【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
35 / 235
4

4-4

しおりを挟む
※※※※※


 目が覚めたとき、どういう状況になっているのかよくわからなかった。
 えっと……ふたりに挟まれて寝ていたはずだけど。
 私はむくりと身体を起こす。足元のほうにふたりの気配を感じた。

「…………」

 気持ちよさそうに、アメシストとシトリンがくっついて寝ていた。青年の姿をしているのに、仔犬が身を寄せ合って寝ているみたいな様子でなんとも微笑ましい。
 昨日も思ったけどさ、仲良いよね……
 もともとひとつの石だったのだ。接触しているほうが安定するのかもしれない。

「別々に喚び出すのがあの石にとって正解だったのかもしれないけれど、こういうのを見せられるとアメトリンとして喚ぶべきだったんじゃないかって考えちゃうよねえ……」

 ふたりの頭を撫でてやると、くすぐったそうに身じろぎをして目を開けた。

「んー、おはよう、マスター」
「おはよう。眠れなかったのか?」

 それぞれが小さくあくびをして身体を起こした。

「おはようございます、アメシストさん、シトリンさん。私はちゃんと眠れたので元気です。おふたりはいかがですか?」
「僕は元気だよ。マスターの隣で寝ると回復も早いみたいだねえ」
「俺も元気だ。ここは寝心地がいい」
「そりゃあまあ、狭いベッドでぎゅうぎゅうに寝ていたのと比べたら、心地がいいんじゃないですかね?」

 病院では一人用のベッドにふたりで寝ていたのだ。このベッドは充分すぎるくらい広いのだから、それだけでも快適だろう。

「今夜も一緒に寝られるとありがたいんだが」
「私に手を出さない約束ができるなら、前向きに検討しましょう」
「僕も一緒がいいなあ。次は毛布も持ってくるから、ね?」
「……考えさせてください」

 ふと思い出したが、ルビは夜中にこの部屋を訪ねたのだろうか。ぐっすり寝過ぎて私は起きもしなかったのだが。


※※※※※


 アメシストとシトリンのふたりを連れ立って食堂を訪ねると、朝食の準備が進んでいた。焼いたパンの匂いとお茶の香りが満ちている。

「おはよう、マスター。昨夜はお楽しみだったのか?」
「おはようございます、ルビさん、別に何も楽しいことはありませんが」

 なんのことだろうと首を傾げると、アメシストとシトリンが居心地悪そうにした。厨房から顔を出したオパールが笑っている。

「あまりからかってやるなよ、ルビくん。マスターの部屋に忍び込めなかったからって、そういうのは感心しないなあ」
「鉱物人形がマスターに触れ合いを求めるのは自然だろう? あんただって、教官殿とよろしくしていたんじゃないのか?」

 不満げにルビが返すと、オパールは朝食の準備をしながら余裕の笑みを浮かべる。

「そりゃあオレと彼女は夫婦だからな。することはするぞ」
「……ご夫婦なんですか?」

 思わぬ発言に、私は適当な椅子に腰を下ろして尋ねた。オパールはこちらを見る。

「説明されなかったのか。協会職員は別段の事情がない限りは既婚者なんだよ。人間の伴侶がいなければ、オレらみたいに人間と鉱物人形で結婚しているんだぜ。回復させることを考えたら、そういうことにしておいたほうが都合がいいだろ?」

 なるほど、粘膜接触……
 私はわかったようなわからないような気持ちで頷いておく。
 そういえば、セレナの姿が見えないのだが、体力的なものでまだ寝ているということだろうか。
 むむむ……いつかはそういうことをしないといけなくなるんでしょうか……
 私はしれっと両隣に挟んで座るアメシストとシトリンを見やる。
 大きな怪我をさせなければいい話、よね?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さな恋のトライアングル

葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児 わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係 人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった *✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻* 望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL 五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長 五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

処理中です...