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「なんだよ、手繋ぐくらいいいだろ。」



会社の最寄り駅に降りても剛士君が手を繋いだままだったので、それはお願いをして離してもらった。



「私には難易度が高すぎます・・・!」



「処女みたいな顔で処女みたいなこと言うなって!」



剛士君が大笑いしながらそう言って、私の隣を歩く。
それに顔だけでなく全身が熱くなってくるのが分かる・・・。



憧れている人と・・・
大好きな人と一緒に会社に行ける日が来るなんて思わなかったから。



剛士君を何度も見上げて瞬きを繰り返した・・・。



そんな私を剛士君は満足そうな顔で見下ろす・・・。



夏の暑い日差しの中、剛士君と一緒に会社のビルまで歩く。
あと少しでビルに着きそうな時・・・



「笠原さん?」



と、声を掛けられた。
振り返ると・・・前に働いていたカフェの店長の男性だった。



「店長!お久しぶりです!!」



「久しぶりだね~!
あ・・・彼氏?」



「えっと・・・」



店長から、隣にいる剛士君のことを“彼氏”かと聞かれた・・・。
手は繋いでいないけど、暑い中2人でくっつくように歩く姿にそう見えたのだと気付いた。



「えっと・・・私の好きな人で・・・。」



両手で顔を隠しながら答えると、その両手を剛士君に掴まれ顔が出てしまった。
剛士君も店長もニヤニヤとしながら私を見ていて・・・瞬きをする。



「こんなに格好良い彼氏が出来て良かったね!
それに藤岡ホールディングスに就職とか本当に凄いよ!!」



店長がそう言いながら目の前にある大きなビルを見上げた。
それにつられるように私も目の前の大きなビル、藤岡ホールディングスのビルを見上げる。



「長年バイトだったけど、仕事も出来たし接客も凄い出来たからね。
うちの店舗が長年1番だったのは笠原さんのお陰だよ。」



「違いますよ、“あの女性”のお陰です。」



「あの女の子がいたのをキッカケに、笠原さんもいたからだよ。
久しぶりに見たら雰囲気が少し変わったよね。
憧れのあの女の子に少し雰囲気が近付いてきたんじゃない?」



「本当ですか・・・!?」



店長がそんな嬉しいことを言ってくれ、私は嬉しくて自然と笑顔になる。



“たまには店に来てね”
店長が最後にそう言ってくれてから別れ、また剛士君とあと少しの道を歩く。



「憧れの女の人に近付いてきたって言ってもらっちゃった!」



「あの人、何も処女っぽくないだろ。」



剛士君は私の憧れの女の人に1度だけ会ったことがある。



「瞳、“憧れの女”何人いるんだよ?」



「2人だけだよ?」



「・・・その2人は似てた?」



「似てたのかな・・・。
顔とかではなくて、美しく立つ姿が。
2人とも立つ姿が凄い美しくて。」



「俺はあの人が立った所は見なかったからな。」



「強い女性には憧れる。
私は・・・強くないから。」



「瞳は強いだろ。
週末にあの写真屋で1人過ごせるくらいに、強いだろ。」



剛士君が真剣な顔で私を見詰めた・・・。



「それに、いつも1番幸せな顔でいられる写真を選べる強さもある。
そのために長年バイトでい続けるくらい、瞳は強い。」



「そうですか・・・?」



「だからこそ、勉強不足ではあったな。
勉強はどこでも出来る。
どんな場所でも環境でも、金があろうとなかろうと。
勉強をやめない限りはずっと勉強が出来る。
勉強しろ、瞳。」



「はい・・・。」



私が頷くと剛士君が優しい顔で笑った。



「瞳は極上に良い女になれるくらい、それくらい良い女だよ。」



「極上に良い女・・・」



「愛して愛して仕方ない奴がいて、権力も兼ね備えた“極上に良い女”。」



剛士君がそう言い終えた時、藤岡ホールディングスのビルに着いた。
汗が吹き出てきて私は汗をハンカチで拭く。



「こんなに巨大な体を持つ生き物と関われたからな。
愛して愛して仕方ない女が折角見付けてくれたから、あとは俺も権力も兼ね備えてみるか。」 



「じゃあ、私も・・・。
愛して愛して仕方ない“人”に見付けてもらえたので、少し権力のことも意識してみます・・・。」



「俺が輸血した“度胸”どうしたんだよ!
“少し”じゃなくてもっと意識しろよ!!」
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