【完】秋の夜長に見る恋の夢

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「武蔵、お弁当・・・。」



いつものように小町が玄関でお弁当を渡してくれる。
ただの居候の俺に・・・。
でも、そんな俺を小町が好きでいてくれている。



それは苦しい程、分かる。



「お弁当、今日で最後で大丈夫だから。」



小町が作ってくれるお弁当箱を受け取るのは居候の俺ではない。
本当は、俺ではいけない。



俺は、この幸せだけが詰まっているようなお弁当箱を受け取れる男になる。
きっと、なる。



「・・・明日も作るよ。」



小町が悲しそうな顔でそう言う。



「小町。」



少しだけ力強く小町の名前を呼ぶと、小町が身体をビクッと震わせた。



「会社、行ってくる。」



それしかない。
俺にはそれしかない。
一刀を極めて、その一刀で勝ち取るしか、ない。



「武蔵・・・あのね、あの・・・私、婚約者が決まって・・・」



「小町の婚約者が誰とか俺には関係ないから。」



「関係・・・ないの・・・？」



「うん、俺には何も関係ない。」



どんな人が婚約者に選ばれていたとしても、俺は薬を創るだけだから。



それに聞きたくもなかった。
小町の口から、婚約者の話なんて聞きたくもなかった。



「行ってきます。」



「行ってらっしゃい・・・。」



俺の背中に小町の悲しそうな声が聞こえた。



小町のその悲しい音を背負って、俺は今日も会社に行く。



薬を創りに。



俺は薬を創る。



薬を、創る・・・。



小町の為に。



小町の為だけに。