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クレアンからそう言われ、この胸が大きく強く鳴っていく。
止まらない涙を流し続けながらクレアンを見詰める。
“鼠の王国”と、そしてこの世界に生きる人間達を“民”と言うクレアンのことを。
クレアンは服の胸に右手を入れ、そこから四角い何かと長細い棒を取り出した。
その場に腰を下ろしたクレアンの隣に今日もゆっくりと腰を下ろす。
「今日は文字を教える。
この世界には共通している文字というものがあり、それを学べば他者と文字だけでやり取りをすることが可能になる。
その文字を習得出来れば過去に起きた出来事を知ることが出来たり、今起きている出来事を記し後世に残すことが出来る。」
クレアンがそう言って、四角い何かの上を細い棒で動かした。
そしたらそこには黒い形が浮かんできて・・・。
「凄い・・・これも“奇跡”なの?」
「これは人々が思う“奇跡”ではないけどな、驚く気持ちは分かる。」
クレアンは優しい顔で私を見て、アント達からは見たことがないような顔で私に笑い掛けてくる。
「“奇跡”を起こすぞ、姫。」
「私の声じゃなくてクレアンが“奇跡”を見せれば、アントもアンナもみんなクレアンについていくかもしれないのに。」
「俺はみんなを従わせたいわけではないし、従うだけの人間ばかりでは国は豊かにならない。
まずは変えなければ、“鼠の王国”の民達の意識を。
その為には姫の鳴き声が何よりも必要だ。
“死者の国”へ行く為ではなく、今この瞬間を強く豊かに生きたいという欲望を胸に抱いて貰いたい。」
クレアンがそう言って、私の胸の真ん中に右手をゆっくりと伸ばしてきた。
「・・・っ」
少しだけ触れた私の胸の真ん中にクレアンが触れていると思うとこの胸が悲鳴のようなものを上げ始めた。
そんな私をクレアンは見詰める。
揺れる炎のように静かな目で、でも温かく、でも激しくもある、でも優しくもある、そんな不思議な光りが宿っているような目で私のことを見詰め・・・。
「この胸に刻まれた“✕”の焼き印、こんなバカげた焼き印など見えないくらい大きく強い欲望を胸に抱いて欲しい。」
クレアンの言葉に私は深く深く頷く。
私が頷くとクレアンも深く深く頷いた。
「日は暮れ今宵の時間は始まった。
動くぞ。」
その身体に大きな炎の円を揺らしながら私に続ける。
「鼠の時間だ。」
クレアンが今日もそう言った。
私は物心がついた頃からいつも色んなことが気になっていた。
そして1人で動けるようになってからは何度も王宮に忍び込んでいた。
だって気になって仕方なかったから。
どうして私は、私達はこんな暮らしをしているのか。
王宮はどんな場所なのか。
世界は本当にここだけなのか。
王宮の向こう側には何があるのか。
気になって気になって仕方がなかった。
知りたくて知りたくて仕方がなかった。
いつも夜が始まると1人で“鼠”のように動いていた。
奴隷の“鼠”ではなく本物の“鼠”のように。
でも、今はクレアンがいる。
大きな炎の円の光りを纏うクレアンがいる。
「あの王宮を中心に円のように広がりリングドウル王国は存在している。
乗っ取るぞ、“鼠”達がこの王国を。」
クレアンが私の真ん中に、指で優しく円を描いた。
「奴隷の証である“✕”の焼き印ではなくリングドウル王国の刻印、“◯”をこの胸に俺が刻んだ。
俺は“奇跡”を起こせる、だからお前の欲望が消えそうになったら何度でもお前の胸の真ん中に“◯”を刻んでやる。
でも、“鼠の王国”の民達の胸に“◯”を刻むことが出来るのはお前だ、姫。」
.
止まらない涙を流し続けながらクレアンを見詰める。
“鼠の王国”と、そしてこの世界に生きる人間達を“民”と言うクレアンのことを。
クレアンは服の胸に右手を入れ、そこから四角い何かと長細い棒を取り出した。
その場に腰を下ろしたクレアンの隣に今日もゆっくりと腰を下ろす。
「今日は文字を教える。
この世界には共通している文字というものがあり、それを学べば他者と文字だけでやり取りをすることが可能になる。
その文字を習得出来れば過去に起きた出来事を知ることが出来たり、今起きている出来事を記し後世に残すことが出来る。」
クレアンがそう言って、四角い何かの上を細い棒で動かした。
そしたらそこには黒い形が浮かんできて・・・。
「凄い・・・これも“奇跡”なの?」
「これは人々が思う“奇跡”ではないけどな、驚く気持ちは分かる。」
クレアンは優しい顔で私を見て、アント達からは見たことがないような顔で私に笑い掛けてくる。
「“奇跡”を起こすぞ、姫。」
「私の声じゃなくてクレアンが“奇跡”を見せれば、アントもアンナもみんなクレアンについていくかもしれないのに。」
「俺はみんなを従わせたいわけではないし、従うだけの人間ばかりでは国は豊かにならない。
まずは変えなければ、“鼠の王国”の民達の意識を。
その為には姫の鳴き声が何よりも必要だ。
“死者の国”へ行く為ではなく、今この瞬間を強く豊かに生きたいという欲望を胸に抱いて貰いたい。」
クレアンがそう言って、私の胸の真ん中に右手をゆっくりと伸ばしてきた。
「・・・っ」
少しだけ触れた私の胸の真ん中にクレアンが触れていると思うとこの胸が悲鳴のようなものを上げ始めた。
そんな私をクレアンは見詰める。
揺れる炎のように静かな目で、でも温かく、でも激しくもある、でも優しくもある、そんな不思議な光りが宿っているような目で私のことを見詰め・・・。
「この胸に刻まれた“✕”の焼き印、こんなバカげた焼き印など見えないくらい大きく強い欲望を胸に抱いて欲しい。」
クレアンの言葉に私は深く深く頷く。
私が頷くとクレアンも深く深く頷いた。
「日は暮れ今宵の時間は始まった。
動くぞ。」
その身体に大きな炎の円を揺らしながら私に続ける。
「鼠の時間だ。」
クレアンが今日もそう言った。
私は物心がついた頃からいつも色んなことが気になっていた。
そして1人で動けるようになってからは何度も王宮に忍び込んでいた。
だって気になって仕方なかったから。
どうして私は、私達はこんな暮らしをしているのか。
王宮はどんな場所なのか。
世界は本当にここだけなのか。
王宮の向こう側には何があるのか。
気になって気になって仕方がなかった。
知りたくて知りたくて仕方がなかった。
いつも夜が始まると1人で“鼠”のように動いていた。
奴隷の“鼠”ではなく本物の“鼠”のように。
でも、今はクレアンがいる。
大きな炎の円の光りを纏うクレアンがいる。
「あの王宮を中心に円のように広がりリングドウル王国は存在している。
乗っ取るぞ、“鼠”達がこの王国を。」
クレアンが私の真ん中に、指で優しく円を描いた。
「奴隷の証である“✕”の焼き印ではなくリングドウル王国の刻印、“◯”をこの胸に俺が刻んだ。
俺は“奇跡”を起こせる、だからお前の欲望が消えそうになったら何度でもお前の胸の真ん中に“◯”を刻んでやる。
でも、“鼠の王国”の民達の胸に“◯”を刻むことが出来るのはお前だ、姫。」
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