“純”の純愛ではない“愛”の鍵

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「私がソっちゃんのカットで手を抜いたことなんて1度もありません。」



「じゃあ何？
これが間中の実力ってこと？
まだ数日だけど間中はもっと出来る奴だと思ってたのに、俺の勘違いってこと？」



綺麗で格好良い男の人がマナリーのことを押し退けるように私の真後ろに立った。
そして男の人とは思えないくらい綺麗な手で私の髪の毛を優しく触っていく。



「ショートなのに3ヶ月経っても纏まっているし広がり方も悪くない。
間中にカットの技術があるのはとっくに知ってる。
知ってるし・・・」



綺麗で格好良い男の人が綺麗な両手を私の頭に添えた。



「お客様がなりたい姿にするのも勿論そうだけどな、間中はもっと出来る奴だろ。
その人にとって1番似合う姿にすることが出来る奴だと、俺は思っていた。」



綺麗で格好良い男の人が美しい笑顔で私に笑い掛ける。



鏡越しだけど、ドキドキとしていまうような笑顔で。



「俺だったらとびっきり良い女にしてあげられる。
俺に任せて貰える？」



そんな魅力的な提案にはすんなり頷いた。



いや、頷こうとした。



でも、見えてしまった。



鏡の中のマナリーの顔が。



泣きそうな顔で下を向いているマナリーの顔が。



“この世界は弱肉強食。”



私の彼氏である佐伯さんの言葉が戻ってきた。



だから、口にした。



こんな私のことを女としてずっと好きでいてくれた大好きで大切なマナリーに向かって。



「マナリー、今日もお願い出来るかな？」



そう口にした私にマナリーは重そうな口を動かした。



「私には・・・出来ない・・・っごめんね・・・ごめんね、ソっちゃん・・・っ。
私、ソっちゃんのことを綺麗にするだけじゃなくて格好良くもしてた・・・っ。
ソっちゃんがなりたい姿じゃなくて、私がソっちゃんに求めてしまう姿も加えてしまってた・・・っ。」



そう打ち明けたマナリーに向かって、私は笑い掛ける。



「酷い女だね、マナリー。」



「ごめんなさい・・・っ」



「でも、そういう所も好きだよ。」



私の言葉にマナリーは驚きながら顔を上げた。



「私がそんなことでマナリーのことを嫌いになると思ったの？
酷い女だよ、マナリーは。」



「・・・・・・っっっ」



マナリーの大きな目からは涙が次々と流れてくる。



そんなマナリーにお願いをする。



「私のカット、今日もお願い出来るかな？」



「うん・・・っ絶対に可愛くする・・・っちゃんと綺麗で美しい女の人にする・・・っ」



泣きながら、でも笑いながら私の真後ろにまた立ったマナリー。



そのマナリーに私は鏡越しに口を開く。



「綺麗で美しい女じゃなくて、私を格好良い姿にして。」



「え・・・？」



「“綺麗で格好良い”でもなく、“格好良い”だけの姿にして。
私はそんな姿になりたい。」



鏡越しでも分かるくらいにマナリーの瞳は揺れている。



「私、王子様になりたいから。」



「王子様・・・。」



「マナリー、私・・・」



言葉を切った後にマナリーに口にした。



とても酷いことを口にした。



「私、女の子と付き合ってる。」



マナリーの大きな目がもっともっと、もっと大きくなった。



そして・・・



マナリーの顔が大きく歪んだ。



可愛いマナリーの顔がグシャグシャに歪んだ。



“ごめんね。”



その言葉は飲み込み、グシャグシャに泣くマナリーに向かって泣きそうになるのを我慢して口にする。



「私を格好良い王子様にして、マナリー。」



必死に我慢したけれどこの目からは涙が流れてきた。



「私じゃ・・・ダメだった・・・？」



号泣しながら聞いてきたマナリーに、私も泣きながら口を開く。



本当のことを伝える為に。



「マナリーのことは大好きだよ・・・。
昔から大好きで、大切だよ・・・。
1番可愛い女の子としてマナリーは殿堂入りしてる・・・。」



「相変わらず酷い・・・。」



「でも、こういうの好きでしょ？」



「うん・・・っ好き・・・っ大好き・・・っ！！」



「うん、知ってる。」



泣きながらも笑った私に、マナリーもグシャグシャになりながら大きく笑った。



それから、鏡の中にいる私のことを真っ直ぐと見詰め・・・



「私がソっちゃんのことを格好良い王子様にする。」



右手に光る鋏を持ったマナリーに、私は深く頷いた。