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翌日、10月1日




会社のデスクに着き、始業時間を迎えた。
それからすぐに全ての銀行口座の通帳を準備し、羽鳥さんに伝える。



「月初の記帳回りに行ってきます。」



「うん、お願いね。
1人で回るには銀行も多いよね。」



羽鳥さんがそう言って、他の新卒の同期に声を掛けてくれようと口を開いたのを見て、私は先に声を出した。



「全然大丈夫ですから!!」



思ったよりも大きな声になっていて自分でも驚いていると、羽鳥さんは面白そうな顔で私の方を向いてきた。



「福富さんは元気な子だからね。」



「佐伯さんって、どこか悪いんですか?」



「うん、社長からはそう聞いてる。
具合が悪そうな時は迷わず救急車を呼ぶようにって。
社長の幼馴染みの知り合いの娘さんらしいんだよね。」



「めっちゃ遠い知り合いじゃないですか。」



「そう聞くとそうなんだけど、社長の幼馴染みの家族くらいの子らしくて。
入社してからずっと元気に福富さんと喧嘩してるからそんなに気にしてなかったけど・・・」



羽鳥さんが少しだけ悩んだ顔になり、でもすぐに私のことを見て小声になった。



「松戸先生が病院に連れていってくれたみたいだけど、あの2人って個人的な知り合いじゃないからね?
松戸先生って佐伯さんのお母さんの顧問もやってるらしくて、それ繋がりなだけだからね?
私がこんなフォローをするのも変だけど、福富さんも松戸先生のこと好きなんだよね?
佐伯さんとの話がチラッと聞こえてくる限りだと。」



私が先生に聞けなかった話を羽鳥さんが教えてくれ、更にはそんなことまで言ってきた。
それには小さく笑いながら答える。



「私が好きな人は違う人です。
あんな気取った人じゃない人です。」



そう答えながら、出社していない佐伯さんのデスクを眺める。



「彼女なんていないような、付き合ったこともなさそうな、そんな人が好きなんですよね。」



昨日の夜、先生は私の実家に来ることはなかった。
今日の朝も来ることはなかった。



先生は“行けない”というメッセージを送ってきたけれど、それに何て返していいのか分からなかった。



今この瞬間にも佐伯さんと一緒にいるのかなとか、2人して私のことをバカにしているのかなとか、2人して“何か”をしているのかなとか、そんなことばかり考えてしまい昨日は一睡も出来なかった。



「銀行回り行ってきます!!」



そんな考えを振り切るように歩き出した。
“朝人”を待ち続けようと決めた時から虚しくて無謀な恋になることは分かっていたから。



ちゃんと、覚悟はしていたから。



でも・・・



「よりによって、同じワンピースとか・・・!!」



エレベーターの中で1人になってから叫んだ。



私ではなく佐伯さんを選んだのだと、そう思わずにはいられないような展開だったから。
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