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数日後



俺の部屋ではなく、保育園の頃までジサマとバサマと一緒に寝ていた部屋に敷かれた布団に横になり、苦しい身体を感じながらウトウトとしていた。



俺のおでこに置かれたタオルがまた冷たくなったのを感じうっすらと目を開けると、バサマが優しい顔で俺に笑い掛けてきた。



「1年生になったばっかりだし朝も5時に起きることになったからね。
まだこんなに小さいし疲れちゃったか。
今お粥と桃缶持ってくるからね。」



「うん・・・。」



俺が返事をすると、いつの間にか俺の脇に差されていた水銀の体温計をバサマがソッと抜き取った。



「39度もあるね、辛いでしょ。」



「うん、辛い・・・。」



「良い子良い子。
辛い時はちゃんと辛いって言える良い子。」



バサマが優しい顔で俺の頭を撫でてくれる。
仏みたいなバサマの顔を見て俺は聞いた。



「バサマはジサマを選んでよかった?」



「それはどうだろう・・・。
ジサマって悪いところしかないしな~!!」



バサマが珍しく大きく笑いながらそう言って、それから嬉しそうに口を開いた。



「バサマは若い頃は結構可愛い顔をしてて。」



「今でも歳の割に可愛いじゃん。」



「それはよかった!」



バサマが可愛い顔で笑い自分の頬に手を添える。



「でもバサマは気が強くて頭も強くてね~。
時代が時代だったし、そういう女は良く思われない風潮で。」



「バサマって今は優しくて良いおばあちゃんじゃん。」



「おばあちゃんになったからこれくらい丸くなったよ。
でも若い時は本当に気が強くて頭の回転も早くて。
他の人と話す時は上手くやってたけど、ジサマと話す時だけは全然ダメで。
あの人って口から出てくる言葉も悪いし口に入れられる物は全然ないし。」



「喧嘩してたんだ、今のバサマからは想像つかない。」



バサマはどこか懐かしいような顔で楽しそうに笑い、口を小さく開いた。



「私は昔からあの人のことが好きだったんだ。
大喧嘩するのに何でか翌日も必ず会いに来て私と全力で喧嘩していくの。
私もそうだったけど、あの人も“ガキ”になれる相手が家族以外では私しかいなかったんだろうね。」



「なんだ、バサマもジサマを好きだったのか、よかった。」



「選んでよかったかはまた別の話だけどね!
あの人って本当に口が悪いし、今でも悪いところしかないもん!」



そんなことを言いながらもバサマは幸せそうな顔をしているように見えた。



「俺もバサマみたいな女の子と結婚したい。
俺、バサマのことが凄い好きなんだ。」



自然と出てきた言葉をそのまま口から出すと、バサマは凄く凄く嬉しそうな顔になった。



「朝人は見た目も中身もジサマにソックリだからね。
バサマみたいに気持ちも頭も強い女の子にしないとダメだよ?
そうじゃないと旦那さんがお嫁さんをただ虐めてるだけになっちゃうから。」



「俺は好きになった女の子と喧嘩とかしないし“ガキ”になったりもしないよ。
そうじゃないと俺を育てなかったお父さんとお母さんが悪く言われる。
苦しむ子ども達の為に働いてるのに俺の言動で悪く言われる。」



バサマには何度も言っている言葉を今日も言う。
何でか涙が出てきたのは熱のせいなのかもしれない。



「あの時、“ここでお父さんともお母さんとも一緒に暮らしたい”って言っても良かったんだよ?」



バサマが俺の頭を優しく優しく撫でながらそんなことを言ってくる。



「そんなこと思ったこともないけど、俺本当はそんなこと思ってるのかな?」



「お父さんとお母さんと一緒に暮らさなくても大丈夫って思う子どもはいないんじゃないかな。」



「でも俺、ジサマとバサマのことも大好きだから。」



「うん、だからここでみんなで一緒に暮らしたいんだと思うよ?」



「そうなのかな・・・。」



「朝人。」



バサマが真剣な顔で俺のことを“朝人”と呼んだ。



「気持ちも頭も強い女の子にするんだよ?
新しい環境だろうが逆境だろうが、どんなことが起きても強く生きていける子にするんだよ?
そんな子だったら喧嘩にはなるだろうけど、朝人のどんな言動を受けても一緒にいようとしてくれる子だから。」



「うん・・・。」



頷きながらバサマの顔を見詰めていた。
歳の割に可愛いバサマの顔を見詰めていた・・・。
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