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翌朝
家も部屋も布団も枕も変わりほぼ一睡も出来なかった中、それでも朝5時になったのを目覚まし時計で確認しベッドから起き上がった。
「朝1番に美鼓にでも会いに行くか・・・。」
朝1番に福と富と寿がいる。
でもバサマがいないこの家には俺の“朝1番”はない。
俺は朝1番の太陽の光りで輝くバサマの顔が大好きだった。
それこそが俺の福と富と寿だった。
バサマの幼女版でもある美鼓の顔でも見に行こうとフラフラと立ち上がった。
長い長い廊下を歩いていく。
やけに広いこの家。
古いけれど綺麗でしっかりとしているこの家。
3月の5時はひんやりとした。
驚くくらいにひんやりとした。
ジサマとバサマと一緒に暮らしていた家ではそんなことを思ったこともないのに。
信じられないくらい寒いと思った。
そう思いながらフラフラと歩いていると、気付いた。
どこからか変な匂いがしていることに。
そして小さな物音も聞こえてくる・・・かと思ったら、急に大きな物音にもなって。
昨日のようにオジサンかと思い、音と匂いがする方へと歩いていった。
長い長い廊下を歩いてからリビングの扉の前に立ち、静かに扉を開けると見えた。
台所にカヤの後ろ姿があった。
小さな赤い台の上に乗って何かを、いや、料理のようなことをしているようだった。
それには少し慌ててしまい、急いでカヤの元へと歩いた。
「おい!4月で小1になるガキが1人で火を使ってるんじゃねーよ!!」
そう怒った俺にカヤはゆっくりと俺のことを見上げてきた。
昨日はガキの代表みたいな奴だったはずなのに、この顔はやけに大人びて見えた。
「朝の朝ご飯を作ってた。」
「はあ・・・?
そんなのいらねーから危ないことすんなよ。」
カヤの言葉には驚きながらもそう言ってから、俺は小さなカヤが小さな小さな手で持つフライパンを見た。
そこには・・・
「目玉焼き、失敗しちゃった。」
何をどうやったのかは分からないけれど、グチャグチャになって少し焦げている、目玉焼きにしようとしていたであろうモノがあった。
「これくらいなら私でも作れるかなって思ったけど、ごめんね?」
その言葉に何も答えられずにいると、赤い台に乗ったカヤが俺を真剣な顔で見詰めてくる。
「朝1番に福と富と寿がいる。
だから朝1番を好きになる。
朝1番には福と富と寿がいるから。
福と富と寿に会う為に朝1番を好きになる。
明日も朝1番に行く、福と富と寿に会う為に。」
まだ小学校1年生にもなっていないカヤの口からその言葉がペラペラと出てきた。
「ジサマから・・・聞いた・・・?」
「聞いてない。でも分かる。
朝の子どもの頃からおじいちゃんが言い聞かせてたことだって分かる。」
「そうなんだ・・・。」
“うちの娘2人も普通ではないからね”
昨日神主の格好をしていたオジサンから言われた言葉が今分かった。
“普通”ではないらしい。
この小さな小さな女の子は俺がジサマから毎朝言われていた言葉が分かるくらいに“普通”ではないらしい。
「朝、私もお姉ちゃんも“普通”じゃない。
だから私が代わりに言ってあげる。
朝があの家に戻る日まで、私がおじいちゃんの代わりにこの言葉を毎朝言ってあげる。」
カヤが力強く言った後に泣きそうな顔になった。
「私・・・“普通”じゃないんだ・・・。
“普通”じゃないけど大丈夫かな?
こんな従妹と一緒に住むの、朝は大丈夫かな?」
カヤのその言葉と泣きそうな顔、小さな小さな手に持たれたフライパンにのるグチャグチャの目玉焼きを見て、俺はカヤの小さな小さな手の上からフライパンを握った。
それから横に置いてあった皿にその目玉焼きを移した。
最初に見付けた時よりも更に焦げてしまっている目玉焼きを。
グチャグチャで焦げてしまっている目玉焼きがのった皿と近くにあった箸を持ち上げてから俺は答えた。
「イトコなんてほぼ家族だろ。
“普通”じゃないジサマと生まれた時から俺だって暮らしてたんだぞ?
何でも分かるからって調子乗んなよ?」
俺の言葉にカヤは涙を溜めながらも大きく笑った。
カヤのブスな顔に笑いながら目玉焼きを一口食って・・・
「うん、旨いよ。」
味自体は焦げている味しかしなかったけれど、それでも旨いと思った。
俺のことを考えて、その小さな小さな手で俺の為に作ってくれようとした朝飯が不味いわけがなかった。
「すげーパワーついた。」
バサマとジサマが作る朝飯と同じくらいパワーがついた。
それと不思議なことに、さっきまで信じられないくらい寒かった身体が温かくなった。
こんなにも温かくなった。
そう思っていたのに・・・
「気持ち悪・・・。」
「急に悪口かよ!!」
「気持ち悪って強く浮かんできたんだもん。」
「素晴らしく良いガキって褒めようと思ってたのに何だよ!!」
「それこそ悪口じゃん!!」
「取りあえず明日から一緒に朝飯作るぞ!!
