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扉が閉まる直前までうるさかったオジサンと別れ、オジサンが住むアパートの階段を降り斜め前にある我が家へと歩いていた。



そろそろ7月に入る朝のこの時間。
太陽はもう強く輝きだしていて今日の世界を明るく照らしていた。



既に暑いくらいの空気を吸いながら歩いていると・・・



「千寿子!!!」



と、私の名前を大きな声で呼ばれた。



オジサンが住むアパートから聞こえてきたのでオジサンだとは思うけど、初めて名前を呼ばれたのでそれには少し驚きながら振り返った。



そしたら、アパートの2階に住んでいるオジサンが廊下まで出てきていて、廊下の柵に身を乗り出しながら大きく口を開いてきた。



「これこれ!!そう、これ!!!!」



そんな言葉を興奮した顔で叫んできて、それには首を傾げながらオジサンを見上げて聞いた。



「何が?」



「味付け!!!今日の飯、完璧!!!!
めちゃくちゃ旨い!!!
死ぬほど旨い!!!」



そう言われ、それには苦笑いで・・・。



「体調が悪いからと思って、調味料をほんの少しだけにしたんだよね。
それ、味なんてほとんどしないでしょ。」



「俺はこういう飯で育ったから!!!
これがずっと食いたかった!!!
めっっっっちゃパワーついた!!!
熱なんて吹き飛んだ!!!」



37.2度の微熱だっただけのオジサンがそんなことを本当に嬉しそうな顔で言っていて、それは面白かったので笑いながら頷いた。



「今日も行ってくる!!!」



強く輝きだしている太陽の光り。
だからかオジサンの顔はやけに輝いて見えた。
髪の毛はボサボサだし黒縁メガネを掛けて髭まで生えているけれど、その顔がやけに輝いて見えた。



太陽がこんなに輝いている世界でオジサンのことを見たのは初めてだからかもしれない。



そう思いながら、やけに輝いている顔で満面の笑顔で私を見下ろしているオジサンに言ってあげた。



「うん、行って。朝人。」



“朝の人”と書いて朝人という名前のオジサンの名前を呼んだ。
太陽の光りでこんなに輝いたオジサンの姿を見て、どこをどう見ても“朝の人”で、“朝人”という名前がピッタリだと思ったから。



「千寿子があと10年早く生まれてたら口説きまくってるところだった!!!」



「よかった!朝人より10年遅く生まれてて!!!」



背中に朝人の大きな笑い声を聞きながら私も笑い、我が家である朝1番へと歩いていった。



やけに暑い・・・熱い空気だからか、顔まで熱くなったことに気付きながら。
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