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翌日



「今日どうしたの?
そんな似合わない格好して。」



出社して“朝1番”に佐伯さんが喧嘩を売ってきた。
それには喧嘩を買いたくもなったけれど、その気持ちを飲み込んでまで隣に座る佐伯さんのことを真っ直ぐと見る。



「佐伯さんって私のことが嫌いなの?」



ストレートにそう聞くと佐伯さんは一瞬口を強く結び、それから濃い口紅が塗られている綺麗な唇をゆっくりと開いた。



「嫌い。」



「どうして?」



「私の子どもの頃にソックリな見た目だから。
それに・・・」



また口を強く結び、なんだか泣きそうな顔で私の身体に視線を移してきた。
あまりにも泣きそうな顔をしているのでこれには慌てる。
いつもめちゃくちゃ強い女の子だったから。



「今日さ、松戸会計事務所の松戸先生が来社するでしょ?」



涙を溜めている佐伯さんにそのことを言うと、佐伯さんはパソコンの画面に開かれている自分のスケジュールの方に視線を移した。



「前回も言ったけど、松戸先生って私が高校生の時からの知り合いで。
うちの実家が定食屋だったのも言ったことあるよね?
そこの常連さんだったんだよね。
あの人って私が高校生の時の記憶で時が止まってるみたいだから、大人の女になったところを見せてやりたくて。」



一瞬で惚れさせるような大人の魅力はないけれど、少しでも大人の女になったと知って欲しいと思っていた。



再会してからも“朝1番”で先生に朝ご飯を作っていた。
でも時間が5時半という早さだからいつもパジャマ姿でスッピンで。
昨日の夜ご飯の時もお風呂に入った後だったからパジャマ姿でスッピンだった。



再会したその日はリクルートスーツを着ていた。
営業の同期はリクルートスーツを着ている子達もいるけれど、社内で働く同期達はクールビズのタイミングに合わせるようにリクルートスーツを止めている子達もいて。



その1人である佐伯さん、目に溜めた涙はすっかりと引っ込み、意地悪な顔で私のことを見詰めてきた。



「高校の時、好きだったんだ?」



「そんな話まで佐伯さんには言わないから。」



本当はこんな話もする予定はなかったけれど、こんな話までしてしまった。



「松戸先生か・・・。
噂では凄い格好良い人らしいじゃん。
またそっちに頑張ってみれば?」



佐伯さんが何故か上機嫌になり、始業開始とともに仕事を始めていた。
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