上 下
135 / 202
9

9-2

しおりを挟む
朝人の部屋のキッチンで料理をしていく。
簡単な料理だけど、朝人が好きなご飯を作っていく。
朝人のことを考えて作っていく。



そんな私のことを朝人はキッチンカウンターの向こう側から見てきていて、チラッと朝人の顔を見るとなんだか寂しそうな顔をしていた。



「私のご飯、やっぱり朝1番で食べたかった?」



「お前の朝飯が食えるならどこでもいい。
練習でも何でもいい・・・。」



最後は小さな声で呟いていて、朝人の方を見るとやっぱり寂しそうな顔をしている。



「練習じゃないよ、朝人の為に朝ご飯作りに来たの!」



私の言葉を朝人は無視し、何も言わない。
何も言わないでやっぱり寂しそうな顔をしている。



“朝が弱い”
それが今日初めて分かった気がした。
朝ご飯を食べた後の朝人とは違い、確かにパワーを感じないから。



“朝1番”に入って来ていた時よりもずっとずっと、今朝はパワーを感じなかった。



すっかり老人のようになっている朝人の為に料理を作る。
朝人にパワーがつくように、簡単な料理だけど今日も作っていく。



「千寿子・・・。」



キッチンカウンター越しに朝人を見ると、寂しそうな顔で笑っている朝人が真っ直ぐと私のことを見ている。



「今日は一緒に朝飯食わない?
千寿子は朝飯食わない派なのは分かってるけど、少しだけでも。
気分だけでも・・・。」



「うん、そのつもりだよ!」



朝人と再会してからも“朝1番”だったところで朝人に朝ご飯を作って出していた。
“朝人が朝1番に帰ってきた時の毎度ありがとうございますの分”を貰っていたし、その後も毎回500円玉を私に渡してきていたから。



“明日のご馳走さまの分”ではなかったけれど、朝人は毎朝嬉しそうにカウンターに500円玉を置いていた。
そして、凄く凄く嬉しそうな顔で“朝1番”の引戸を開けてから私に振り向いてきていた。
完璧な顔面と髪型の“先生”の姿だったけれど、その時の顔は結構好きで。



“朝1番”だったところで私の朝ご飯を食べ、パワーがついた“先生”の姿は結構好きだった。



でも・・・



定食屋、“朝1番”の娘はもう終わりにする。



カウンターの向こう側にいる朝人を見ているだけにするのはもう終わり。



“先生”ではなく“朝人”の姿のこの人と向かい合って一緒に朝ご飯を食べる。



「「いただきます。」」



朝人の部屋にある古いちゃぶ台に向かい合って座り、2人で声を揃えて“いただきます”と言った。



私の朝ご飯をまた食べられるからか朝人は凄く凄く嬉しそうな顔で私を見ていて、それに私も笑い返してからご飯を食べた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

恋愛SP college

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

パートタイム痴漢LOVER

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:2

爆発的な青春、約束の絶景

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:1

【完結】喪服の娼婦がその愛を知るまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:188

「姫」と「執事」の誕生日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:3

処理中です...