【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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と、思っていたら・・・



「「「じゃ~んけ~ん・・・ぽんっ!!」」」



「やった!勝った!!」



「うわっ俺また負け!!
3回連続負けてる!!」



研究室の中、全社員が本気のじゃんけんをして最大5人までの参加枠を狙っていた。



手をチョキにしたまま驚きながら固まっていると・・・



「小町さんも参加ですね!!
私も今回勝ちました!!!」



米倉さんが本当に嬉しそうな顔でチョキにした指を動かしている。



そして・・・



「矢田さんも久しぶりに勝ちましたね!!
お皿落とさないでくださいよ~?
今日のお昼休みは珍しく何も落としてなかったので、その分とかなしですからね!!」



矢田さんも勝ったようで、嬉しそうな顔で米倉さんに頷いていた。



負けて悔しがっている竹之内君に近付いて声を掛けてみた。



「毎回こんな感じなの?
参加するの面倒だったりしないの?」



「小町さん嫌ですか!?
それなら俺が!!!」



「ごめんね、そういう話じゃなくて。」



笑いながらそう言うと、竹之内君が残念そうな声を上げた。



「面倒なわけないじゃないですか!
美味しい物タダで食べられますし、研究室の人以外から話聞けますし!!
特に理系じゃない人との会話って面白くて!!
文系の人達って変わってますよね~!!
そういう人達から話聞くと新鮮なので、物の見方が変わって閃きが生まれます!!」



竹之内君が残念そうな顔で、でもとても良い表情でそんな発言をした。



“生きている顔”・・・。
そして”生きている心”を持っている顔に見えた。



そんなことを会社で誰かに感じたことは初めてで・・・。



竹之内君を見てから研究室の人達を見渡した。



午後の実験を開始していく研究職の人達・・・。



他の部署のように華やかさや活気さはないはずなのに・・・。



研ぎ澄まされた空気を感じる・・・。



昨日まではそれに気付かなかったのに・・・。



今日は・・・頭が軽い。



昨日よく眠れたからかもしれない。



そう考えた時・・・



武蔵の顔を思い出した。



夢の中の武蔵の顔を思い出した。



31歳になった今見ても、武蔵は私を好きでいてくれているような顔をしていた。



美化や脚色された夢ではなくて、不思議とあの日が再生されたような夢だった。



夢の中でだけでも約10年ぶりに武蔵に会えた。



夢の中でだけでも、武蔵に会えた。



朝起きた時、悲しくも切なくもなかった。



ただただ、幸せな夢だった。



その夢で、私という器に水が少し溜まったのが分かった。



何故だか、それが分かった。



だからか頭が軽い。



頭で考えるよりも私という器全てで考え、感じて、何かを判断しようとする。



「小町さん・・・昨日の今日でよく覚えましたね?」



矢田さんが驚いた顔で私を見下ろしている。
昨日教わった助手の作業。
専門用語も多く揃える物も複雑だったのに、実験の為の準備作業が自然と出来た。



頭というより、私の器が覚えていた・・・。



そんな不思議な感覚で・・・。



そんな初めての不思議な感覚に少し怖くなり、矢田さんを見上げながら少しだけ近付いた。



私を見下ろす矢田さんが一瞬だけ瞳を揺らし・・・



そしたら・・・



私の背中に優しく手を添えてくれた。



「小町さんは幼い頃からお父様より鍛練を積まされています。
日々の鍛練が、全て小町さんに身に付いているはずです。
迷いが消えましたね、良い剣が振れそうですね。」



「良い・・・剣・・・。」



私が呟くと矢田さんの瞳が静かに鋭さを持った。
眼鏡の奥・・・小さな目のはずなのに、怖いと思うくらいで・・・。



「戦場で戦わないといけませんからね。
迷っている隙に殺されてしまいます。
小町さんは幼い頃からお父様に戦場で戦うための術を教わっています。」



「そんなこと教わったかな・・・。」



「太刀を持った右手を失った時、どうしますか?」



矢田さんにそんなことを聞かれ・・・



「左手で太刀を持てばいいんじゃない?」



「そうですね、その左手で戦えますか?
利き手ではない左手で。」



「右手でしか戦えないなんて無駄なことはしない。
左手でも戦えるようにしておく。
刀が使えないのなら他の武器で、脇差を差したまま討たれることは許されない。」



何故だか、不思議とそんな言葉が出てきた。
頭ではなく・・・私の器がそれを知っていたかのように。



興奮はしていない。
とても静かで・・・。
器の中に溜まっている水はとても静かで・・・。



少しだけ揺れているようにも思うけど、とても静かに揺れている・・・。



「久しぶりに良い状態ですね。
戦うその日の為に、日々の鍛練を。
それは技術だけではなく心も。
日々の鍛練が戦場の場で出てくるものですから。」



矢田さんが優しく笑いながら、私の背中に添えていた手でポンッと優しく叩いた。



そして・・・



「そうですよね・・・。
脇差を差したまま討たれるわけにはいきませんね・・・。」



そんなことを呟き・・・
眼鏡の奥に見えたはずの優しい瞳を鋭くさせた・・・。
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