5 / 235
1
1-5
しおりを挟む
─────────
──────
....*・...・*..・*・.
大きな大きなお屋敷。
その中で私は鼻歌を歌いながら小走りで進んでいく。
大股ではなく、小股で。
自分の姿を見下ろして自然と笑顔になってくる。
今日は19歳の誕生日。
お父さんとお母さんと料亭で食事をしたので、誕生日にと買ってくれた薄ピンク色の着物を着ている。
可愛い可愛い着物。
その着物を着て、お屋敷の中を小走りで進んでいく。
長い長い廊下・・・。
そこに、私の大好きな人の後ろ姿が。
見付けた瞬間、抑えられないニヤけた顔と大きく高鳴る心臓の音。
この可愛い着物をあの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
私は“美人”だから。
“小町”という名の通り、私は“絶世の美女”と言われている。
小野小町のように歌は詠めないけれど、私は“絶世の美女”とは言われている。
そんな私がこんなに可愛い着物姿になって、あの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
考えただけでドキドキとしたしワクワクとした。
胸を両手で抑えながら大好きな人の名前を呼んだ。
大好きな大好きな人の名前を。
「武蔵(むさし)!!!」
大好きな武蔵が立ち止まり、ゆっくりと・・・
ゆっくりと、振り返る・・・。
私に、振り返る・・・。
振り返る・・・
瞬間・・・
力ずくで両目をこじ開けた。
こじ開けてみせた。
こじ開けた目からは、今日も大量の涙が流れていた・・・。
小野小町は夢の中で愛する人と会いたいと詠っていたけれど、私はそんな虚しいことなんて出来ない。
そんな悲しいことなんて出来ない。
そんな無駄に切なさだけが残る夢なんて見たくもない。
結婚する。
1ヶ月7日後に、結婚する。
もう二度と会うことが出来ないのなら、夢の中でも会いたくはない。
大量に流れてくる涙を拭いながらまたノートに文字を書いていく。
あの人のことを考えてばかりだからあの人の夢ばかり見てしまう。
無駄に幸せな夢ばかり見てしまう。
空っぽだから。
私はこんなにも空っぽだから。
だから、この器全てにあの人を入れたがってしまう。
あの人を入れるために器を空っぽにしてしまう。
どんなに頭の中に会社のことが入っても、器は空っぽのまま。
何も入らないから溜まってはいかない。
あの人はどんな顔をしていたのかもう思い出せない。
12年も前のこと。
あの人がどんな顔で私を見ていたのか思い出せない。
片想いだった。
片想いだった・・・。
だから、あの人はきっと普通の顔をしていたのだと思う。
31歳になった今見たら、それが分かったと思う。
でも当時は・・・
私のことを好きでいてくれていると夢のようなことを思っていた。
夢の中だった・・・。
18歳から二十歳まで、私は夢の中にいた。
幸せな夢の中にいた。
──────
....*・...・*..・*・.
大きな大きなお屋敷。
その中で私は鼻歌を歌いながら小走りで進んでいく。
大股ではなく、小股で。
自分の姿を見下ろして自然と笑顔になってくる。
今日は19歳の誕生日。
お父さんとお母さんと料亭で食事をしたので、誕生日にと買ってくれた薄ピンク色の着物を着ている。
可愛い可愛い着物。
その着物を着て、お屋敷の中を小走りで進んでいく。
長い長い廊下・・・。
そこに、私の大好きな人の後ろ姿が。
見付けた瞬間、抑えられないニヤけた顔と大きく高鳴る心臓の音。
この可愛い着物をあの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
私は“美人”だから。
“小町”という名の通り、私は“絶世の美女”と言われている。
小野小町のように歌は詠めないけれど、私は“絶世の美女”とは言われている。
そんな私がこんなに可愛い着物姿になって、あの人は何て言ってくれるか。
どんな顔をしてくれるか。
考えただけでドキドキとしたしワクワクとした。
胸を両手で抑えながら大好きな人の名前を呼んだ。
大好きな大好きな人の名前を。
「武蔵(むさし)!!!」
大好きな武蔵が立ち止まり、ゆっくりと・・・
ゆっくりと、振り返る・・・。
私に、振り返る・・・。
振り返る・・・
瞬間・・・
力ずくで両目をこじ開けた。
こじ開けてみせた。
こじ開けた目からは、今日も大量の涙が流れていた・・・。
小野小町は夢の中で愛する人と会いたいと詠っていたけれど、私はそんな虚しいことなんて出来ない。
そんな悲しいことなんて出来ない。
そんな無駄に切なさだけが残る夢なんて見たくもない。
結婚する。
1ヶ月7日後に、結婚する。
もう二度と会うことが出来ないのなら、夢の中でも会いたくはない。
大量に流れてくる涙を拭いながらまたノートに文字を書いていく。
あの人のことを考えてばかりだからあの人の夢ばかり見てしまう。
無駄に幸せな夢ばかり見てしまう。
空っぽだから。
私はこんなにも空っぽだから。
だから、この器全てにあの人を入れたがってしまう。
あの人を入れるために器を空っぽにしてしまう。
どんなに頭の中に会社のことが入っても、器は空っぽのまま。
何も入らないから溜まってはいかない。
あの人はどんな顔をしていたのかもう思い出せない。
12年も前のこと。
あの人がどんな顔で私を見ていたのか思い出せない。
片想いだった。
片想いだった・・・。
だから、あの人はきっと普通の顔をしていたのだと思う。
31歳になった今見たら、それが分かったと思う。
でも当時は・・・
私のことを好きでいてくれていると夢のようなことを思っていた。
夢の中だった・・・。
18歳から二十歳まで、私は夢の中にいた。
幸せな夢の中にいた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
アンコール マリアージュ
葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか?
ファーストキスは、どんな場所で?
プロポーズのシチュエーションは?
ウェディングドレスはどんなものを?
誰よりも理想を思い描き、
いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、
ある日いきなり全てを奪われてしまい…
そこから始まる恋の行方とは?
そして本当の恋とはいったい?
古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
恋に恋する純情な真菜は、
会ったばかりの見ず知らずの相手と
結婚式を挙げるはめに…
夢に描いていたファーストキス
人生でたった一度の結婚式
憧れていたウェディングドレス
全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に
果たして本当の恋はやってくるのか?

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる