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4月



味付けは問題ないけれど大して旨くない、自分が作った朝飯を少しだけ食った後、俺はゆっくりと立ち上がった。



ちゃぶ台も座布団もバサマの仏壇もないガラン──────....としてしまったリビングの中、突っ立ちながら家の中を見渡す。



なくなってしまう。



俺の“朝1番”が明日なくなってしまう。



ジサマが準備してくれていた俺の新居に荷物を送った後も俺はこの家に帰ってきていた。
バサマとジサマと一緒に暮らしていた家に。



大好きなバサマが生きていたこの家に。



最後に家の中をゆっくりと歩きこの目に焼き付ける。
死ぬまで忘れないように。
例えボケてしまったとしても、この家でバサマとジサマと一緒に暮らしたということだけは忘れないように。



大きめの荷物を持ち玄関で靴を履いた。
それからゆっくりと家の中を見る。



そしたら、聞こえた。



パタパタと走ってくるような音が。



そして見えた。



バサマが俺のことを玄関まで見送ってくれる姿が。



ぼんやりとだけど見えた。



覚えているから。
俺はこの“朝1番”が大好きだったから。
だからこの家にいる限りは俺の“朝1番”はここにあった。



「行ってくる。」



俺に深い深い愛情の顔を向けてくれているぼんやりと見えるバサマに今日も言う。
そしたらバサマは大きく頷き・・・



“行ってらっしゃい、朝人。”



力強くそう言ってくれる。



それから引戸を開けると“朝1番”の太陽の光りがぼんやりとしたバサマの顔を今日も輝かせた。



その可愛すぎるバサマの顔を見詰めながら最後にもう1度言う。



「次生まれ変わったらジサマじゃなくて俺と結婚しようよ。
小便でも大便でもバサマのだったら何も気になんねーから。」



そう言った俺にぼんやりと輝くバサマは何も答えてはくれない。



それに小さく笑いながら俺はバサマとジサマと暮らした家を出た。



明日この家はなくなる。



明日以降のことは神主のオジサンに任せているらしい。



仕事でトラブルが起きまくりジサマを老人ホームに送ることも出来なかった。
そしてバサマを看取ることも出来なかった。
更にはこの家を取り壊す所を見届けることも出来ない。



この家を取り壊す所だけでも見届けたい気持ちは勿論あるけれど、俺はこんなにも中身はガキだから。
きっと大暴れをして止めに入ってしまう。



外面を気にしている自分がそんなことをしている姿を少しだけ想像しながら、俺はゆっくりとゆっくりと歩いていく。



悲しすぎて二度と来ることはないであろうこの街を、バサマとジサマと一緒に暮らした家を背中に。



俺の“朝1番”だった場所を背中に。
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