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「それなら、誰とも結婚しないでよ。」



「純愛ちゃんがそう言うならそうするよ。
このまま3人でずっと一緒にいようか。」



「バカじゃないの・・・そんなことしないよ。」



これからの砂川さんの未来、そして佐伯さんの未来のことを考え泣きそうになりながらも笑った。



「私は砂川さんにとっても佐伯さんにとっても王子様になる。」



私の左手を握る佐伯さんの手を少しだけ強く握った。



「砂川さんのことも佐伯さんのことも必ず幸せにしたい。
私みたいな人間のことを女の子として扱ってくれた大好きな2人だから。」



砂川さんの右手も強く握り締める。



「佐伯さんから私の命も身体も返して貰った時、私達の関係は終わる。
砂川さんはその前にいなくなってるだろうけど、佐伯さんと私の関係も必ず終わらせる。」



砂川さんの左手を離すことなく佐伯さんの方を見た。



「幸せになって欲しい・・・。
女の子としてちゃんと幸せになって欲しい。
私の性別は女だから佐伯さんの本物の王子様にはなれないから。」



綺麗な寝顔の佐伯さんが小さく寝息をたてている。



「佐伯さんの命が終わるその時まで、やりたいと思うことをこの人生で全部やって欲しい。
そしたら・・・」



言葉を切った後に私の“彼氏”ではなく、“女の子”の佐伯さんの横顔に伝えた。



「次の人生では私が男になって、今度は私が佐伯さんのことを迎えに行く。」



退職願いを出しに行こうとしていた私の元に現れた佐伯さん。
“普通”ではない佐伯さんは“男”となって私のことを助けようと手を差し出してくれた。



「次の人生では私が佐伯さんの本物の王子様になる。」



力強く口にした私の身体を、砂川さんが強く強く抱き締めた。



「俺は?」



「“俺”が何?」



「この人生でも次の人生でも、俺が全然登場していなかった。
すぐにいなくなる設定になってた。」



「すぐにいなくなるでしょ?」



「いなくならないよ。」



「いなくなった方が良いよ。」



「それは全く良くないよ。」



「砂川さんも幸せになってよ。」



「うん、だからいなくならない。」



佐伯さんのことを見続ける私の頬を砂川さんが優しく包み、自分の方を向かせた。



「この人生でも次の人生でも俺は純愛ちゃんと一緒にいたい。」



「砂川さん、ゲイが嫌いじゃん。」



突っ込んだ私に砂川さんは無言になり、それには小さく笑ってから続けた。



「何で私におちんちん大きくしてたの・・・・?」



てっきり羽鳥さんとエッチをしてからそういうことまで出来るようになったと思っていた。



「でも私が相手だったら絶対に勘づかれることはないね。
私はこんな感じだから・・・。」



流れてきた涙を砂川さんの大きくて温かい手が拭ってくれる。



「“うち”の会社でも誰からも勘づかれてなかった。
砂川さんは私の男友達の1人だと誰もが思ってた・・・。
砂川さん本人だって思ってた・・・私のことを“性欲が強い”友達だと思ってた。」



「うん、ごめんね。」



「私の命も身体も佐伯さんから返される日が来るのか心配にはなるよ。
私のことを本気で愛してくれる男なんて現れるのか・・・。」



「俺じゃダメ?」



「当たり前じゃん。」



普通に笑った私に砂川さんは悲しそうな顔になった。



「“純ちゃん”・・・。」



砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼ぶ。



「砂川さんの“純ちゃん”はもういないよ。」



「うん・・・。」



苦しそうな声で頷き、私のことをギュゥッと抱き締めた。



「“私”のことは好きじゃないでしょ?」



「好きだよ。」



「砂川さんは“純ちゃん”のことが好きなだけだよ。
“純ちゃん”は凄く良い子だったから。」



「“純愛ちゃん”も凄く良い子だよ。」



「砂川さんには全然良い子じゃない。」



「そういう所も好きだよ。」



「嘘つき。」



「本当に。」



口も上手な砂川さんが続けてくる。



「王子様になろうと決めた純愛ちゃんのことも凄く好きだよ。」



そう言われ、それにはこの目から涙が次々と流れてきた。



「あんなに“女の子”に見て貰えないことに苦しんでいたのに、佐伯さんと俺の王子様になろうとしている純愛ちゃんのことも凄く好き。」



「・・・・・っ」



「次の人生では本物の王子様になって佐伯さんのことを迎えに行くと決めている所も凄く好きだよ。」



「・・・・・・っ」



「でも、純愛ちゃんは頑張りすぎるところがあるから。」



号泣してしまっている私のことを優しい顔で見下ろし、その目に熱を込めた。



「疲れたらいつでも俺の所においで。
この人生でも次の人生でもいつでも。
“女の子”でも“女”でも“男”でも“王子様”でも、もうなんだって良いよ。
オカマだろうがオナベだろうがなんだって良いから、“純ちゃん”でも“純愛ちゃん”でも俺は待ってるよ。」







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