆いている。
持って生まれた髪の色だけで殺され、奴隷にされ、この胸の真ん中に“✕”の焼き印まで刻まれるような世界を。」
「・・・っ」
すぐそこに炎の光りが揺らめいていて、私はすぐに足を止めた。
夜の闇の中、物陰からクレアンがゆっくりと出てきた。
そして2人で素早く王宮を抜け出せる道を駆けていく。
すばしっこい私よりもクレアンはずっとずっと速く。
炎の光りの円の後ろを私は駆けていく。
いつもいつも暗闇だったこの道、いつもいつも1人だったこの道、そこにこんなに大きく強い光りが現れた。
私の前に現れてくれた。
「これからアントと会ってくる。」
クレアンといつもの丘の上まで駆けた後、そう言った。
「さっき話してた男の息子?」
「うん、そう。・・・クレアン。」
クレアンを真っ直ぐと見詰めて聞いた。
「ここ数年、この国では紺色の髪の子どもしか生まれていない。
ということは、この国の多くの人間達は生まれた子どもを奴隷にされているってことだよね?
さっきの男のように奴隷になった子どものことを想い、子どもの無事を願い、いつかまた会える日を望んでいるということだよね?
そういう欲望を胸に抱いているということだよね?」
「そうだな。」
「どうしてそのことを教えてくれなかったの?」
私が聞くとクレアンは目を逸らすことなく口を開いた。
「自分の目で見て自分の耳で聞き、そして自ら感じ気付いたことはどんな言葉よりも大きく強く刻まれる。」
“怖い”と思うくらい力強い目で私のことを見詰め続ける。
「だから俺からそこまでは教えなかった。」
「そっか・・・。
大きく強く刻まれたよ。
大昔は、“鼠の地”は“鼠番”の人間達と数人の奴隷である“鼠”達がいて、魔獣から王宮を守っていた。
その“鼠番”の人間達が言い続けていたらしい。
“奴隷制度が終わり、誰かが迎えに来てくれる日が来るかもしれない。
自分がどこの誰であるか分かる日が来るかもしれない。
だから自分の番号を忘れてはいけない。
そして大切な仲間の番号は覚えておくように。
その仲間の生きた証を迎えに来た誰かに伝えることが出来るように。”」
幼い頃からアンナ達に聞かされていた話をクレアンにした。
「その言い伝えは教えられていたけど、ここ数百年で“鼠の地”には“鼠”しかいなくなったことも教えられていた。
たまに来る王宮の人間はその“鼠番”ではないとも。
“鼠”達にこの地の管理を任せ放置し、なのに気に入らないことがあるとすぐに鞭を打ち付けてくる“王宮の人間”だと。」
「リングドウル王国を建国した国王は、今のこの国の姿を見て嘆いている。
初代国王は民が強く生きていけるよう、豊かに生きていけるよう、それだけを欲し、それだけを望み、その要望だけを胸にこの国を建国した。」
クレアンがそう言って、自分の胸の真ん中に手を添える。
「初代国王は真っ白な髪の色を持ち、“奇跡”が扱える人間だった。
“神”と崇められ、この世界でリングドウル王国は大国となっていった。
初代国王は酷く嘆いている。
持って生まれた髪の色だけで殺され、奴隷にされ、この胸の真ん中に“✕”の焼き印まで刻まれるような世界を。」
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