【完】初めてのベッドの上で珈琲を(カットページ掲載済2023.5.13)

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
119 / 122
10

10-4

しおりを挟む
17時・・・



本日2回目の珈琲店の貸し切り。
応接用ソファーのローテーブルにアイスコーヒーを2つ置き、1つはブラックのまま・・・もう1にはガムシロップだけを置いた。



それにソファーに向かい合うように座った2人が驚いた顔で私を見た。
それに自然と笑いながら2人を見て・・・女の人の隣に私はゆっくりと座る。



私の隣には、渡邉さんが。
そして、向かい側の席には高柳さんが。



2人とも気まずい顔をしていて、お互いにチラチラと相手の顔を見ている。



私はどう切り出していいのか分からず、でも・・・お願いをすることにする。



「あの・・・私、人事部の天野剛士という人と結婚をしまして・・・。」



「はい・・・有名なのですぐに回ってきました・・・。
天野さんと・・・結婚されたんですね・・・。」



渡邉さんが複雑そうな顔で笑いながら隣に座る私を少しだけ見て、俯いた。



「アイスコーヒー、飲んでくれませんか?
少しでも・・・。」



同じような顔で俯いている2人に自然と笑顔になってしまう。



「本当のことを話せる“薬”を入れておきました。」



2人が同じようなタイミングで同じような顔の角度で私を見てくる。
それに笑い掛けながら瞬きをする。



「さっき、企画部の部長さんから色々なことを教えてもらいました。
色々なことを・・・本当に色々なことを、勉強させてもらいました。」



「部長にですか・・・?」



「はい、なので高柳さんと渡邉さんも私に教えてくれませんか?
私はこれまで恋愛をしたことがなくて、天野剛士とも付き合った日数も全然ないまま結婚をしました。
なので、どんなことで男女が別れてしまうことになるのか私に教えてくれませんか?」



アイスコーヒーのグラスを2人にもっと近付けた・・・。
そして、もう1度込める・・・。
“気”を込めながら瞬きをする・・・。



「大丈夫、“薬”を入れておきましたから。
本当のことを話せる“薬”を。
それで私に高柳さんと渡邉さんがどうして別れてしまったのか、教えてくれませんか?
お互いにまだ好きなのに、それなのにどうして別れてしまったのか。」



私がそう言うと、2人で同じ顔をして驚いている。



今日の朝、企画部の副部長の奥様が会社に来た。
東北の地域の名物のお菓子などを沢山持って、ビル中を謝罪に回っていた。



副部長は奥様が実家に帰ってしまってから、お酒がないと眠れなくなってしまったらしい。
どんどん量も増えていき・・・それはもう“病気”と判断される量や頻度で。



週末に健吾さんの華麗な親族が一緒に奥様の実家まで行ってくれ、副部長と奥様の仲は和解されたそう。
でも、副部長はしばらく入院し治療することになった。



だから、企画部の部長さんはアイスコーヒーを1つの注文でよくなった。
企画部の部長さんは元々副部長の下で働いていて、ブライダルのグループ会社の所属だった。
部長さんを育てたのはあの副部長で・・・。
副部長が処分される時に名乗り出て、自分の部署で引き受けたそう。



そして、お酒が抜けていない状態で会社に来てセクハラ発言や問題発言をする副部長を少しでも制御しようとしていた。



アイスコーヒーを静かに飲む渡邉さんの姿を瞬きをしながら見る。



私は・・・渡邉さんによく似ていた。
だから高柳さんは私に興味を持って・・・
企画部の部長さんは、守るべき対象と考えた。



渡邉さんを守るだけでなく、それは副部長を守るためにも。
セクハラ発言や問題発言に怯えてしまう渡邉さんを自分のお気に入りとして接して、副部長から遠ざけ・・・処分の決定的な証拠を作らないようにさせた。



それは高柳さんと渡邉さんが別れた後も継続し・・・年々酷くなってしまった副部長の対応のために“付き合っている”設定にまでさせて守った。



渡邉さん以上に、副部長を守った。
私は自分が撮った写真の中でしかタイムマシーンに乗れないから分からないけれど、それほど部長さんにとっては副部長との大切な思い出があったのだと分かる。



それは、きっとこの2人にも。
そんな素敵な部長さんから結構本気にアプローチをされていたのに一切なびくことはなかったらしい渡邉さん。



そして、私を通して渡邉さんを見ようとしていた高柳さん。



「私は偏差値も普通より下の公立高校出身で、カフェのバイトの経験しかありません。
社会人としての経験も恋愛の経験もなくて、全てが勉強不足なんです。」



本当のことを話せる“薬”であるアイスコーヒーを飲んだ2人が、さっきよりも真剣な顔で・・・覚悟を決めたような顔で私を見る。



そんな2人に笑い掛けて、お願いをする。



「教えてください、私に。
私は勉強をしたいです。」



瞬きを繰り返しながらお願いをした。



私は、写真を撮れる。
カメラでもスマホでも写真を撮るのが下手だけど、私は瞳のレンズで写真を撮れる。



自分で撮った写真なら、私は思い出せる。
鮮明に思い出せる。
その時の場所や人や音や匂い、全てを思い出せる。



私は、タイムマシーンに乗れる。



それは過去へだけでなく、きっと未来へも。



高柳さんが口をゆっくりと開けた・・・



「俺さ・・・」



ゆっくりと、本当のことを話し始めた高柳さんと、それを真剣な顔で見詰める渡邉さんを見ながら・・・



私は瞬きをした。



“誤解が解けた瞬間”の写真を、私の瞳のレンズで撮った・・・。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...