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「食べ物持ってきたよ。」
今日回る予定だった地区の最後の場所、多くの子ども達が寝起きしている大きな“廃屋”の1つに入り、私の生みの親である“アンナ”に声を掛けた。
「ヒメ・・・また王宮の中に忍び込んだの?」
「うん、これみんなに食べさせて。」
袋に入った食べ物を私の生みの親の前に広げると、私の生みの親は真剣な顔でそれを見下ろした。
アントのように今日も怒ってくるのかと思ったら・・・
真剣な顔のまま私のことを見てきた。
「ヒメは私達の光り。
月明かりのない夜の闇の中でも光り輝く私達の光り。」
初めてそんなことを言われ少しだけ驚いたけれど、私は笑いながら答えた。
「みんなだって光りだよ?
みんなの身体から、少しだけだけどユラユラ揺れてる炎みたいな光りが見える。
たまに見る王宮の人達からは見えないけど、“鼠”達だけには見える。
だから夜の闇の中でもみんなの姿がハッキリと見える。」
「そうだね、みんなの身体も何故だか微かに光ってるね。
微かな光り集まっているから、火を焚かなくても夜でも魔獣を倒せる。
でも、ヒメはみんなの光りとも違う。
全く違う・・・。
私は禁止されている繁殖行為をしてしまって、でもみんなに守られながらヒメを生んだことを心から良かったと思ってる。」
私の生みの親がそう言って・・・
両手を私に伸ばし、私のことをソッと抱き締めてきた。
いつぶりか分からないその温もりを感じていると、私の生みの親が囁いた。
「“アント”もきっと“死者の国”で見守ってくれている。
お腹が大きくなった私が王宮の人間に見付かりそうになった時に王宮の人間に剣棒を振り上げ、その人間達の意識を“アント”に向けてくれたから私は隠れることが出来た。
そして生まれてきたヒメを“鼠の地”のみんなで生かし続けることが出来た。」
「“鼠”は昔から繁殖行為を禁止されていて、たまに子どもを生むこともあったけど生みの親も子どもも数日で死んでしまってたんだよね。」
「そうだね、でも古くから伝えられてきた赤子を育てる教えをみんなが知っていたから、私に食べ物を分け与えてくれて私の胸からは乳が僅かだけど出ていた。」
「昔は鼠も繁殖行為をしていたからその教えが伝えられてきたのかな?」
私が聞くと生みの親は「そうなのかもね。」とだけ答えた。
それを聞き、私は生みの親の背中に少しだけ両手を回しその胸に少しだけ顔を付けた。
「“鼠”の子どもは何処から来るか知ってる?」
定期的に“鼠”の子どもは“鼠の地”にやってくる。
少しだけ歩けるようになったくらいの子どもが王宮の人間によって連れて来られるから。
「知らない、何処から来るんだろうね。」
「知りたいと思ったことはある?」
「ないかな・・・。」
「あの王宮の向こう側に何があるのか気になったことは?
小さな頃からそういうことを言っていつも怒られてきたけど、本当に気になったことはないの?」
「ヒメ。」
私の生みの親が真剣な顔で私のことを見詰める。
「お願いだから危険なことはしないで。
なるべく長く生き延びることだけを考えて。」
そう言われ・・・
そう言われて・・・
私はこの胸が震えてきて、涙を流しながら言った。
「みんな次々に“死者の国”に行ってる・・・。
痛くて苦しいはずなのに、死ぬ時は安心したような顔で王宮を見ながら・・・。
“死者の国は王宮みたいな所らしい”って・・・。
光り輝く家と服、食べても食べてもなくならないくらいの食べ物、そして愛する人との子どもを持てる国。
“死者の国”はそんな所だって。
この世界を精一杯生き延びた人間だけが辿り着ける場所だって。」
「そうだね、昔からそう言われているね。」
「私達はどうして今こんな暮らしをしているか考えたことはない?
