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海神ちゃんが困惑した顔で俺のことを見詰めている。
海神ちゃんを見下ろしながら昔のことを思い出して無言になっていたから。



そんな海神ちゃんを見ながら言った。



「俺、海神ちゃんのこと好きなんだけど。」



好きになった。
すぐに好きになった。


俺が社会人1年目の冬、あの男は俺のきょうだい達によって殺された。
俺は大学卒業後に“社長”と“取締役”が働いていた大手調査会社に就職をしていた。



俺もあの男を殺したかったけど、きょうだい達からはその雰囲気が明らかに沢山出ていて。
俺まで動いたことによってあの男に勘づかれるのは避けたかった。



でも、何かあった時に俺も協力出来るくらいの力は付けていたいと思った。



それまでは“今時の男子”のフリをして過ごしていたけど、俺はあの頃より成長していて。
ガリガリだった両手も大きな男の両手になっていたから。



“女”で居続ける“アヤメ”を見る度に苦しくなる心を気付かれないよう、必死に知らないフリを続け、でも“アヤメ”のために今度は俺も何かが出来れば・・・。



そう思っていた矢先、あの男は殺された。
俺がやっていたことといえば他の男きょうだいと同じく闘える身体作りをしただけだった。



そして、“取締役”から聞いた話には驚いた。



女神がいたらしい・・・。



約10年間、“社長”と“取締役”、そしてオーシャンを繋いだ女神がいたらしい・・・。



約10年間も、危険な状況の中で情報を届けてくれていた女神・・・。



その女の子の名前は、“海”の“神”だった・・・。



知っていた。
俺は“取締役”から聞いて海神ちゃんの存在を知っていた。



知っていたけど、海神ちゃんの存在は“社長”と“取締役”とオーシャンくらいしか知らないことで。



だから俺も知らないフリを続けようと思っていたのに・・・



会った。



たまたま、会った。



24歳の夏、男友達数人と海にナンパをしに行ったら、その海にいた。



顔と名前は“取締役”から聞いていたので知っていた。



知っていたけど、知らなくても絶対にナンパしていた。
それくらい可愛い見た目なのはそうだけど・・・



せっかくの海に、1人だけ真っ黒い大きめなTシャツを着て真っ黒なハーフパンツを履いていて・・・。



可愛い見た目と元気な笑顔、それなのにそんな格好をしているアンバランスな感じに、俺は強く惹かれた。



そして、仲良くなって知った海神ちゃんの本当の姿。
静かすぎる海のような女の子だった。



そんな女の子が、約10年間もあの男を殺すための情報を定期的に届け続けた・・・。
オーシャンが上手く動かしたのだろうけど、それでも10年・・・。



海神ちゃんが途中で離脱していたらあの男にあそこまでのダメージを与えられず、殺せなかったかもしれない。



それくらい、オーシャンが入手していた情報はどれも大切な情報だったらしい。



正直、出会ってからの海神ちゃんからは、
10年間もオーシャンからの情報を届けるような子には見えなくて。
それなのに、やり遂げた・・・。



そのアンバランスさに、俺はやっぱり強く惹かれる・・・。



俺のかぞくは・・・下の弟以外のかぞくは、とにかく全員が強く強く強く、みたいな最強な人達で。



そのバランスを取るために俺は下の弟達と一緒に“今時の男子”のフリをしていた。



俺はバランスが大切なのだと思っている。
何事にもバランスが大切で・・・。
俺の中のバランスもそうだし、それは周りの環境も。



そのバランスが崩れないようにすれば平穏な生活が送れる、一見送れているように見える。



そう思いながら生きてきた俺にとって、海神ちゃんの存在はあまりにもアンバランスで。
だから強く惹かれた。



強い強い強い女神ではないはずなのに・・・



こんなにアンバランスなのに女神だった海神ちゃんに、強く惹かれた・・・。
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