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翌朝
まだ寝ていたカヤに置き手紙だけを残し、10月の土曜日、朝5時の世界を歩いていく。
まだまだ世界は薄暗くて太陽は見えない。
シン───────────...と静まり返っている世界の中、朝人が住む立派なマンションを見上げる。
「こんなに立派なマンションに住んで本当に気取ってる。」
私を寝かせた布団に佐伯さんも寝かせたのかもしれない。
あの布団で2人でエッチをしまくっていたのかもしれない。
朝から嫌な妄想ばかりしてしまい、そんな妄想の中で納得をする。
「それは普通の顔をしちゃうよね・・・。」
私の身体を見ても、私の身体に触れても、朝人は普通の顔をしていた。
それはそのはずで・・・。
私の10年後みたいな顔と身体をしているような佐伯さんとエッチをしまくっていたなら、それは私の身体を見ても普通の顔でいるはずだった。
「彼女としかそういうことはしないって言ってたのにしてたんじゃん・・・。」
高校3年生の私への朝人なりの優しさだったのかもしれない。
朝人は優しい人でもあるから。
「ずっと病人だったらよかった・・・。」
病人だったらあんなに優しくしてくれるらしい。
私の熱が下がった途端に朝人からあんなに本気で怒られてしまった。
佐伯さんのことを悪く言ったら朝人はあんなに私のことを怒った。
私の頭にタオルを被せて・・・。
私の顔を見えないようにして・・・。
どんな風に見えていたんだろう・・・。
この顔もこの身体も朝人にはどんな風に見えていたんだろう・・・。
「急に“朝人”の姿を見せてくるなんて酷い・・・。」
あのまま終わりに出来ていればこんなに苦しくならないで済んでいたのかもしれない。
“先生”に汗を拭いてもらった思い出だけで終わりにしておけばよかった。
後悔しながら朝人が住むマンションからゆっくりと歩き出した。
私が一人で住むボロボロの実家へ。
朝人が大好きだという朝1番があった場所へ。
福と富と寿の文字を持つ私が帰っていく。
「私がつけたパワーで佐伯さんと何してんの、バカ・・・。」
こんなことなら朝人と再会した後にご飯を作らなければよかった。
そう思いながら薄暗い朝の世界を歩いていると、いた。
朝人がいた。
どちらかというと“先生”なのだろうけど、髪型は少し乱れてスーツのネクタイも緩めている朝人がいた。
朝1番の引戸に背中をつけ、俯きながら立っていた。
そんな朝人を見てまずは言ってみる。
「朝人!」
“先生”ではなく“朝人”と呼んだ。
高級ホテルのフランス料理のお店で会った彼女、あの女の人は“先生”と呼んでいたから私も“先生”と呼んでいた。
少しでも朝人から大人の女として見てもらいたくて敬語だってたまに使っていた。
でも、今は朝人と呼んだ。
朝人にとっては特別な呼び方、それを許してくれている事実は少しだけ嬉しい気持ちにもなっているので、そう呼んだ。
私の声に朝人はパッと顔を上げ、疲れきった顔は物凄くホッとした顔になっていた。
その顔を見て思わず笑ってしまった。
「クマ凄いよ?そんな格好でどうしたの?
・・・あ、朝ご飯か。」
苦笑いをしながら言うと朝人はめちゃくちゃ怒った顔になった。
昨日の佐伯さんの話の時とは比べ物にならない顔で。
「どこまで頭を冷やしに行ってたんだよ!!!!!」
そう怒鳴り付けてきた。
千寿子side.........
まだ寝ていたカヤに置き手紙だけを残し、10月の土曜日、朝5時の世界を歩いていく。
まだまだ世界は薄暗くて太陽は見えない。
シン───────────...と静まり返っている世界の中、朝人が住む立派なマンションを見上げる。
「こんなに立派なマンションに住んで本当に気取ってる。」
私を寝かせた布団に佐伯さんも寝かせたのかもしれない。
あの布団で2人でエッチをしまくっていたのかもしれない。
朝から嫌な妄想ばかりしてしまい、そんな妄想の中で納得をする。
「それは普通の顔をしちゃうよね・・・。」
私の身体を見ても、私の身体に触れても、朝人は普通の顔をしていた。
それはそのはずで・・・。
私の10年後みたいな顔と身体をしているような佐伯さんとエッチをしまくっていたなら、それは私の身体を見ても普通の顔でいるはずだった。
「彼女としかそういうことはしないって言ってたのにしてたんじゃん・・・。」
高校3年生の私への朝人なりの優しさだったのかもしれない。
朝人は優しい人でもあるから。
「ずっと病人だったらよかった・・・。」
病人だったらあんなに優しくしてくれるらしい。
私の熱が下がった途端に朝人からあんなに本気で怒られてしまった。
佐伯さんのことを悪く言ったら朝人はあんなに私のことを怒った。
私の頭にタオルを被せて・・・。
私の顔を見えないようにして・・・。
どんな風に見えていたんだろう・・・。
この顔もこの身体も朝人にはどんな風に見えていたんだろう・・・。
「急に“朝人”の姿を見せてくるなんて酷い・・・。」
あのまま終わりに出来ていればこんなに苦しくならないで済んでいたのかもしれない。
“先生”に汗を拭いてもらった思い出だけで終わりにしておけばよかった。
後悔しながら朝人が住むマンションからゆっくりと歩き出した。
私が一人で住むボロボロの実家へ。
朝人が大好きだという朝1番があった場所へ。
福と富と寿の文字を持つ私が帰っていく。
「私がつけたパワーで佐伯さんと何してんの、バカ・・・。」
こんなことなら朝人と再会した後にご飯を作らなければよかった。
そう思いながら薄暗い朝の世界を歩いていると、いた。
朝人がいた。
どちらかというと“先生”なのだろうけど、髪型は少し乱れてスーツのネクタイも緩めている朝人がいた。
朝1番の引戸に背中をつけ、俯きながら立っていた。
そんな朝人を見てまずは言ってみる。
「朝人!」
“先生”ではなく“朝人”と呼んだ。
高級ホテルのフランス料理のお店で会った彼女、あの女の人は“先生”と呼んでいたから私も“先生”と呼んでいた。
少しでも朝人から大人の女として見てもらいたくて敬語だってたまに使っていた。
でも、今は朝人と呼んだ。
朝人にとっては特別な呼び方、それを許してくれている事実は少しだけ嬉しい気持ちにもなっているので、そう呼んだ。
私の声に朝人はパッと顔を上げ、疲れきった顔は物凄くホッとした顔になっていた。
その顔を見て思わず笑ってしまった。
「クマ凄いよ?そんな格好でどうしたの?
・・・あ、朝ご飯か。」
苦笑いをしながら言うと朝人はめちゃくちゃ怒った顔になった。
昨日の佐伯さんの話の時とは比べ物にならない顔で。
「どこまで頭を冷やしに行ってたんだよ!!!!!」
そう怒鳴り付けてきた。
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