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思わず顔を上げた私に佐伯さんは慌てたように両手を顔の前で横に振る。
「セックス講座って言っても、変な雰囲気になったりなんて全然してないし、私の性別は女だけど純愛ちゃんの心の彼氏として純愛ちゃんに少しでも気持ち良くなって貰う為に私もムカつく中でセックス講座をしていて・・・」
「ごめんね、その話じゃなくて。」
真剣に口にした私に佐伯さんは口を閉じた。
「砂川さんって今現在、エッチをしてる女はいないの?」
「純愛ちゃんの“今現在”の範囲がどこまでかは分からないけど、3年前くらいにしたのが最後って言ってたよ?」
「3年くらい前に・・・。」
それは私なのか、それとも私がセフレとして砂川さんの家に行かなくなってから羽鳥さんとしたのか。
やっぱり望と話したい・・・。
そう思った時、佐伯さんが1つ付け足してきた。
「課長って1人としか経験がないらしくて、しかも前戯とかしたことないらしいよ?
だから全然気持ち良くなかっただろうけど、私がムカつきながらもセックス口座を開講したから少しは良くなってると思うから!」
1つどころかいくつも付け足してきて、それにはクラクラとしてくる頭で考える。
いや、頭で考えるよりも身体が一気に熱を持った。
「砂川さんって1人としか経験ないの・・・?」
「うん、だからセックスの下手さは多目に見てあげて?」
佐伯さんのどうでも良いフォローなんて全く耳に入らず、込み上げてくる怒りでどうにかなりそうになる。
「“いけないコト”・・・。」
「え?何?」
呟いた私に佐伯さんは聞き返してきて、それを無視して小さく笑った。
お嬢様は相当な“いけないコト”をしているらしい。
婚約者である砂川さんが了承しているのなら本当の“いけないコト”にはならないのかもしれないけれど、私からしてみたら完全に“いけないコト”で。
婚約者の砂川さんともしていない“そういうこと”をあの若くて格好良い男の子とだけしているらしい。
砂川さんの他に“そういうこと”をしている相手がいたどころか、婚約者の砂川さんのことは何も考えていないという“いけないコト”。
何も考えていないどろかバカにしている。
どう考えても私には羽鳥さんが砂川さんのことをバカにしているとしか思えない。
そう思うと怒りの感情が込み上げてくる。
どうしようもなく込み上げてくる。
いくら砂川さんが受け入れているとしても、これは“いけないコト”どころではないと私は思う。
「“いけないコト”をしなければ強くなれないなら、私は弱いままでも良い・・・。」
さっきよりも少しだけ大きな声で口にする。
「私は弱いまま・・・強い誰かに食われても良い・・・。
私が誰かを食うくらいなら、私は喜んで食われる。」
何故か流れてくるこの涙は何の涙なのか・・・。
全然分からないけれど次から次へと涙が流れてくる。
「私はやっぱり強くならなくて良い・・・。
私はここままが良い・・・。
私は、私が誰かを食う私になりたくない・・・。」
“あの日”、道端に倒れていた私のことを助けてくれた砂川さんの姿を思い出す。
羽鳥さんにとっては“ただの”婚約者なのだろうけど、私にとっては王子様だった。
私のことを“女の子”にしてくれた王子様だった。
そのことを強く強くこの胸に抱きながら、この胸を両手で押さえる。
「私は、食われそうになっている誰かを助けられる“人間”になりたい。」
泣きながらも口にする。
「私は“女の子”にも“女”にもならなくたって良い。」
私のことを真っ直ぐと見つめ返してくる私の“彼氏”に伝える。
「他の誰かが望むのなら、私は“王子様”だって良い。
私が誰かを食うくらいなら私は“王子様”にだって何にだってなる。」
勘違いだったけれど、私は“女の子”になっていた。
誰が見ても私は“女の子”ではなかっただろうけど、私の心は確かに“女の子”になれていた。
そのことは私だけが知っている。
私だけが知ってくれているからもうそれで良い。
「私、砂川さんとエッチしてみようかな・・・。」
まだ私の命と身体を持ってくれている佐伯さんに告げる。
「それで砂川さんが少しでも救われるのなら、私は砂川さんとエッチをしてみようかな・・・。」
砂川さんがあんなに私とエッチをしてくれようとした気持ちがやっと分かった。
私へのボランティア精神もあるだろうけれど、きっとそれだけではなくて。
「砂川さん、可哀想なんだけど・・・。」
砂川さんは優しい人だから、きっと羽鳥さんには何も言わない。
財閥の為に結婚をしなければいけないお嬢様の、結婚前のほんの少しだけの“いけない時間”なはずだから。
羽鳥さんには何も言わないであろう砂川さんの代わりに私が口にする。
「砂川さん、可哀想だよ・・・。」
もう1度言葉にした私に佐伯さんは“男”の顔で困ったように笑った。
「どんな理由でも彼女が他の男とセックスをするのは辛いな。」
“王子様になる”とまで言った私のことを佐伯さんはまだ“彼女”だと言ってくれ、私のことを優しく抱き締めた。
「私には純愛ちゃんが“女の子”にも“女”にもちゃんと見えてる。
“王子様になる”って言った時なんてめちゃくちゃ可愛い“お姉さん”だった。」
そんなことを言ってくれて・・・
「純愛ちゃんは凄く優しい良い子なんだよね。
だから私みたいな“悪いコト”が出来ないんだろうな。」
私の身体をギュッとした佐伯さんが、優しい声で続けた。
「他の誰かの為に“王子様”でいる純愛ちゃんは弱い人ではないか。」
「セックス講座って言っても、変な雰囲気になったりなんて全然してないし、私の性別は女だけど純愛ちゃんの心の彼氏として純愛ちゃんに少しでも気持ち良くなって貰う為に私もムカつく中でセックス講座をしていて・・・」
「ごめんね、その話じゃなくて。」
真剣に口にした私に佐伯さんは口を閉じた。
「砂川さんって今現在、エッチをしてる女はいないの?」
「純愛ちゃんの“今現在”の範囲がどこまでかは分からないけど、3年前くらいにしたのが最後って言ってたよ?」
「3年くらい前に・・・。」
それは私なのか、それとも私がセフレとして砂川さんの家に行かなくなってから羽鳥さんとしたのか。
やっぱり望と話したい・・・。
そう思った時、佐伯さんが1つ付け足してきた。
「課長って1人としか経験がないらしくて、しかも前戯とかしたことないらしいよ?
