上 下
164 / 166
11

11-4

しおりを挟む
この胸に沸き上がってくる嫌悪感を顔に絶対に出さないよう羽鳥さんに振り向いた。
私のことを砂川さんから何と聞いているのだろうと思いながら。
“可哀想”と思われているのかもしれないとも思いながら。
バカにされているかもしれないとまで思いながら。



だからこそ、絶対に羽鳥さんの前で可哀想な顔なんて見せたくなかった。



“可哀想な羽鳥さん”よりも“可哀想”な人間にはなりたくなかった。



砂川さんと私のことを知っているはずなのに私に一言もその話をしてこない羽鳥さんに、“純ちゃん”の楽しくて幸せだった思い出だけはどうしても守りたいと思い必死に羽鳥さんを見つめ返した。



「“純愛”っていう名前、園江さんは好き?」



再会してから砂川さんに呼ばれている“純愛”という名前。
羽鳥さんは砂川さんが私のことをそう呼んでいるのが気に入らないのかもしれない。



あの若くて格好良い男の子だけではなく砂川さんのことまでも握っている羽鳥さんに私は口を開いた。



「大嫌いに決まってるじゃないですか。」



“純愛”という名前ではなく羽鳥さんのことを思い浮かべ、羽鳥さんに向かって真っ直ぐと口にした。



「そうなの!?凄く可愛い名前なのに・・・。」



そのことには返事をせず、無理矢理にでも話を変える。



「私も羽鳥さんに質問しても良いですか?」



「うん、何だろう?」 



「その胸って本物?」



もうどちらでも良かったけれど偽物だったら良いなと・・・、偽物だったら砂川さんに言ってやろうと、そんな悪いことを考えた。



「え・・・っ、うん・・・うん、本物だよ!!
触ってみる?」



“触ってみる?”
1つ付け足されたソレには一気に悪い心が消え去った。



“可愛い人だな”と思ってしまう。



“やっぱり、可愛い人だな。”



認めたくはないけれど認めてしまい、苦しくて苦しくてこの顔を保てそうになくなった時・・・



「羽鳥さん、私の彼女を誘惑するのはナシですよ。」



佐伯さんが不機嫌な顔をしながら現れ・・・



「遅くなってごめんね?行こう?」



私に向かって手を差し出した。



差し出してくれた。



「うん、迎えに来てくれてありがとう。」



泣きそうになりながら佐伯さんのことを振り向いた私に佐伯さんは一瞬だけ驚いた顔をした。
でも、一瞬だけで。
すぐに佐伯さんの手を握った私の手を強く強く握り締めてくれた。



それに凄く安心し、凄く凄く心強いと思った。



まだ歩ける・・・。



私はまだ大丈夫・・・。



私は砂川さんとエッチをする・・・。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...