ガキが一丁前に包丁と火を使うんじゃねーよ!!」
こんなに賑やかな朝1番をこの家でこれから迎えることになった。
家も部屋も布団も枕も変わりほぼ一睡も出来なかった中、それでも朝5時になったのを目覚まし時計で確認しベッドから起き上がった。
「朝1番に美鼓にでも会いに行くか・・・。」
朝1番に福と富と寿がいる。
でもバサマがいないこの家には俺の“朝1番”はない。
俺は朝1番の太陽の光りで輝くバサマの顔が大好きだった。
それこそが俺の福と富と寿だった。
バサマの幼女版でもある美鼓の顔でも見に行こうとフラフラと立ち上がった。
長い長い廊下を歩いていく。
やけに広いこの家。
古いけれど綺麗でしっかりとしているこの家。
3月の5時はひんやりとした。
驚くくらいにひんやりとした。
ジサマとバサマと一緒に暮らしていた家ではそんなことを思ったこともないのに。
信じられないくらい寒いと思った。
そう思いながらフラフラと歩いていると、気付いた。
どこからか変な匂いがしていることに。
そして小さな物音も聞こえてくる・・・かと思ったら、急に大きな物音にもなって。
昨日のようにオジサンかと思い、音と匂いがする方へと歩いていった。
長い長い廊下を歩いてからリビングの扉の前に立ち、静かに扉を開けると見えた。
台所にカヤの後ろ姿があった。
小さな赤い台の上に乗って何かを、いや、料理のようなことをしているようだった。
それには少し慌ててしまい、急いでカヤの元へと歩いた。
「おい!4月で小1になるガキが1人で火を使ってるんじゃねーよ!!」
そう怒った俺にカヤはゆっくりと俺のことを見上げてきた。
昨日はガキの代表みたいな奴だったはずなのに、この顔はやけに大人びて見えた。
「朝の朝ご飯を作ってた。」
「はあ・・・?
そんなのいらねーから危ないことすんなよ。」
カヤの言葉には驚きながらもそう言ってから、俺は小さなカヤが小さな小さな手で持つフライパンを見た。
そこには・・・
「目玉焼き、失敗しちゃった。」
何をどうやったのかは分からないけれど、グチャグチャになって少し焦げている、目玉焼きにしようとしていたであろうモノがあった。
「これくらいなら私でも作れるかなって思ったけど、ごめんね?」
その言葉に何も答えられずにいると、赤い台に乗ったカヤが俺を真剣な顔で見詰めてくる。
「朝1番に福と富と寿がいる。
だから朝1番を好きになる。
朝1番には福と富と寿がいるから。
福と富と寿に会う為に朝1番を好きになる。
明日も朝1番に行く、福と富と寿に会う為に。」
まだ小学校1年生にもなっていないカヤの口からその言葉がペラペラと出てきた。
「ジサマから・・・聞いた・・・?」
「聞いてない。でも分かる。
朝の子どもの頃からおじいちゃんが言い聞かせてたことだって分かる。」
「そうなんだ・・・。」
“うちの娘2人も普通ではないからね”
昨日神主の格好をしていたオジサンから言われた言葉が今分かった。
“普通”ではないらしい。
この小さな小さな女の子は俺がジサマから毎朝言われていた言葉が分かるくらいに“普通”ではないらしい。
「朝、私もお姉ちゃんも“普通”じゃない。
だから私が代わりに言ってあげる。
朝があの家に戻る日まで、私がおじいちゃんの代わりにこの言葉を毎朝言ってあげる。」
カヤが力強く言った後に泣きそうな顔になった。
「私・・・“普通”じゃないんだ・・・。
“普通”じゃないけど大丈夫かな?
こんな従妹と一緒に住むの、朝は大丈夫かな?」
カヤのその言葉と泣きそうな顔、小さな小さな手に持たれたフライパンにのるグチャグチャの目玉焼きを見て、俺はカヤの小さな小さな手の上からフライパンを握った。
それから横に置いてあった皿にその目玉焼きを移した。
最初に見付けた時よりも更に焦げてしまっている目玉焼きを。
グチャグチャで焦げてしまっている目玉焼きがのった皿と近くにあった箸を持ち上げてから俺は答えた。
「イトコなんてほぼ家族だろ。
“普通”じゃないジサマと生まれた時から俺だって暮らしてたんだぞ?
何でも分かるからって調子乗んなよ?」
俺の言葉にカヤは涙を溜めながらも大きく笑った。
カヤのブスな顔に笑いながら目玉焼きを一口食って・・・
「うん、旨いよ。」
味自体は焦げている味しかしなかったけれど、それでも旨いと思った。
俺のことを考えて、その小さな小さな手で俺の為に作ってくれようとした朝飯が不味いわけがなかった。
「すげーパワーついた。」
バサマとジサマが作る朝飯と同じくらいパワーがついた。
それと不思議なことに、さっきまで信じられないくらい寒かった身体が温かくなった。
こんなにも温かくなった。
そう思っていたのに・・・
「気持ち悪・・・。」
「急に悪口かよ!!」
「気持ち悪って強く浮かんできたんだもん。」
「素晴らしく良いガキって褒めようと思ってたのに何だよ!!」
「それこそ悪口じゃん!!」
「取りあえず明日から一緒に朝飯作るぞ!!
ガキが一丁前に包丁と火を使うんじゃねーよ!!」
こんなに賑やかな朝1番をこの家でこれから迎えることになった。
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