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そして、俺は北海道へと行った。
少しだけ期待していた北海道での“朝1番”。
そんなものは何日経っても、何ヵ月経っても、約3年経っても現れなかった。
それでも頑張れたの従妹であるブスなカヤの為、そして千寿子との“朝1番に帰ってきた時のご馳走さまの分”の約束があったから。
なのに・・・
それなのに・・・
「はあ─────っ!!!?」
外面なんて一切気にせず叫んだ。
“朝1番”の前で・・・。
約3年前よりも遥かにボロボロになっている“朝1番”の看板が外れている建物の前で。
「あれ?もしかして松戸さん?」
どっかのオッサンの声が聞こえ呆然とした気持ちのまま振り向くと、約1年間毎朝のように“朝1番”の前ですれ違って挨拶だけをしていたオッサンだった。
そのオッサンに勢い良く詰め寄り聞いた。
「ここ・・・!!
“朝1番”どうしたんだよ!!?」
「朝1番?閉店したぞ?
・・・ていうか、スーツ着ると芸能人みたいだな!!」
「・・・んなこと言われ慣れてるからわざわざ言ってくんな面倒くせーな!!
いつ閉店したんだよ!?
福富家はどうしたんだよ!!?」
「3年くらい前に閉店したぞ?
千寿子ちゃんが高校を卒業して3月末に。
それで秋田に戻ったんだよ。」
「はあ────────!!!!?
聞いてねーよ!!!
何も聞いてねーよ!!!!!」
「貼り紙出したのは千寿子ちゃんの卒業式の次の日くらいだったかな。」
「・・・千寿子何かあったのかよ?
病気とか・・・。」
最後に会った日の千寿子を思い出し、千寿子に何かがあったのかもしれないと思ったら全身が一気に凍りついた。
そしたら・・・
「千寿子ちゃんは東京に残って一人暮らしをして大学に通ってるらしいぞ?」
そんな返事があり、凍りついたはずの身体がまた一気に熱くなる。
「聞いてねーよ!!!!
何で連絡してこなかったんだよあいつ!!!!」
千寿子から連絡は1度もなかった。
千寿子は連絡をすると言っていたのに。
俺はいつでも連絡をしていいと言ったのに。
でも連絡が来ないことは良いことだとも思っていた。
大学生活を問題なく過ごせているのだと安心しながらも、毎朝毎朝スマホを確認していた。
「おい、幸治(こうじ)!!
千寿子が一人暮らししてる家どこだよ!!?」
歩いて数分の所にある中華屋、新聞配達をしていた幸治がいる店へと勢い良く入った。
「松戸さんこっちに帰ってきたんですね、お帰りなさい。
ラーメン食べます?」
「食う!!!・・・しゃなくて!!!
千寿子の一人暮らししてる家どこだって聞いてんだよ!!!」
こっちに住んでいた頃、夜にたまに来ていた中華屋。
ここの飯は結構旨かった、特に幸治が作るラーメンは。
カウンターにフラフラと座ると、カウンターの向こう側に立つ幸治が楽しそうに笑ながら口を開いた。
「やっぱり、福富のことが大好きすぎるじゃないですか。」
「それはそうだろ!!
あいつの作る飯はマジで旨いんだよ!!」
「そうですよね~、ご飯が美味しいんですよね~。
あ、俺は福富の連絡先も知らないくらいの関係なんで、一人暮らしの家も勿論知らないですよ?」
「それくらい聞いておけよ!!!」
「よく言いますよ、“こんなボロボロの中華屋の息子が千寿子と仲良くすんな!お前のことを好きになったら千寿子が苦労するだろ!”って会う度に言ってきたのに。」
「それは言うだろ!!
千寿子が苦労するのは可哀想だと思うくらいの関係ではあるからな!!
・・・それくらいの関係だったんだよ俺はどうせ!!!」
「はい、ラーメンです。」
「あいつにとって俺は常連客の1人で、あの店の外で会ったとしても一言も喋ることもないくらいの相手だったんだよ!!
連絡先なんて渡さなきゃよかった!!!
毎朝毎朝確認してバカみたいだっただろ!!!
・・・やっぱり結構旨いな・・・でも・・・これじゃねーんだよ!!!!」
結構旨い幸治のラーメンを一口食べた後にカウンターに突っ伏した。
「あの約束は何だったんだよ!!!」
「帰ってきたら結婚しようとか言ったんですか?」
「そんなこと言うわけねーだろ!!
また千寿子の飯を食うって約束したんだよ!!!
それだけを楽しみに頑張ってきたのに!!!
帰ってきたのに!!!」
「・・・それを好きって言わないで他に何て言うんですか?」
「だから!!!千寿子の飯が好きだって言ってるだろ!!!」
「はいはい、そうでした。」
「お前の中学の友達に連絡しろよ!!