本当に、本当にないの?」
この胸から込み上げてくる気持ちを生みの親にぶつけると、生みの親は私のことを強く抱き締めてきた。
ここに来る子ども達を育て上げることが役目である“アンナ”が、私のことを久しぶりにこんなに強く抱き締めてきた。
「ヒメは私達の光り・・・。
ヒメは“アント”と“アンナ”から生まれ、10歳まで育つことが出来た唯一の人間。
強く強く生き延びる人間になって、ヒメ。
そして、飛んでいきなさい。」
私の生みの親が私のことを震える両手で抱き締めてきた。
「“鼠の地”を出て、ここから見える王宮の向こう側、そこを飛んで見に行ってきなさい。
いつか・・・いつか・・・。」
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今日回る予定だった地区の最後の場所、多くの子ども達が寝起きしている大きな“廃屋”の1つに入り、私の生みの親である“アンナ”に声を掛けた。
「ヒメ・・・また王宮の中に忍び込んだの?」
「うん、これみんなに食べさせて。」
袋に入った食べ物を私の生みの親の前に広げると、私の生みの親は真剣な顔でそれを見下ろした。
アントのように今日も怒ってくるのかと思ったら・・・
真剣な顔のまま私のことを見てきた。
「ヒメは私達の光り。
月明かりのない夜の闇の中でも光り輝く私達の光り。」
初めてそんなことを言われ少しだけ驚いたけれど、私は笑いながら答えた。
「みんなだって光りだよ?
みんなの身体から、少しだけだけどユラユラ揺れてる炎みたいな光りが見える。
たまに見る王宮の人達からは見えないけど、“鼠”達だけには見える。
だから夜の闇の中でもみんなの姿がハッキリと見える。」
「そうだね、みんなの身体も何故だか微かに光ってるね。
微かな光り集まっているから、火を焚かなくても夜でも魔獣を倒せる。
でも、ヒメはみんなの光りとも違う。
全く違う・・・。
私は禁止されている繁殖行為をしてしまって、でもみんなに守られながらヒメを生んだことを心から良かったと思ってる。」
私の生みの親がそう言って・・・
両手を私に伸ばし、私のことをソッと抱き締めてきた。
いつぶりか分からないその温もりを感じていると、私の生みの親が囁いた。
「“アント”もきっと“死者の国”で見守ってくれている。
お腹が大きくなった私が王宮の人間に見付かりそうになった時に王宮の人間に剣棒を振り上げ、その人間達の意識を“アント”に向けてくれたから私は隠れることが出来た。
そして生まれてきたヒメを“鼠の地”のみんなで生かし続けることが出来た。」
「“鼠”は昔から繁殖行為を禁止されていて、たまに子どもを生むこともあったけど生みの親も子どもも数日で死んでしまってたんだよね。」
「そうだね、でも古くから伝えられてきた赤子を育てる教えをみんなが知っていたから、私に食べ物を分け与えてくれて私の胸からは乳が僅かだけど出ていた。」
「昔は鼠も繁殖行為をしていたからその教えが伝えられてきたのかな?」
私が聞くと生みの親は「そうなのかもね。」とだけ答えた。
それを聞き、私は生みの親の背中に少しだけ両手を回しその胸に少しだけ顔を付けた。
「“鼠”の子どもは何処から来るか知ってる?」
定期的に“鼠”の子どもは“鼠の地”にやってくる。
少しだけ歩けるようになったくらいの子どもが王宮の人間によって連れて来られるから。
「知らない、何処から来るんだろうね。」
「知りたいと思ったことはある?」
「ないかな・・・。」
「あの王宮の向こう側に何があるのか気になったことは?
小さな頃からそういうことを言っていつも怒られてきたけど、本当に気になったことはないの?」
「ヒメ。」
私の生みの親が真剣な顔で私のことを見詰める。
「お願いだから危険なことはしないで。
なるべく長く生き延びることだけを考えて。」
そう言われ・・・
そう言われて・・・
私はこの胸が震えてきて、涙を流しながら言った。
「みんな次々に“死者の国”に行ってる・・・。
痛くて苦しいはずなのに、死ぬ時は安心したような顔で王宮を見ながら・・・。
“死者の国は王宮みたいな所らしい”って・・・。
光り輝く家と服、食べても食べてもなくならないくらいの食べ物、そして愛する人との子どもを持てる国。
“死者の国”はそんな所だって。
この世界を精一杯生き延びた人間だけが辿り着ける場所だって。」
「そうだね、昔からそう言われているね。」
「私達はどうして今こんな暮らしをしているか考えたことはない?
本当に、本当にないの?」
この胸から込み上げてくる気持ちを生みの親にぶつけると、生みの親は私のことを強く抱き締めてきた。
ここに来る子ども達を育て上げることが役目である“アンナ”が、私のことを久しぶりにこんなに強く抱き締めてきた。
「ヒメは私達の光り・・・。
ヒメは“アント”と“アンナ”から生まれ、10歳まで育つことが出来た唯一の人間。
強く強く生き延びる人間になって、ヒメ。
そして、飛んでいきなさい。」
私の生みの親が私のことを震える両手で抱き締めてきた。
「“鼠の地”を出て、ここから見える王宮の向こう側、そこを飛んで見に行ってきなさい。
いつか・・・いつか・・・。」
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