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「小町、よく眠れてるか?」
月曜日、朝から社長に呼び出されたかと思ったらまたそんなことを聞かれた。
私の睡眠のことなどこれまで聞かれたこともないのに、この前私が“二十歳からよく眠れてない”と答えたからかもしれない。
「この前は久しぶりによく眠れたけど、そこからまた眠れなくなった。」
武蔵の夢を見たくないというよりは、矢田さんとのことを考えすぎて眠れない。
そんなことを考えていると、社長が私の顔を少し長めに見てきた。
「“あの子”とは会ってるのか?」
“あの子”とは矢田さんのこと。
私からしてみると矢田さんは37歳の大人なのに父親から見ると“あの子”になるらしい。
「会ってる、土曜日も日曜日も夜に会った。
少しだけだけどね。」
「そうか、いくらか良い顔になってるからな。」
「そう?」
「少しは覚悟を決めたか。
去年は覚悟なんて一切ない顔をしていたからな。」
それはその通りで。
矢田さんに降参したのに良い顔なんて出来るわけがない。
でも・・・
「この10年間、それなりに覚悟は決めて頑張ってきたつもりだったけどね、自分では。」
「この10年間は無駄に力が入りすぎてた。
硬直すると素早く動けなくなるからな。
それと形にこだわりすぎていた。
型にハマることなく状況や相手の出方次第で臨機応変に対応する必要がある。」
“父親”がこんなことを言った。
思い返してみると、こんなことをよく言っている“父親”だった。
その時は「また難しいことを言ってる」と思っていただけだったけれど、今日はこの言葉も器の中で反響している。
「左手しかないの。」
この話の途中、初めて“父親”に何かを言う。
そんな私に父親が目を鋭く光らせた。
その目を見詰め返して、言う。
「右手もなくなった。
刀も他の武器も脇差しも何もない。
“花”も上手く使いこなせない。
利き手ではない左手だけしか私にはない。」
私がそう言うと、父親が小さく笑った。
滅多に笑わない父親が・・・小さくだけど笑った。
「寝ろ、小町。」
「そんなに寝不足に見える?」
「秋の夜長には必ずよく眠れ。
立冬まで、“秋の夜長”といわれる僅かな期間は必ず。
代々社長になる人間にはそう言われてきた。」
「なにそれ?」
「寝てる間に整うからな。
普段寝ていないなら意識してでも寝ろ、小町。
立冬まで残り僅かだからな、左手だけでも眠ることなら出来るだろ。」
そんな、よく分からないアドバイスを“父親”がしてきた。
月曜日、朝から社長に呼び出されたかと思ったらまたそんなことを聞かれた。
私の睡眠のことなどこれまで聞かれたこともないのに、この前私が“二十歳からよく眠れてない”と答えたからかもしれない。
「この前は久しぶりによく眠れたけど、そこからまた眠れなくなった。」
武蔵の夢を見たくないというよりは、矢田さんとのことを考えすぎて眠れない。
そんなことを考えていると、社長が私の顔を少し長めに見てきた。
「“あの子”とは会ってるのか?」
“あの子”とは矢田さんのこと。
私からしてみると矢田さんは37歳の大人なのに父親から見ると“あの子”になるらしい。
「会ってる、土曜日も日曜日も夜に会った。
少しだけだけどね。」
「そうか、いくらか良い顔になってるからな。」
「そう?」
「少しは覚悟を決めたか。
去年は覚悟なんて一切ない顔をしていたからな。」
それはその通りで。
矢田さんに降参したのに良い顔なんて出来るわけがない。
でも・・・
「この10年間、それなりに覚悟は決めて頑張ってきたつもりだったけどね、自分では。」
「この10年間は無駄に力が入りすぎてた。
硬直すると素早く動けなくなるからな。
それと形にこだわりすぎていた。
型にハマることなく状況や相手の出方次第で臨機応変に対応する必要がある。」
“父親”がこんなことを言った。
思い返してみると、こんなことをよく言っている“父親”だった。
その時は「また難しいことを言ってる」と思っていただけだったけれど、今日はこの言葉も器の中で反響している。
「左手しかないの。」
この話の途中、初めて“父親”に何かを言う。
そんな私に父親が目を鋭く光らせた。
その目を見詰め返して、言う。
「右手もなくなった。
刀も他の武器も脇差しも何もない。
“花”も上手く使いこなせない。
利き手ではない左手だけしか私にはない。」
私がそう言うと、父親が小さく笑った。
滅多に笑わない父親が・・・小さくだけど笑った。
「寝ろ、小町。」
「そんなに寝不足に見える?」
「秋の夜長には必ずよく眠れ。
立冬まで、“秋の夜長”といわれる僅かな期間は必ず。
代々社長になる人間にはそう言われてきた。」
「なにそれ?」
「寝てる間に整うからな。
普段寝ていないなら意識してでも寝ろ、小町。
立冬まで残り僅かだからな、左手だけでも眠ることなら出来るだろ。」
そんな、よく分からないアドバイスを“父親”がしてきた。
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