1人くらい千寿子のこと知ってる奴いるだろ!!!」
「俺未だにスマホを持っていないくらいですし、中学の友達に連絡出来ないですね。
何の力にもなれずすみません。」
「いや・・・俺こそ悪かった。」
定時制の高校に通いバイトの掛け持ちからこの店の手伝いをしていた素晴らしく良い子どもの幸治。
そんな幸治に当たり散らしてしまったことを後悔した。
「あ、松戸さんが前に住んでたアパートは父が取り壊したんですよね。
そこの土地は売ったんですよ。」
「知ってるよ!!!
だから別のマンションに内見もしねーで今日引っ越して来たんだよ!!!
父親をぶん殴ってまで止めろよ!!!
それでも俺の友達かよ!!!」
「え・・・松戸さんと俺って友達なんですか?
こんなにオジサンの友達は流石に微妙なんですけど。」
「・・・お前まで俺をオジサンって呼ぶんじゃねーよ!!!」
「たしか今年で30歳ですよね?
俺今年で21ですし流石にオジサンですよ。」
「21か・・・そうだよ、21になっただろ!!
千寿子、今日で21になっただろ!!!!
だから今日帰って来てやったのに何だよマジで!!!!」
「今日福富の誕生日なんですか?
それは気持ち悪いですって松戸さん。」
「うるせーよ!!
それと、俺のことを松戸さんって呼ぶなっていつも言ってるだろ気持ち悪いな!!
俺が幸治って呼んでるのに松戸さんなんて呼びやがって!!!」
「お客さんのことを名前で呼べるようなフレンドリーさが俺にはないんですよね。」
素晴らしく良い子どもで、そしてたまにガキになる幸治。
そんな幸治のラーメンをまた食べながら言った。
「お前、俺が立ち上げる事務所に来る?」
驚いている幸治の顔を見上げ、続けた。
「その代わり、俺に朝飯作って。」
「それが目的ですよね。」
「当たり前だろ!!!
俺はこれからどうやってパワーをつけたらいいんだよ!!!!」
「あんまり叫ばないでくださいよ、他のお客さんが入ってこられないじゃないですか。」
「客なんてこねーだろ!!!」
「たまに来てますから。」
30歳の今年、10月1日にこっちに帰って来た。
千寿子の誕生日の日に。
千寿子はとっくにいなくなっていたこの街に、ただの常連客の1人だった俺が帰ってきてしまった。
少しだけ期待していた北海道での“朝1番”。
そんなものは何日経っても、何ヵ月経っても、約3年経っても現れなかった。
それでも頑張れたの従妹であるブスなカヤの為、そして千寿子との“朝1番に帰ってきた時のご馳走さまの分”の約束があったから。
なのに・・・
それなのに・・・
「はあ─────っ!!!?」
外面なんて一切気にせず叫んだ。
“朝1番”の前で・・・。
約3年前よりも遥かにボロボロになっている“朝1番”の看板が外れている建物の前で。
「あれ?もしかして松戸さん?」
どっかのオッサンの声が聞こえ呆然とした気持ちのまま振り向くと、約1年間毎朝のように“朝1番”の前ですれ違って挨拶だけをしていたオッサンだった。
そのオッサンに勢い良く詰め寄り聞いた。
「ここ・・・!!
“朝1番”どうしたんだよ!!?」
「朝1番?閉店したぞ?
・・・ていうか、スーツ着ると芸能人みたいだな!!」
「・・・んなこと言われ慣れてるからわざわざ言ってくんな面倒くせーな!!
いつ閉店したんだよ!?
福富家はどうしたんだよ!!?」
「3年くらい前に閉店したぞ?
千寿子ちゃんが高校を卒業して3月末に。
それで秋田に戻ったんだよ。」
「はあ────────!!!!?
聞いてねーよ!!!
何も聞いてねーよ!!!!!」
「貼り紙出したのは千寿子ちゃんの卒業式の次の日くらいだったかな。」
「・・・千寿子何かあったのかよ?
病気とか・・・。」
最後に会った日の千寿子を思い出し、千寿子に何かがあったのかもしれないと思ったら全身が一気に凍りついた。
そしたら・・・
「千寿子ちゃんは東京に残って一人暮らしをして大学に通ってるらしいぞ?」
そんな返事があり、凍りついたはずの身体がまた一気に熱くなる。
「聞いてねーよ!!!!
何で連絡してこなかったんだよあいつ!!!!」
千寿子から連絡は1度もなかった。
千寿子は連絡をすると言っていたのに。
俺はいつでも連絡をしていいと言ったのに。
でも連絡が来ないことは良いことだとも思っていた。
大学生活を問題なく過ごせているのだと安心しながらも、毎朝毎朝スマホを確認していた。
「おい、幸治(こうじ)!!
