【完】秋の夜長に見る恋の夢

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
3 / 235
1

1-3

しおりを挟む
「・・・小町さん、そろそろお昼休み終わります。」



研究室の部屋の中、私に準備されたデスクに突っ伏して今日も昼寝をした。
二十歳の頃から夜はほとんど眠れていない。



会社の日は毎日のようにこうしてお昼休みに仮眠を取っている。
経理部の時は従兄弟でもある中岡部長・・・姫の旦那である透(とおる)が起こしてくれていた。



その透の部署でもなくなり、今日から研究室での仕事が始まる。
午前中、1つのチームでのミーティングに出席したけれどサッパリ分からなかった。



それでも議事録だけは作成し、チーム長の矢田(やだ)さんに提出はした。



私のことを起こしてくれたのはそのチーム長である矢田さん。
少し心配した顔で、優しい笑顔で、眼鏡の奥にある小さな目で私を見てくる。



「寝不足ですか?」



「そうなの、夜は眠れなくて。」



「病院で睡眠薬を処方して貰えますよ?」



正論を言われてしまい苦笑いをするしかない。



「あまり夜は寝たくないからいいの。」



「寝たくないんですか?
何かしているんですか?」



「何もしないために寝たくないだけ。」



そう言って笑いながら立ち上がる。



「起こしてくれてありがとう。」



「いえ、すみませんでした。」



何故か矢田さんの方が謝ってくる。
日焼けしていない真っ白な肌に真っ白な白衣。
白衣の裾が茶色く変色している。



「そこ、汚れてるよ?」



「・・・あ、さっき缶コーヒーを落として。
その時ですかね。」



矢田さんが困ったように笑いながら白衣を脱いだ。
その白衣を私が受け取る。



「ここではほとんど仕事は出来ないから、これくらいはやる。」



「すみません。」



また謝られ、それには少しだけ気になる。
“ありがとう”ではなく“すみません”と言う人なのだと思う。



「どういたしまして。
何をしたらいいのか分からないから、指示を出してね。」



こうして、加賀社長の一人娘である私は研究室での仕事をスタートさせた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

好きな事を言うのは勝手ですが、後悔するのはあなたです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:355pt お気に入り:2,138

同居離婚はじめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:209

我慢するだけの日々はもう終わりにします

恋愛 / 完結 24h.ポイント:717pt お気に入り:5,966

婚約破棄?ほーん…じゃあ死にますね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:96

身から出た錆とはよく言ったもので

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:362pt お気に入り:1,600

【完】幼なじみの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:12

処理中です...