上 下
142 / 166
9

9-12

しおりを挟む
「1番お気に入りの男の子っていうか、彼氏だよ?」



「彼氏・・・。」



佐伯さんの答えに私は戸惑う。
だって、羽鳥さんに彼氏が出来ることはないはずで。
あの人は凄く可哀想な女の人でもあり、“普通”の恋愛は出来ないはずのお嬢様。



“望は把握してるのかな?”



望の為にも1度連絡をしようと思い、その気力だけで足を動かそうとした。



そしたら・・・



「羽鳥さんに彼氏はいないよ。」



砂川さんの静かで落ち着いた声が、でもやけに重く感じる声がこの足を止めた。



「羽鳥さんからは彼氏ではないと聞いている。
“彼女”は彼氏という存在は作れない。
だから“1番お気に入りの男の子”という表現が正しいかもね。
あそこまで若くて今時の普通の男の子でビックリしたけど、羽鳥さんはああいう男がタイプだったのか。」



砂川さんが全然気にしていない雰囲気で、それどころか余裕しか感じないような雰囲気でそう言った。



「羽鳥さんの立場もあるから、あの男の子のことは見なかったことにしよう。」



見なかったことにしようとしている砂川さんに対して私はどうしても口が動いてしまった。



「見なかったことになんて出来ないよ。
見てしまったからには望に報告する。
あんな普通の男の子と同棲しちゃってるなんて、“いけないコト”の範囲を超えてるでしょ。」



「同棲じゃないよ、ルームシェアらしい。」



「そんなのただの言い訳だから!!
エッチまでしてるのにそんな言い訳通用しないから!!
あの男の子との子どもを妊娠でもしたらどうするの!?
これ以上望に迷惑を掛けてこれ以上・・・っ」



“砂川さんのことをバカにするのは良い加減して欲しい”



その言葉は必死に飲み込んだ。



元セフレの私が口にする言葉でもないように思ったから。



「でもさ、羽鳥さんってどんどん綺麗になってるし、やっぱり恋愛は女を変えるよね~。」



佐伯さんが感心した声で、今はどうでも良いそんなことを言ってきた。



「純愛ちゃん、何でそんなに怒ってるの?
私もあの男の子では羽鳥さんの相手にしてはちょっと若すぎて物足りないなって思うけど、悪くはない男の子だとは思うよ?」



「悪くないとかそんな問題じゃなくて、羽鳥さんは増田財閥の分家のお嬢様なの。
1番お気に入りの若い男の子がいるとか、その男の子と一緒に住んでるとか、その男の子とエッチしてるとか、そんなのが許されるお嬢様じゃないから。」



「純愛ちゃんの高校からの友達が小関の“家”の秘書の生まれで、その子のことを想ってくれているんだよ。」



「それもそうだけど、それだけじゃなくて・・・!!」



「純愛ちゃんの友達のことは私にはよく分からないけど、別に良いんじゃない?
だって羽鳥さんは結婚したら“家”にいるだけの女にならないでしょ?」



佐伯さんが砂川さんに向かってそう言うと、砂川さんは深く頷いた。



「譲社長も“彼女”本人もそのつもりでいる。
・・・元気君はまた違う考えみたいだけど。」



「元気さんはどんな考えなの?・・・って、アレか。
“楽しく生きよう、ウェ~イ♪”みたいなやつか。」



佐伯さんの言葉に私はガクッと項垂れる。



「増田元気ってそんな感じなの?
本当にそんな感じ?
増田財閥、大丈夫なのかな・・・。」



「大丈夫だよ。」



答えたのは砂川さんではなくて佐伯さんだった。



「元気さんは海を越えてまで冒険に行った。」



綺麗な青空の下、雲から出てきたのか太陽の眩しい光りが佐伯さんに当たる。



「この世界は弱肉強食。
綺麗にしか生きられないような奴は悪いこともしてきた奴に簡単に食われる。
だから冒険をしないといけないの。
良いことだけじゃなくて悪いこともする冒険をするの。」



「面白いね、誰かに言われたの?」



「幼馴染みの両親が私達子どもによく言ってた。
その夫婦はマツイ化粧品の代表取締役に就任して、息子の1人は永家財閥の本家の娘と結婚した。」



「ああ・・・うちの社長の幼馴染みだっていうご夫婦か。」



佐伯さんが怖いくらい強い目で頷き、それから私のことを真っ直ぐと見てきた。



「守りたいと思うモノがあるならそれを守れるくらい強くならないといけない。
守りたいモノを守る為にぶっ壊すこともぶっ殺すことも出来るくらい、強くなれば良い。」



太陽の光りを浴びる佐伯さんが満足そうに笑った。



「私はこんな心臓とこんな醜い身体で、二十歳までの自分の人生を守りきった。
色んなモノをぶっ壊したし色んな人の心をぶっ殺した。
守りたいモノがあるのなら強くなるんだよ、純愛ちゃん。
こんな所で嘆いているだけじゃ何も始まらない。」



綺麗な青空の下、眩しい太陽の光りの中、綺麗な庭園で聞いた佐伯さんの言葉。



佐伯さんの姿。



この女の子こそ、芸能人みたいだなと思った。



この女の子こそ、経理部の部屋の中に留めておくには勿体ないと・・・。



佐伯さんからの言葉をしっかりと受け取りながらも冷静に、そのことは考えてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

処理中です...