だから全然気持ち良くなかっただろうけど、私がムカつきながらもセックス口座を開講したから少しは良くなってると思うから!」
1つどころかいくつも付け足してきて、それにはクラクラとしてくる頭で考える。
いや、頭で考えるよりも身体が一気に熱を持った。
「砂川さんって1人としか経験ないの・・・?」
「うん、だからセックスの下手さは多目に見てあげて?」
佐伯さんのどうでも良いフォローなんて全く耳に入らず、込み上げてくる怒りでどうにかなりそうになる。
「“いけないコト”・・・。」
「え?何?」
呟いた私に佐伯さんは聞き返してきて、それを無視して小さく笑った。
お嬢様は相当な“いけないコト”をしているらしい。
婚約者である砂川さんが了承しているのなら本当の“いけないコト”にはならないのかもしれないけれど、私からしてみたら完全に“いけないコト”で。
婚約者の砂川さんともしていない“そういうこと”をあの若くて格好良い男の子とだけしているらしい。
砂川さんの他に“そういうこと”をしている相手がいたどころか、婚約者の砂川さんのことは何も考えていないという“いけないコト”。
何も考えていないどろかバカにしている。
どう考えても私には羽鳥さんが砂川さんのことをバカにしているとしか思えない。
そう思うと怒りの感情が込み上げてくる。
どうしようもなく込み上げてくる。
いくら砂川さんが受け入れているとしても、これは“いけないコト”どころではないと私は思う。
「“いけないコト”をしなければ強くなれないなら、私は弱いままでも良い・・・。」
さっきよりも少しだけ大きな声で口にする。
「私は弱いまま・・・強い誰かに食われても良い・・・。
私が誰かを食うくらいなら、私は喜んで食われる。」
何故か流れてくるこの涙は何の涙なのか・・・。
全然分からないけれど次から次へと涙が流れてくる。
「私はやっぱり強くならなくて良い・・・。
私はここままが良い・・・。
私は、私が誰かを食う私になりたくない・・・。」
“あの日”、道端に倒れていた私のことを助けてくれた砂川さんの姿を思い出す。
羽鳥さんにとっては“ただの”婚約者なのだろうけど、私にとっては王子様だった。
私のことを“女の子”にしてくれた王子様だった。
そのことを強く強くこの胸に抱きながら、この胸を両手で押さえる。
「私は、食われそうになっている誰かを助けられる“人間”になりたい。」
泣きながらも口にする。
「私は“女の子”にも“女”にもならなくたって良い。」
私のことを真っ直ぐと見つめ返してくる私の“彼氏”に伝える。
「他の誰かが望むのなら、私は“王子様”だって良い。
私が誰かを食うくらいなら私は“王子様”にだって何にだってなる。」
勘違いだったけれど、私は“女の子”になっていた。
誰が見ても私は“女の子”ではなかっただろうけど、私の心は確かに“女の子”になれていた。
そのことは私だけが知っている。
私だけが知ってくれているからもうそれで良い。
「私、砂川さんとエッチしてみようかな・・・。」
まだ私の命と身体を持ってくれている佐伯さんに告げる。
「それで砂川さんが少しでも救われるのなら、私は砂川さんとエッチをしてみようかな・・・。」
砂川さんがあんなに私とエッチをしてくれようとした気持ちがやっと分かった。
私へのボランティア精神もあるだろうけれど、きっとそれだけではなくて。
「砂川さん、可哀想なんだけど・・・。」
砂川さんは優しい人だから、きっと羽鳥さんには何も言わない。
財閥の為に結婚をしなければいけないお嬢様の、結婚前のほんの少しだけの“いけない時間”なはずだから。
羽鳥さんには何も言わないであろう砂川さんの代わりに私が口にする。
「砂川さん、可哀想だよ・・・。」
もう1度言葉にした私に佐伯さんは“男”の顔で困ったように笑った。
「どんな理由でも彼女が他の男とセックスをするのは辛いな。」
“王子様になる”とまで言った私のことを佐伯さんはまだ“彼女”だと言ってくれ、私のことを優しく抱き締めた。
「私には純愛ちゃんが“女の子”にも“女”にもちゃんと見えてる。
“王子様になる”って言った時なんてめちゃくちゃ可愛い“お姉さん”だった。」
そんなことを言ってくれて・・・
「純愛ちゃんは凄く優しい良い子なんだよね。
だから私みたいな“悪いコト”が出来ないんだろうな。」
私の身体をギュッとした佐伯さんが、優しい声で続けた。
「他の誰かの為に“王子様”でいる純愛ちゃんは弱い人ではないか。」
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