上 下
88 / 202
5

5-25

しおりを挟む
────────────

────────


────




「どこまで頭を冷やしに行ってたんだよ!!!!!」



俺のことをまた“朝人”と呼んだ千寿子に怒鳴った。
俺が32歳、千寿子が23歳の年の8月に再会した。
どこをどう見ても大人の女になっていた千寿子に。
俺のことを“先生”と呼びどこかよそよそしく、そして敬語で話し掛けてきていた千寿子に。
でも、中身はちゃんとガキのままでもあるような千寿子に。



俺は怒鳴った。



“クマ凄いよ?そんな格好でどうしたの?
・・・あ、朝ご飯か。”



土曜日の朝にこんなに乱れたスーツ姿、乱れているだろう髪型、一睡もせずに千寿子を探していた今年34歳のオッサンの顔面を見ているはずの千寿子が“朝ご飯”かと言ってきた。



だから思わず怒鳴ってしまった。



自分の朝飯なんかよりも俺は千寿子を心配していたから。
熱が出てからの千寿子の様子はおかしかったから。
熱が出ているからだろうけど、千寿子の様子はおかしかった。



俺にあんなことを頼んできたのもそうだし、それ以上に佐伯さんのことについてあんな風に言ってきた。
俺に対する独占欲とかそんな話ではなく、佐伯さんの胸を見たと知っていた千寿子は俺にあんなことを聞いてきた。



佐伯さんがどんな様子だったか知っているはずの千寿子が。



“頭を冷やせ”とは言った。



身体の熱は下がったはずだからあとは頭なのだと思った。
身体の熱がまだ頭にだけ残っているのだと思った。



だから千寿子は佐伯さんのことに対してあんな風に言ったのだと思った。
だから千寿子は俺にあんなことをするよう頼んできたのだと思った。



そしたら、まさか一晩も頭を冷やしに行くとは思わなかった。



再会してから交換をした千寿子の連絡先に連絡をしても無視され続けるくらい、俺との関係を冷やしてくるとは思わなかった。



分かっていた。



もうそんなのとっくに分かっていたけど、叫ばずにはいられなかった。



再会してからも俺のことはそういう風に見ることはないと分かってはいたけれど、もう“朝1番”はないこの状況で、毎朝俺に朝飯を作ってくれている関係で、ここ1年は毎晩泊まってもいる俺に対して、俺からの連絡をないものとしてくるとは思わなかった。



終電までは“朝1番”があった引戸の前で待っていたけれど、終電がなくなった後は宛もなく探し続けた。



何故か連絡が繋がらないカヤと美鼓に悪態をつきながら、スマホに文句をつけながら、もしかしたらどこかで具合が悪くなってしまったのかもしれないと思いながらも探し続けていた。



“あの日”の千寿子の顔を思い浮かべながら。
熱が出ていた時より、吐いてしまった時より、“あの日”の千寿子はずっとずっと顔色が悪かった。



“あの日”は探しに行くことは出来なかったけれど、今ならもう探しにいけるから。



千寿子はもう今年で25歳になったし、俺が探しに行ってもおかしくはないから。



おかしくはないから・・・。



それを千寿子が受け止めてくれるかは別として、おかしくはないから・・・。



布団に横になることもなく初めてオールというものをした今年34歳になる“ガキ”が、9歳も年下の千寿子にこの口から今の気持ちを全て表現した。







朝人side...........
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...