【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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男子が去って行った後、この人と並んで駅まで歩く。
お互いに無言で、歩く・・・。



何かが、溢れだしそうになっている・・・。



今口を開けたら、何かが溢れだしてしまう・・・。



だから、口をしっかりと結んだ・・・。



溢れだしてしまわないように・・・。



私という器に、この短期間で何かが凄い勢いで溜まってしまっていて・・・。



それが溢れだしてしまわないように・・・。



必死に、口を結んだ・・・。



結んだ・・・。



結んだのに・・・。



「小町。」



この人が・・・



この人が、私の名前を・・・。



初めて、初めて、呼んだ・・・。



それに驚き立ち止まると・・・



この人も立ち止まり・・・



優しい笑顔で、でも心底恥ずかしそうな顔で、そんな顔で私を見下ろして・・・



「“小町”の名前の通り見た目は絶世の美女なのに、本当に最強の女の子だよね。
24歳のオジサンが女子高生に翻弄されるわけだよ。」



そんなことを、この人がそんなことを心底恥ずかしそうな顔で言うので、結んでいた口を開けて笑ってしまった。



「そっちだって名前の通り、“武蔵”だね。
言葉の剣だったけど真剣勝負だったのが分かった。
お父さんの会社で薬の研究してるんだってね。」



そう言いながら、この人の・・・武蔵の目に右手を少しだけ伸ばした。



「目に宿った力が私のお父さんに少し似てた。」



「それを言うなら、小町の方が社長によく似ていたけどね。
さっきの男の子と対峙してる時の雰囲気は社長によく似てたよ。」



「それ・・・嬉しくはないから。
私は可愛い女子高生なんだけど。」



「見た目はそうだけど、中身は可愛いっていう表現ではないと思うよ?」



武蔵がそう言って・・・。
でも、心底嬉しそうな顔で私を見るから・・・。
だから、今日は何も言い返さなかった。



その代わりに・・・



「武蔵・・・。」



この人の名前を呼んだ。
昔の武士、最強の剣士と同じこの人の名前を。



見上げた武蔵には、朝の強くも柔らかい陽の光りが当たっている・・・。
そろそろ2月も終わる・・・。
3月となり、春の季節がやってくる。



そしたら高校も卒業し、私はどんどん大人になっていく。



胸が苦しくなってきて・・・両手で抑えた。



最低最悪なことに、私は武蔵に恋をしていると自覚してしまった。



親が決めた相手とだけ恋をすると決めていたのに・・・。



それがきっと幸せになれる方法だと思っていたのに・・・。



だって、格好良くて・・・。
24歳のオジサンの武蔵が、今はこんなに格好良く見えてしまっていて・・・。



まだ女子高生の私には太刀打ち出来なかった。
女子高生を言い訳にしたら武蔵にまたお説教されてしまうかもしれないけど、女子高生だからだと思う。



きっと、私がもっと大人だったら武蔵に恋をしなかったと思う。
親が決めた相手と幸せになる為に、こんなに虚しくなるだけの恋はしなかったと思う。



だから、きっと私が女子高生だから・・・。



高校を卒業して、大学生になればきっとこの虚しいだけの恋はきっと幕を閉じる・・・。
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