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武蔵は私ではなくて隼人を見て笑っている。
前までは少しピリピリしていたのに、笑っていて・・・。
「お久しぶりです、隼人さん。」
「久しぶりだな。
今日は小町から誘われて、虐待疑惑のある家の張り込みデートしてたんだよ。」
私の勘違いだったのに、隼人がそんな恥ずかしい話を武蔵にしてしまう。
武蔵は少し驚いた顔をした後、私の方を見た。
「大丈夫だった?
そんなに危ないことしないでよ。」
「だから隼人にお願いしたから、大丈夫。」
「うん・・・そっか。」
武蔵は少し悲しそうな顔で笑って、鞄から鍵を取り出した。
この大きな大きな屋敷の鍵を。
武蔵と私が一緒に暮らす屋敷の鍵を。
チリン─...と鳴るその音は・・・
幸福の音には聞こえなくなってしまった。
久しぶりに聞いたその音は・・・
やけに小さな音に聞こえて・・・
悲しい音色にも聞こえてしまった・・・。
「小町、早く入りな。」
武蔵がいつものように優しい笑顔でそう言ってくれる。
武蔵は、優しくて。
凄く、優しくて。
相変わらず優しくて。
あれから1年経ったけど、変わらず優しくて・・・。
でも、それだけで・・・。
それだけでしかなくて・・・。
何も進展していない。
あの日から、武蔵と私は何も進展していない・・・。
“女子大生”だから・・・。
いくらバイトをしていても、私は“女子大生”だから・・・。
社会人になったら、きっと変わる・・・。
きっと、変わる・・・。
空回りの芝居ではなく、今度こそ恋の芝居に・・・。
きっと、変わるはず・・・。
前までは少しピリピリしていたのに、笑っていて・・・。
「お久しぶりです、隼人さん。」
「久しぶりだな。
今日は小町から誘われて、虐待疑惑のある家の張り込みデートしてたんだよ。」
私の勘違いだったのに、隼人がそんな恥ずかしい話を武蔵にしてしまう。
武蔵は少し驚いた顔をした後、私の方を見た。
「大丈夫だった?
そんなに危ないことしないでよ。」
「だから隼人にお願いしたから、大丈夫。」
「うん・・・そっか。」
武蔵は少し悲しそうな顔で笑って、鞄から鍵を取り出した。
この大きな大きな屋敷の鍵を。
武蔵と私が一緒に暮らす屋敷の鍵を。
チリン─...と鳴るその音は・・・
幸福の音には聞こえなくなってしまった。
久しぶりに聞いたその音は・・・
やけに小さな音に聞こえて・・・
悲しい音色にも聞こえてしまった・・・。
「小町、早く入りな。」
武蔵がいつものように優しい笑顔でそう言ってくれる。
武蔵は、優しくて。
凄く、優しくて。
相変わらず優しくて。
あれから1年経ったけど、変わらず優しくて・・・。
でも、それだけで・・・。
それだけでしかなくて・・・。
何も進展していない。
あの日から、武蔵と私は何も進展していない・・・。
“女子大生”だから・・・。
いくらバイトをしていても、私は“女子大生”だから・・・。
社会人になったら、きっと変わる・・・。
きっと、変わる・・・。
空回りの芝居ではなく、今度こそ恋の芝居に・・・。
きっと、変わるはず・・・。
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