千寿子が一人暮らししてる家どこだよ!!?」
歩いて数分の所にある中華屋、新聞配達をしていた幸治がいる店へと勢い良く入った。
「松戸さんこっちに帰ってきたんですね、お帰りなさい。
ラーメン食べます?」
「食う!!!・・・しゃなくて!!!
千寿子の一人暮らししてる家どこだって聞いてんだよ!!!」
こっちに住んでいた頃、夜にたまに来ていた中華屋。
ここの飯は結構旨かった、特に幸治が作るラーメンは。
カウンターにフラフラと座ると、カウンターの向こう側に立つ幸治が楽しそうに笑ながら口を開いた。
「やっぱり、福富のことが大好きすぎるじゃないですか。」
「それはそうだろ!!
あいつの作る飯はマジで旨いんだよ!!」
「そうですよね~、ご飯が美味しいんですよね~。
あ、俺は福富の連絡先も知らないくらいの関係なんで、一人暮らしの家も勿論知らないですよ?」
「それくらい聞いておけよ!!!」
「よく言いますよ、“こんなボロボロの中華屋の息子が千寿子と仲良くすんな!お前のことを好きになったら千寿子が苦労するだろ!”って会う度に言ってきたのに。」
「それは言うだろ!!
千寿子が苦労するのは可哀想だと思うくらいの関係ではあるからな!!
・・・それくらいの関係だったんだよ俺はどうせ!!!」
「はい、ラーメンです。」
「あいつにとって俺は常連客の1人で、あの店の外で会ったとしても一言も喋ることもないくらいの相手だったんだよ!!
連絡先なんて渡さなきゃよかった!!!
毎朝毎朝確認してバカみたいだっただろ!!!
・・・やっぱり結構旨いな・・・でも・・・これじゃねーんだよ!!!!」
結構旨い幸治のラーメンを一口食べた後にカウンターに突っ伏した。
「あの約束は何だったんだよ!!!」
「帰ってきたら結婚しようとか言ったんですか?」
「そんなこと言うわけねーだろ!!
また千寿子の飯を食うって約束したんだよ!!!
それだけを楽しみに頑張ってきたのに!!!
帰ってきたのに!!!」
「・・・それを好きって言わないで他に何て言うんですか?」
「だから!!!千寿子の飯が好きだって言ってるだろ!!!」
「はいはい、そうでした。」
「お前の中学の友達に連絡しろよ!!
1人くらい千寿子のこと知ってる奴いるだろ!!!」
「俺未だにスマホを持っていないくらいですし、中学の友達に連絡出来ないですね。
何の力にもなれずすみません。」
「いや・・・俺こそ悪かった。」
定時制の高校に通いバイトの掛け持ちからこの店の手伝いをしていた素晴らしく良い子どもの幸治。
そんな幸治に当たり散らしてしまったことを後悔した。
「あ、松戸さんが前に住んでたアパートは父が取り壊したんですよね。
そこの土地は売ったんですよ。」
「知ってるよ!!!
だから別のマンションに内見もしねーで今日引っ越して来たんだよ!!!
父親をぶん殴ってまで止めろよ!!!
それでも俺の友達かよ!!!」
「え・・・松戸さんと俺って友達なんですか?
こんなにオジサンの友達は流石に微妙なんですけど。」
「・・・お前まで俺をオジサンって呼ぶんじゃねーよ!!!」
「たしか今年で30歳ですよね?
俺今年で21ですし流石にオジサンですよ。」
「21か・・・そうだよ、21になっただろ!!
千寿子、今日で21になっただろ!!!!
だから今日帰って来てやったのに何だよマジで!!!!」
「今日福富の誕生日なんですか?
それは気持ち悪いですって松戸さん。」
「うるせーよ!!
それと、俺のことを松戸さんって呼ぶなっていつも言ってるだろ気持ち悪いな!!
俺が幸治って呼んでるのに松戸さんなんて呼びやがって!!!」
「お客さんのことを名前で呼べるようなフレンドリーさが俺にはないんですよね。」
素晴らしく良い子どもで、そしてたまにガキになる幸治。
そんな幸治のラーメンをまた食べながら言った。
「お前、俺が立ち上げる事務所に来る?」
驚いている幸治の顔を見上げ、続けた。
「その代わり、俺に朝飯作って。」
「それが目的ですよね。」
「当たり前だろ!!!
俺はこれからどうやってパワーをつけたらいいんだよ!!!!」
「あんまり叫ばないでくださいよ、他のお客さんが入ってこられないじゃないですか。」
「客なんてこねーだろ!!!」
「たまに来てますから。」
30歳の今年、10月1日にこっちに帰って来た。
千寿子の誕生日の日に。
千寿子はとっくにいなくなっていたこの街に、ただの常連客の1人だった俺が帰ってきてしまった。
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