上 下
170 / 202
11

11-5

しおりを挟む
「これは泣きますから・・・!!」



泣いてしまったけれど、私は大きく笑いながら文句を言った。
でも、先生がこんな感じになってしまったのは私のせいでもあるとは分かるので、目の前にある先生の腕をパシッと軽めに叩いて終わりにした。



先生は困った顔で笑い、私からスッと離れてまたカウンターの向こう側へと歩いていく。



「ごめんな、なんかムラムラしてた。
今の全部忘れろ。
今日こんなことするはずじゃなかった。」



「はい、分かってます。」



私が返事をしたのを確認した先生は残りのご飯を一瞬で食べ、それからお財布を取り出しカウンターにお金を置いてきた。



昔のように500円玉ではなく、1万円札を。



「さっきのお詫びと明日のご馳走さまの分。
明日もお前に会いたい。
また朝飯食いに来ていい?」



「いいですけど・・・え、お釣持ってくるので待っててくれますか?
昔と同じ500円で大丈夫ですから。」



「さっきのお詫びも含めてる。
それから早朝料金。
毎朝事務所の奴には5千円も払って事務所に朝飯持って来させてるから、5時半だとこんなもんだろ。」



「え~!?こんなに貰えないですって!!
こんな料理に1万円も貰うのが当たり前になっちゃうと、普通に働けなくなりそうなので受け取りたくないんですけど!!」



そう言って、1万円札には触れないままカウンター越しに先生を見る。



「“朝1番”のお店はなくなったので、“明日のご馳走さまの分”はもう終わりにしたいです。
明日来てくれた時、ご飯のお礼として500円で大丈夫ですから。
明日はちゃんとしたご飯を出します。」



「今日も俺にとってはちゃんとした飯だったぞ?」



「いえ、ちゃんとしてなかったので・・・。」



変な思いを込めてしまったことを心の中で謝りながら、さっきの先生の姿は忘れることにする。
今度はご飯の力を借りずに先生にあんな風に言って貰いたいと思いながら。



「よし・・・っ、信じらんねーくらいパワーついた!!
行ってくる!!」



「うん、行って。」



私のその言葉に先生は残念そうに笑い、久しぶりに開けたはずのお店の引き戸を今日もスムーズに開けた。



夏の朝、眩しい朝日の中に先生の後ろ姿は消えていった。



ボサボサな髪の毛にスウェット姿ではなく、完璧な姿の先生の後ろ姿が。



「明日から気を付けて作ろう・・・。」



先生の仕事が上手くいくようにというパワーだけを込めて、明日からは料理を作る。



「ズルをしてもきっと上手くいかないもんね。」



自分に言い聞かせながら食器を洗い始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...