【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
50 / 235
5

5-12

しおりを挟む
男子が去って行った後、この人と並んで駅まで歩く。
お互いに無言で、歩く・・・。



何かが、溢れだしそうになっている・・・。



今口を開けたら、何かが溢れだしてしまう・・・。



だから、口をしっかりと結んだ・・・。



溢れだしてしまわないように・・・。



私という器に、この短期間で何かが凄い勢いで溜まってしまっていて・・・。



それが溢れだしてしまわないように・・・。



必死に、口を結んだ・・・。



結んだ・・・。



結んだのに・・・。



「小町。」



この人が・・・



この人が、私の名前を・・・。



初めて、初めて、呼んだ・・・。



それに驚き立ち止まると・・・



この人も立ち止まり・・・



優しい笑顔で、でも心底恥ずかしそうな顔で、そんな顔で私を見下ろして・・・



「“小町”の名前の通り見た目は絶世の美女なのに、本当に最強の女の子だよね。
24歳のオジサンが女子高生に翻弄されるわけだよ。」



そんなことを、この人がそんなことを心底恥ずかしそうな顔で言うので、結んでいた口を開けて笑ってしまった。



「そっちだって名前の通り、“武蔵”だね。
言葉の剣だったけど真剣勝負だったのが分かった。
お父さんの会社で薬の研究してるんだってね。」



そう言いながら、この人の・・・武蔵の目に右手を少しだけ伸ばした。



「目に宿った力が私のお父さんに少し似てた。」



「それを言うなら、小町の方が社長によく似ていたけどね。
さっきの男の子と対峙してる時の雰囲気は社長によく似てたよ。」



「それ・・・嬉しくはないから。
私は可愛い女子高生なんだけど。」



「見た目はそうだけど、中身は可愛いっていう表現ではないと思うよ?」



武蔵がそう言って・・・。
でも、心底嬉しそうな顔で私を見るから・・・。
だから、今日は何も言い返さなかった。



その代わりに・・・



「武蔵・・・。」



この人の名前を呼んだ。
昔の武士、最強の剣士と同じこの人の名前を。



見上げた武蔵には、朝の強くも柔らかい陽の光りが当たっている・・・。
そろそろ2月も終わる・・・。
3月となり、春の季節がやってくる。



そしたら高校も卒業し、私はどんどん大人になっていく。



胸が苦しくなってきて・・・両手で抑えた。



最低最悪なことに、私は武蔵に恋をしていると自覚してしまった。



親が決めた相手とだけ恋をすると決めていたのに・・・。



それがきっと幸せになれる方法だと思っていたのに・・・。



だって、格好良くて・・・。
24歳のオジサンの武蔵が、今はこんなに格好良く見えてしまっていて・・・。



まだ女子高生の私には太刀打ち出来なかった。
女子高生を言い訳にしたら武蔵にまたお説教されてしまうかもしれないけど、女子高生だからだと思う。



きっと、私がもっと大人だったら武蔵に恋をしなかったと思う。
親が決めた相手と幸せになる為に、こんなに虚しくなるだけの恋はしなかったと思う。



だから、きっと私が女子高生だから・・・。



高校を卒業して、大学生になればきっとこの虚しいだけの恋はきっと幕を閉じる・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

処理中です...