16 / 235
1
1-16
しおりを挟む
フラフラと揺れ出そうとする私の器を一定に保つ。
多くの社員達が二次会にまで参加していく中、その全員に挨拶をして私は帰ることにした。
絶対に酔っている私の姿に姫は驚いていて、すぐに矢田さんを呼んでしまった。
でも、矢田さんの周りには多くの男女がいて・・・その中にあの営業部の女の子も。
その女の子が酔っぱらっている素振りで矢田さんの腕を両手でしっかりと掴んで放さず。
それに嬉しく思いながら矢田さんにも挨拶をして歩きだした。
矢田さんはとても優秀な人で、とても優しい人で、私の婚約者に決められてしまったとても可哀想な人で。
そんな矢田さんを悪く言われるのは嫌だったから。
あの女の子にも矢田さんの良さを分かって貰えて純粋に嬉しかった。
純粋に、嬉しかった・・・。
そう思いながら駅までの道を1人で歩く・・・。
途中で何人かの人に声を掛けられたように思ったけど、何も頭に入ってこなかった。
器の中にも入ってこなかった。
フラフラと揺れだした器を筋肉だけで動かし前に進む。
1人で、前に進む。
1人で進もうと思う。
屋敷に残されるのは嫌だから。
私は父親から屋敷に残る妻であるようには育てられていないはず。
私も刀を持って戦う女に育てられた。
右手でも左手でも戦える女に。
右手がなくなろうと、太刀がなくなろうと、どんな武器でも戦える女に。
夫となる矢田さんも戦場で戦う。
そこで、私も1人で戦う。
1人でも闘える女に私は育てられたから。
最後の最後まで、出せる力を全て出しきり戦うように育てられたから。
脇差を差したまま討たれはしない。
討たれる時は脇差までも武器にしてから討たれる。
フラフラと揺れる器・・・。
でも、不思議と・・・
中に溜まっている水はタプタプと静かに揺れるだけ。
静かだった・・・。
とても静かだった・・・。
戦うのに、とても静かで・・・。
研ぎ澄まされる・・・。
研ぎ澄まされていく・・・。
そう感じた時、
「小町さん!」
静かな静かな器の中で、私の名前を呼ぶ声が響いた・・・。
それが器の中で反響していく・・・。
それには笑いながら振り向いた。
笑いながら振り向き、声の主を見た。
矢田さんだった。
私の夫となる矢田さんだった。
「フラフラですね、送ります。」
「ありがとう。」
矢田さんはとても優しくて。
とても、優しくて・・・。
可哀想な人だけど、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。
そこに愛はなくても、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。
あと1ヶ月・・・。
立冬までの1ヶ月・・・。
秋の夜長だから・・・
夢を見よう・・・。
1ヶ月後の立冬の日、そこに愛もある夢を・・・。
私の右手もなくなり、太刀もなくなり、脇差までなくなった恋の戦場。
他に使える武器もなく、あるのは利き手ではない左手だけ。
この左手1本で私は戦う。
最後の最後まで・・・。
隣に歩くこの人をチラリと見上げる。
恋の戦場で、私はこの人と戦う。
この人と左手1本で戦って・・・
戦って・・・
愛を討ち取る・・・。
多くの社員達が二次会にまで参加していく中、その全員に挨拶をして私は帰ることにした。
絶対に酔っている私の姿に姫は驚いていて、すぐに矢田さんを呼んでしまった。
でも、矢田さんの周りには多くの男女がいて・・・その中にあの営業部の女の子も。
その女の子が酔っぱらっている素振りで矢田さんの腕を両手でしっかりと掴んで放さず。
それに嬉しく思いながら矢田さんにも挨拶をして歩きだした。
矢田さんはとても優秀な人で、とても優しい人で、私の婚約者に決められてしまったとても可哀想な人で。
そんな矢田さんを悪く言われるのは嫌だったから。
あの女の子にも矢田さんの良さを分かって貰えて純粋に嬉しかった。
純粋に、嬉しかった・・・。
そう思いながら駅までの道を1人で歩く・・・。
途中で何人かの人に声を掛けられたように思ったけど、何も頭に入ってこなかった。
器の中にも入ってこなかった。
フラフラと揺れだした器を筋肉だけで動かし前に進む。
1人で、前に進む。
1人で進もうと思う。
屋敷に残されるのは嫌だから。
私は父親から屋敷に残る妻であるようには育てられていないはず。
私も刀を持って戦う女に育てられた。
右手でも左手でも戦える女に。
右手がなくなろうと、太刀がなくなろうと、どんな武器でも戦える女に。
夫となる矢田さんも戦場で戦う。
そこで、私も1人で戦う。
1人でも闘える女に私は育てられたから。
最後の最後まで、出せる力を全て出しきり戦うように育てられたから。
脇差を差したまま討たれはしない。
討たれる時は脇差までも武器にしてから討たれる。
フラフラと揺れる器・・・。
でも、不思議と・・・
中に溜まっている水はタプタプと静かに揺れるだけ。
静かだった・・・。
とても静かだった・・・。
戦うのに、とても静かで・・・。
研ぎ澄まされる・・・。
研ぎ澄まされていく・・・。
そう感じた時、
「小町さん!」
静かな静かな器の中で、私の名前を呼ぶ声が響いた・・・。
それが器の中で反響していく・・・。
それには笑いながら振り向いた。
笑いながら振り向き、声の主を見た。
矢田さんだった。
私の夫となる矢田さんだった。
「フラフラですね、送ります。」
「ありがとう。」
矢田さんはとても優しくて。
とても、優しくて・・・。
可哀想な人だけど、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。
そこに愛はなくても、この人がそれを受け入れてくれるのなら・・・。
あと1ヶ月・・・。
立冬までの1ヶ月・・・。
秋の夜長だから・・・
夢を見よう・・・。
1ヶ月後の立冬の日、そこに愛もある夢を・・・。
私の右手もなくなり、太刀もなくなり、脇差までなくなった恋の戦場。
他に使える武器もなく、あるのは利き手ではない左手だけ。
この左手1本で私は戦う。
最後の最後まで・・・。
隣に歩くこの人をチラリと見上げる。
恋の戦場で、私はこの人と戦う。
この人と左手1本で戦って・・・
戦って・・・
愛を討ち取る・・・。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
アンコール マリアージュ
葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか?
ファーストキスは、どんな場所で?
プロポーズのシチュエーションは?
ウェディングドレスはどんなものを?
誰よりも理想を思い描き、
いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、
ある日いきなり全てを奪われてしまい…
そこから始まる恋の行方とは?
そして本当の恋とはいったい?
古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
恋に恋する純情な真菜は、
会ったばかりの見ず知らずの相手と
結婚式を挙げるはめに…
夢に描いていたファーストキス
人生でたった一度の結婚式
憧れていたウェディングドレス
全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に
果たして本当の恋はやってくるのか?

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる