【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

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....*・...・*..・*・.



大きな大きなお屋敷。
その中で私は鼻歌を歌いながら小走りで進んでいく。



大股ではなく、小股で。



自分の姿を見下ろして自然と笑顔になってくる。



今日は19歳の誕生日。
お父さんとお母さんと料亭で食事をしたので、誕生日にと買ってくれた薄ピンク色の着物を着ている。



可愛い可愛い着物。
その着物を着て、お屋敷の中を小走りで進んでいく。



長い長い廊下・・・。



そこに、私の大好きな人の後ろ姿が。



見付けた瞬間、抑えられないニヤけた顔と大きく高鳴る心臓の音。



この可愛い着物をあの人は何て言ってくれるか。



どんな顔をしてくれるか。



私は“美人”だから。



“小町”という名の通り、私は“絶世の美女”と言われている。



小野小町のように歌は詠めないけれど、私は“絶世の美女”とは言われている。



そんな私がこんなに可愛い着物姿になって、あの人は何て言ってくれるか。



どんな顔をしてくれるか。



考えただけでドキドキとしたしワクワクとした。



胸を両手で抑えながら大好きな人の名前を呼んだ。



大好きな大好きな人の名前を。





















「武蔵(むさし)!!!」







大好きな武蔵が立ち止まり、ゆっくりと・・・





ゆっくりと、振り返る・・・。





私に、振り返る・・・。





振り返る・・・





瞬間・・・





力ずくで両目をこじ開けた。





こじ開けてみせた。





こじ開けた目からは、今日も大量の涙が流れていた・・・。





小野小町は夢の中で愛する人と会いたいと詠っていたけれど、私はそんな虚しいことなんて出来ない。




そんな悲しいことなんて出来ない。




そんな無駄に切なさだけが残る夢なんて見たくもない。




結婚する。




1ヶ月7日後に、結婚する。




もう二度と会うことが出来ないのなら、夢の中でも会いたくはない。




大量に流れてくる涙を拭いながらまたノートに文字を書いていく。




あの人のことを考えてばかりだからあの人の夢ばかり見てしまう。




無駄に幸せな夢ばかり見てしまう。




空っぽだから。




私はこんなにも空っぽだから。




だから、この器全てにあの人を入れたがってしまう。




あの人を入れるために器を空っぽにしてしまう。




どんなに頭の中に会社のことが入っても、器は空っぽのまま。




何も入らないから溜まってはいかない。




あの人はどんな顔をしていたのかもう思い出せない。
12年も前のこと。
あの人がどんな顔で私を見ていたのか思い出せない。




片想いだった。
片想いだった・・・。
だから、あの人はきっと普通の顔をしていたのだと思う。



31歳になった今見たら、それが分かったと思う。



でも当時は・・・



私のことを好きでいてくれていると夢のようなことを思っていた。



夢の中だった・・・。



18歳から二十歳まで、私は夢の中にいた。



幸せな夢の中にいた。
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