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2人で部屋着のまま、リビングにある階段から1階の店舗に降りる。
店の扉の鍵を中から開け外に出て、“本日は現像のみ”の看板を出す。
「私がカメラも撮れれば良かったんですけど・・・。
証明写真も何も撮れないので、私が店番の時は現像のみです。」
苦笑いをしながら古めの我が家・・・2階建ての我が家を見る。
1階部分は写真屋で2階部分は居住スペース。
お父さんの方のおじいちゃんがカメラマンで、昔は2階で撮影もしていた。
街の写真屋として、この街の人達の写真はおじいちゃんが沢山撮っていた。
でも、時代は変わり・・・。
街の写真屋で写真を撮ることもなくなってしまったし、今は自分達でどこでも現像も出来る。
スマホやパソコンにより現像もしない人達が増えている。
お父さんはカメラマンになったけれど、この写真屋は継がなかった。
頻繁に海外へ行ってそこで写真を撮っていた。
お母さんと結婚してからも、私が産まれてからも。
たまに帰って来たお父さんは優しかったし、お母さんのことが大好きなのも分かっていた。
だからお父さんのことは好きだったけど・・・。
お母さんが亡くなってからは、おじいちゃんが亡くなって閉めていたこの写真屋をまた始め、2階でオババと一緒に住み始めた。
それで、私とずっと一緒に過ごせるようにしてくれていた。
その時の、私の1番幸せな顔でいられる写真を選んでくれていたのだと思う・・・。
一緒に店の外まで出てくれた天野さんを見上げる。
「私を採用してくれて、本当にありがとうございました・・・。
お父さん、きっと今幸せな顔をして写真を撮っているはずです。」
写真屋のカウンターの所に椅子を2つ並べ、天野さんと2人で座る。
ガラスの扉から見える、たまに歩く人を眺める・・・。
「おっかねーくらい平和な時間だな。」
「そうですよね、3人くらいお客様が来ればいい方です。」
「こんなに何もしてない時間って今までなかったから、何していいか分からねーんだけど。
お前いつも何してんの?」
「思い出しています、色々と。
色々なことを思い出す時間にしています。
その為にお父さんがこの店を続けてくれて、私にその時間を作ってくれています。」
私が真正面にあるガラスの扉を眺めながら答えると、天野さんが私の手を握ってきた。
「思い出すのが怖い物もあるだろ?
お母さんが亡くなった時とか・・・。」
「そうですね・・・。」
「それも思い出すのかよ?」
「そうですね・・・。」
「怖くねーのかよ?」
「怖いですよ、凄く・・・。
でも、それ以上に沢山の幸せな写真もあるから。
思い出せるから、全部・・・。
鮮明に思い出せるから・・・。」
私がそう答えると天野さんの手が少し震えてきた。
その手に私のもう片方の手を重ねる。
「傷はしっかり塞がっています・・・。
私が見たので間違いありません・・・。」
「そうだな・・・。
でも、傷痕は残ってる・・・。」
「その傷痕に幸せな瞬間を重ねれば、それ以上に沢山の幸せな写真が残ります。」
「そうだな・・・。
じゃあ、俺も思い出す時間にする。」
天野さんの手は大きく震え、手汗も酷くなる。
それを私が強く握り締めると・・・天野さんの視線が壁の方へ・・・。
天野さんの視線を辿ると、壁には1枚の大きな写真が額に入れられ飾られている。
お父さんがこの写真屋で撮った写真。
街の人達からの依頼で写真を撮りに行くことはあったけれど、このお店で撮るのは証明写真だけだった。
そんなお父さんが目を輝かせて撮った写真。
真っ白なロングドレスを着て、真っ白な肌と真っ黒な髪の毛をアップにした女性。
儚い雰囲気もあり、でも強そうにも見え、真っ直ぐと美しく佇む女性・・・。
私の憧れの女性・・・。
アヤメさん。
天野さんが冷や汗を浮かべながらアヤメさんの写真を見ている。
「ごめんな・・・。」
天野さんが小さな声で呟き、立ち上がった。
「ごめんな、やっぱり帰る。」
「はい・・・。」
天野さんが苦しそうな顔で2階に上がり、少ししてからスーツ姿になり降りてきてお店を出て行った・・・。
店の扉の鍵を中から開け外に出て、“本日は現像のみ”の看板を出す。
「私がカメラも撮れれば良かったんですけど・・・。
証明写真も何も撮れないので、私が店番の時は現像のみです。」
苦笑いをしながら古めの我が家・・・2階建ての我が家を見る。
1階部分は写真屋で2階部分は居住スペース。
お父さんの方のおじいちゃんがカメラマンで、昔は2階で撮影もしていた。
街の写真屋として、この街の人達の写真はおじいちゃんが沢山撮っていた。
でも、時代は変わり・・・。
街の写真屋で写真を撮ることもなくなってしまったし、今は自分達でどこでも現像も出来る。
スマホやパソコンにより現像もしない人達が増えている。
お父さんはカメラマンになったけれど、この写真屋は継がなかった。
頻繁に海外へ行ってそこで写真を撮っていた。
お母さんと結婚してからも、私が産まれてからも。
たまに帰って来たお父さんは優しかったし、お母さんのことが大好きなのも分かっていた。
だからお父さんのことは好きだったけど・・・。
お母さんが亡くなってからは、おじいちゃんが亡くなって閉めていたこの写真屋をまた始め、2階でオババと一緒に住み始めた。
それで、私とずっと一緒に過ごせるようにしてくれていた。
その時の、私の1番幸せな顔でいられる写真を選んでくれていたのだと思う・・・。
一緒に店の外まで出てくれた天野さんを見上げる。
「私を採用してくれて、本当にありがとうございました・・・。
お父さん、きっと今幸せな顔をして写真を撮っているはずです。」
写真屋のカウンターの所に椅子を2つ並べ、天野さんと2人で座る。
ガラスの扉から見える、たまに歩く人を眺める・・・。
「おっかねーくらい平和な時間だな。」
「そうですよね、3人くらいお客様が来ればいい方です。」
「こんなに何もしてない時間って今までなかったから、何していいか分からねーんだけど。
お前いつも何してんの?」
「思い出しています、色々と。
色々なことを思い出す時間にしています。
その為にお父さんがこの店を続けてくれて、私にその時間を作ってくれています。」
私が真正面にあるガラスの扉を眺めながら答えると、天野さんが私の手を握ってきた。
「思い出すのが怖い物もあるだろ?
お母さんが亡くなった時とか・・・。」
「そうですね・・・。」
「それも思い出すのかよ?」
「そうですね・・・。」
「怖くねーのかよ?」
「怖いですよ、凄く・・・。
でも、それ以上に沢山の幸せな写真もあるから。
思い出せるから、全部・・・。
鮮明に思い出せるから・・・。」
私がそう答えると天野さんの手が少し震えてきた。
その手に私のもう片方の手を重ねる。
「傷はしっかり塞がっています・・・。
私が見たので間違いありません・・・。」
「そうだな・・・。
でも、傷痕は残ってる・・・。」
「その傷痕に幸せな瞬間を重ねれば、それ以上に沢山の幸せな写真が残ります。」
「そうだな・・・。
じゃあ、俺も思い出す時間にする。」
天野さんの手は大きく震え、手汗も酷くなる。
それを私が強く握り締めると・・・天野さんの視線が壁の方へ・・・。
天野さんの視線を辿ると、壁には1枚の大きな写真が額に入れられ飾られている。
お父さんがこの写真屋で撮った写真。
街の人達からの依頼で写真を撮りに行くことはあったけれど、このお店で撮るのは証明写真だけだった。
そんなお父さんが目を輝かせて撮った写真。
真っ白なロングドレスを着て、真っ白な肌と真っ黒な髪の毛をアップにした女性。
儚い雰囲気もあり、でも強そうにも見え、真っ直ぐと美しく佇む女性・・・。
私の憧れの女性・・・。
アヤメさん。
天野さんが冷や汗を浮かべながらアヤメさんの写真を見ている。
「ごめんな・・・。」
天野さんが小さな声で呟き、立ち上がった。
「ごめんな、やっぱり帰る。」
「はい・・・。」
天野さんが苦しそうな顔で2階に上がり、少ししてからスーツ姿になり降りてきてお店を出て行った・・・。
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